ろぐ | ナノ


!死ねた注意





腹の中で刀が通る感触がわかったのだが、不思議と痛みはわかなかった。
元々立ってるだけでもやっとだったこの身はすでに痛みを忘れてしまっていたのかもしれない。膝ががくん、と鳴き、己の体が地面へと引き寄せられる。

地に落ちた己は、濁った自分の色をいっぱいに広げる。止まる事は、ない。できない。おそらく、これは、死のきっかけとなる傷だろう。

視界の何もかもがぼやけ、ゆっくりとした動きに見えた。敵武将がなにやら叫んでいるが何も聞こえない。嗚呼、死ぬ前に悪くなるのはまず耳だったのか。

ぼやける視界に、濁る赤色とは違う赤が見えた。それは、透き通った、綺麗な赤色。地面にそっとそれは這っていた。

見覚えある、赤い糸。

糸の先を目だけで追ってみれば、己の右手に到着した。そっと開いてみれば案の定、紙でできたただの筒で。己はそっと笑い、大事にそれを撫でた。
そしてどうしようかと考えた。
答えを決めてなかった。電話に出るのか、出ないのか。
どうしようかと考える。
瞼は重くなるばかりだ。



その時ふっと思った。
答えはどうでもいい、ただ彼と話したい、と。
彼の声がただ、聞きたかった。
もう一度、愛を伝えたかった、伝えてほしかった。


震える手で包み込んで、口に被せて小さく呼んだ。

「佐助、」
もう一度、
「さすけ、」
もう一回、
「さすけ、」


「‥‥だんな、」

泣き声が聞こえた。
それでも声が聞こえた。
その瞬間、ぶわっと涙があふれかえってきた。ぼろぼろと流しながら、押し潰れて掠れた声で愛おしい名を呼ぶ。

「さすけ‥、お前の‥声が、聞きたくなった‥」
「だんなっ!だん‥だんなっ!真田のだんな‥っ!」

耳はとうに悪くなっていた筈だった。なんと都合のいい耳なのだろうか。愛おしい音しか、拾えない。

「これから‥おれは‥、無に、なって、お前は、新たに‥生まれる。けれど‥佐助、よく、聞いてくれっ。俺は、お前を、あいしていた。なにより、あい‥しておる。」
「わかってる‥わかってるよだんな‥っ」
「だから、俺が居なくとも幸せに生きてくれるか?」
「うん‥うん、大丈夫だ、ねえ旦那」
「‥なんだ」

佐助の表情はどうなっているのだろうか。いつか見たあの綺麗な顔で泣きながら笑ってくれているのだろうか。

「俺様だってあいしてる」
「わかっておるわ」
「ねえだんな」
「なんだ」
「待ってる」

視界のぼやけが白を作り出し、いつの間にか黒にすり替わっていた。ああ、これが死ぬ前に見る視界か、だなんて冷静に受け止めていれば、彼は耳元でちいさくこう言った。

「ずっと、待ってる。」















かたかたかた、と揺れる車内で目が覚める。頭を振り、小型映像パネルに今は何時だ、と訪ねれば9時と12分だと言う答えが返ってきた。嗚呼、いけないと隣の壁に設置されたボタンを押す。

「スイマセン、降ります!」

誰とも無くそう叫べば、自動操縦型のタクシーはゆっくりと停止し、下降していく。

危ないところだったと呟く。地面を走る車と違って、宙を浮く車は揺れが少ないので衝撃が無く、かといって気持ちいい小さな揺れはあるので思わず気持ちよく寝てしまっていた。ついでに地面を走る車は自分が生まれるはるか10年前に作られるのが廃止になったらしい。

急いだはいいものの、これは完全に学校を遅刻した時刻である。仕様がないので今日は病欠として家に帰る事にした。うん、そういえば熱っぽい気がしないでもない。

もう一度、今度は行き先を家へ変えたそのタクシーに乗り込む。
小さく揺られながら、懐かしい夢を見たと、一人笑った。

瞳を閉じ、そっとあの顔を思い出す。
今まで見てきたもので一番美しいそれを、生まれ変わった今でも忘れることができない。
声を思い出す。あの声もまた、一番綺麗な音を奏でていた。


そっと視界を広げ、そして少し声を上げた。

「えっ‥」

その声には喜びを入り混ぜた。
この声が、もしかしたら向こう側に聞こえてしまったかもしれない。

自分の小さな両手の中に、それはあった。
もう今の世界では作られることのない、紙筒と赤い糸が。
俺は思わず幸せに微笑む。
この瞬間のために、俺はずっと待っていたのだ。
そっと大事にそれを両手で包み込み、口に添える。

息を小さく吸い込み、できるだけ元気に問いかけた。



「もしもし!さすけか?」

すると奥から小さな笑い声が聞こえる。少しだけしわがれた声は、紙筒をそっと震わした。

「これはこれは、弁丸様ですかお懐かしい‥」
「ははは、佐助!歳をとったな!いくつだ?」
「84でございます‥」
「そうか!おれは来月で10になるぞ!」
「お元気そうでなにより‥」
「おまえこそ!そこまで生きてくれてありがとうな」
「あなた様が自ら犠牲にしてまで生まれさせてくれたこの身。大事にさせてもらってます‥」
「うむ、ならば俺もこの体を大事にするぞ佐助!」

俺は幸せを噛みしめる。
シートにゆっくりと沈みながら、少しだけ声を落とし、問う。

「待っているというのは、この事だったのか佐助」
「ええ‥」
「ならばまた一週間よろしく頼むぞ」
「はい、私が死ぬ、一週間前までは」

その言葉に少し悲しくなったが、己はすぐに首を振った。
己が思うに、幸せと悲しみは同じではないかと感じる。幸せにもいつかはおわりがある。だがしかしまたこの先にもまた幸せがあり、また別れの悲しみもあるのだ。
これが、そうなのだ。

「大丈夫だぞ佐助、いいか、俺らはお互い触れないし会えやしないがな、これだけは言えるぞ」

俺はいつぞややったように、小さな小指に赤い糸を絡ませた。それを満足げに大きくかかげ、目を細めながら見上げて言う。


「俺らは運命の赤い糸で、結ばれている」



end.






――――――――
あやかさんリクの「悲恋ではない切なくて甘い真田主従」でした‥??‥?アレ?コレ話重くね??アレ‥?甘‥アレ??汗
死亡する時点で甘ではないごめんなさい返品可です!ウワアアごめんなさいい!
わかりにくいですが、会えないけれど自分が死ぬ一週間前に相手と話せるといったそんな感じです。佐助が「待ってる」っつったのは、生まれ変わった佐助が死んだ後だんなと同じように神に頼み込んでそれがエンドループ‥みたいな‥本当にわかりにくくてスイマセン‥!返品いつでも(ry
あやかさんリクありがとうでした!



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