ろぐ | ナノ





神がいるのだとしたら、きっと人間の形はしていないだろうと思っている。
何故ならば、人間というのはもっとも醜く、そして愚かな生き物だからだ。(と、己はそう思っていたし今もそうだと思っている)
自然を簡単に躊躇う事無く壊し、食欲のためには仕様がない殺生、という行動が、ただの私利私欲のために行われていたり、挙げ句の果てには、同族までも手に掛けてしまう、愚かな生き物。
もし神がいるのなら、そんな愚か形ではないだろう。想像力を欠けている自分には頭の中でその形を描くことはできないが、きっと、綺麗な形をしているんだろうと感じる。

もしくは、居ないか。

さて、こんなに人間に対して文句をつらつらと並べた己だけれども、かくいうそんな自分も人間だ。それも、さっき言った例そのもののように。数え切れないほど、同族に‥、人間に、手をかけてきた。
生きるために必要不可欠だったのではない。今はそう言い切れるがはたしてあの頃の自分はそう言い切れただろうか。
時代というのは、悲しい。

だからけして自分はその拭えきれない罪を永遠に許されはしないと悟っていたし、そう許されてはいけないと思っていた。
もしも。もしも神がいるのならば、もう二度と自分は生にめぐまれることはないだろうと。そう思っていた。




ぽん、と世界に再び生まれてきたその瞬間を己ははっきりと覚えている。薄い膜を突き破り、狭い道を通って苦しげに世界の空気を久々に吸い込んだあの瞬間。
その視界‥――たくさんの視線をこちらに向ける人間達と自分の体‥―を見た、己は思わず空に両手を掲げ、うぎゃあぎゃあと泣いてしまった。言葉が上手く出ない。まだ脳が覚えてなかったからそれは仕方ないことではあったが、それだけではない。
また人間という存在で生まれてこれた喜びでぎゃうぎゃうと泣いた。神はもう一度己に試練(政宗殿だとこれをチャンスだと言った)を与えてくれたのだろうか。こんな、己に。
いやもしかしたら神なんて人はいないのかもしれない。もしいたのなら、己を許すはずない、ましては野放しなんてものはしないだろう。
己は神に会った事などないしましてや見たことすらないから、存在するのかどうかもわからないが。

もしいたときのために、祈っておこうと己は幼い頃から今までずっといるかどうかわからぬ神に向け祈りを捧げていた。
叶う筈などないと悟っていたその願いは、己のただのエゴだったのかもしれないのだけれど。



(あやつと、もう一度巡り会えるよう‥)








そして今、己は自身が生まれてきたあの時と同じように、空(くう)に両手を掲げ、しかしあの頃とは違った声質で泣きわめいた。両手をただただそれに向ける。
一歩、二歩と近づくのに比例するかの如く、視界はだんだんゆらゆらと揺れていった。その視界に雨が降る。それでも構うもんか、と己は見えないその世界でそれにしがみついた。

どうやら、神は存在するらしい。

己はただただそれを抱きしめていた。わんわんと泣き叫ぶ。道端だろうと人目が多いのだろうとそんなことなど、この際どうでもよかった。
重要なのは、今、ここに、こいつがいるということだ。

どうやら、神は存在するらしい。

自分より先に死んだこいつは自らここへまた生まれようとはしないだろう。罪悪感で押しつぶされて溶け消えて雲の塵になっていた筈だ。
神がいたからこそ、彼はここにいるのだろう。
己は泣いた。彼をきつくきつく抱きしめながら泣いた。

嗚呼、神は彼の綺麗な髪の毛の一本一本まで愛情こめてまた作ってくれたのだ。それを考えればこの世界の彼をこれからはもっともっと大事にしていこうと、そう思った。
きっと、そうするために、そうさせるために、自分はこの地に生まれてきたのだろう。
彼を見つけるために。彼のそばにいてやるために。彼と笑うために。彼と話すために。彼を抱きしめるために。
罪だらけの世界で、掴むことができるはずがなかった愛情を、彼に注ぐために。




「ああ、神は人間を愛して下さっているようだ、」



神はお前にも愛情を与えてくださった、本当にお前が生まれてきてよかった。
そう素直に言えば、今先ほどこの一生で初めて会ったその男は腕の中で幸せそうに苦笑した。
己にそっと手を伸ばし、俺様に愛情を与えてくれる神様ねえ‥と小さく呟きながら、細い指先で涙を拭ってくれた。


「ねえ、それって旦那のこと?」


やんわりと優しく微笑むその笑顔に、ああ神はこんな綺麗な顔をしているかもしれないと初めてみたその美しさにそう思った。



















―――――――
スマン、何が言いたいのかわたしにもわからないんだ‥(・ω・`)



有神論

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