おはなし 8/13 17:53

!5部終了後
!悲恋ブチャトリ








「ああ、そう」
私ね、あなたの事が好きだったみたい。
思い出したかのように彼女は息と表した二酸化炭素にその言葉を乗せて吐き出した。自然に、当たり前と言うように。
その言葉に自分の中で嬉しさはなかった。絶望だけが無い心臓へと突き刺す。体がないのに、どこか、ああ胸か、‥胸が痛かった。

俺はこの少女に淡い恋を抱いていた。
しかしそれは、短すぎたあの一週間の逃亡劇の中で得たのではなく、その日々が懐かしいと感じるようになった月日に得たものだった。
俺という死人は、生きて幸せになるべき少女に叶わない恋を抱いてしまった。はずだった。
少女は今、この俺を好きだったと発言した。この言葉が何を表すか。さきほど己が使った文字を表す。絶望。文字通り、望みが絶滅したのだ。
少女は、死人の俺に恋をしてしまった。未来がない、少女を幸せにできるはずなんかない、この死人を。もう、眼球には映ることが許されないこの透明を。彼女は好きと言ったのだ。
俺は十二分わかっていた。あれから何年もたち、いまだにこうして自分の墓に通ってくれている彼女は、もう長いこと己を愛し続けていてくれたのかということを。
そして絶望した。彼女はもう、見えない相手を愛し続け、永遠に誓うの愛を生きた男に捧げる事は望めないだろうと。
まるで彼女が呪われているみたいだった。そうだとしたら、おそらく呪っているのは己か。少し苦笑を風に投げてみるが風は無視してただ流れていった。

俺は少女を愛していた。しかし、その愛は届かなくていい、届けたくはないと思っていた。何故なら少女は幸せになるべきだったからだ。
少女がいつか素敵な男と結婚して、そして巡りゆく月日の中で少女と似た子が生まれ、家族で海に訪れたり、笑顔が絶えない、あの苦難しかなかった、彼女には似合わない記憶が埋もれてしまうくらいの幸せに、少女がは包まれるべきだとそう望んでいた。

ああ、その願いすら、死んでしまわなければいけないのか。


「私はあなたが好きだった。好きなの。」
嗚呼彼女は毎日口にするのだろうか。見えないその空気と化した死人に好きだと愛情を与え、毎日毎日、飽きずに恋い焦がれるのだろうか。
相手が生きた人間だったのなら、飽きて嫌いになどできるのだろうに。嗚呼、どうしてよりによって、俺なのだろうか。
罪悪感と絶望が、死人には生まれるはずない涙を作り出してしまい、ただただ笑うしかなかった。苦く、苦く。

「ねえ、あなたは、あなたはどうだったのかしら‥?」
自分の人生を狂わされた小娘を、好きになんてなれないかしら、と彼女は泣いた。
ただひたすら泣いた。それでも好きなのと叫びながら、綺麗な瞳をじらじらと涙で揺らしていた。

「せめて、嫌いではなければいいな」

この言葉さえ、届いてないかもしれないけれども。
彼女はそう言ってとうとう泣き崩れてしまった。支える手が、俺にはなかった。悔しい。

届いてる。
そう呟いた。

届いてる。届いてるぜ。泣かないでくれトリッシュ。

届かなくていいと思った感情よ。今までのは嘘だったんだ。お願いだ、届けてやってはくれないか。可哀想な少女に、好きだというこの愛を。
そうすればこの少女はどれだけ救われるだろう。俺を愛したのはいい思い出だと忘れ、未来を見つめる事ができるだろう。
嗚呼、それなのに、伝わらない。
俺は虚しくなって、悲しくなって、辛くなって、抱きしめたくなって、彼女の額にそっとキスを落とした。



「俺も、君が好きだ」








死人に口なし
(だからキスなんか出来やしない)



――――――――
トリッシュの事が好きなブチャラティが書きたかったんだ。そしたら病んだんだ。ごめんだ。









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