手紙 | ナノ




「よし、じゃあさ、聞いてくれよ孫市!このでっかい戦が一通りケジメついちゃったらさ、俺の想い、一回でもいいから頭の中におさめてみてくれないかな?」


カラスはそう戦前に戯れ言を鳴いた。
じゃあってなんだ、なに勝手な事を言ってるんだ、お前はカラスだな。
色んな言葉を吐きたかったけれど、結局は面倒で片付け、それをまるごと無視をした。
それでいつも通りのはずだったが。
なぜだかその時ばかりは、どうしても。

振り返ってしまった。

そこにはへらへら顔のやつが立っていて、そして、花が綺麗に彼の背景をつくっていた。

「じゃあ後でな!孫市!」

にへら、と笑えば、やつは刀を担いで、わたしとは反対の道を歩き出した。
その背中をただ見つめる。
淋しい背中なのだと、わたしはその時なって初めて知る。
一人で戦うのは、あまりわたしは好まない。仲間と共に戦い抜くからこそ、勝利は導きだせる。故に我らがそうであった。


「頭の中に、か。まぁ、いい。一度だけなら入れてやる。」


そう小さく言ったのは、やつに対する同情からではなかった。
仲間だと思ってもいいと思ったからだ。

そう、思ったんだよ、前田。







「なぜ、お前は」
片膝を置くと、太股におさめてある銃がすこしこすれた音を出した。落ちてきた髪が頬をくすぐるが、耳にかける手間すらもどかしかった。

「こうも、‥‥カラスなんだ」

焼けた野原に、似合わない花びら。
無数広がるその色の真中は、黄色がただ寝そべっていた。

「戦はもう終わった。我らは徳川との契約を解除し、同盟を無くす。故、その前に言ったらどうだ、今なら、頭の中に入れてやる。言えばいい、お前の」

「無駄だ。死んでる。」

金髪の忍が、木の間から声を出した。

「知っているだろ?そいつは、もう死んでる。」


嗚呼、ああ。

なるほど、道理で。

動かないのか。

「道理で、笑ってないわけだ‥」


そっと、初めてやつの頬に触れる。
意外に、たくましかった。
いつも、へらへらと笑っているから、意外だったのかもしれない。

「そうか、前田、お前‥死んだのか‥‥」

何故だか、やつの死に顔が、なんだか淋しかった。頬に涙の跡があるからかもしれない。
淋しかったのだろう。
彼は、一人ではないようで、しかし、孤独だったのだ。

だからわたしは、仲間だと、思ったのだ。

「やっと、お前の長そうな話、聞いてやろうと思ったところだったのにな‥‥」

風がふわりとふけば、何かが揺れた。
やつの髪にささった青い花だ。
いつぞやの、わたしに差し出した、あの時の花だ。
受け取らなかった、どこにでもありそうな、しかしながら、たった一つだけの花。
わたしが受け取るまで、この男は、ずっと持ってるつもりだったのだろうか。
もし生きていたら、今頃これが、わたしの目の前に突き出されていたのだろうか。

そっと、それを手にとる。

男の笑った顔を思いだした。
間抜けな、あの顔だ。


「‥‥‥このっ、カラスめ‥」


花びらに、雫をさした。
それがこぼれ、やつの頬へ落ち、伝う。
やつが泣いているように見えた。それがまた、淋しいように見えた。
やつは泣いていた。
わたしもやつも泣いていた。



何故だか、淋しいような、気がした。













枯れた花に水を注いでも手遅れだっていう話。



慶→(←)孫

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