おはなし 7/22 00:59



!5部終了後
!残念ながらフゴたんは行方不明










「もしも、」
ジョルノがふっと仕事中であった手を止め、デスク前のソファーに座る俺へ視線を投げてきた。

「あん?」
「もしも、という考えをした事はありますか、ミスタ、」

もう仕事は中断するらしく、ペンを置いてこちらへ歩み寄ってきた。
「書類今日中までに、だからな」と言いながら俺がソファーの右端によれば、「わかってますよ」とジョルノは左隣に音すら立てずちいさく座った。

「で‥もしもな話だっけか」
「ええ、そう。もしも、あの時ああだったら‥こうしてれば‥、なんて考えたりしますか?ミスタは」
「‥‥いいや。」

俺は少し考えた後、小さく首を振る。
ジョルノは少しおかしそうに、困った表情のような笑みを作った。

「意外、です」
「そうか?」
「あなたなら、昔の日常を懐かしみ、何かしら後悔ややり直したいといった気持ちがあるのでは、と思いました」
「‥まぁ、あの頃が、懐かしいなとは思うし、戻れるなら戻ってあいつらと笑っていたいさ。」

でも、と俺は長い長いまばたきをする。暗闇の中に、あいつらの事を思い浮かべた。

最初は、今もこの世界のどこかに居るはずのあいつ。俺らと一緒に来なかった事による罪悪感からか、もう俺らの前に姿を見せる事はなかった。真面目で幼い彼は、きっとこれから先もそうするつもりだろう。
罪悪感なぞ持たずにいいものの。置いていったのは、俺らの方なのに。
会えたなら、謝るべきなのはたしかに俺らの方なのだ。彼が言葉を発する前に遮ろう。置いていってすまないと。そうすれば彼はあの頃のように少し困った表情で怒り出すに違いない。そして微笑むように泣くのだ。

彼を思い出していれば、自然に、あの眩しい笑顔を与えてくれていたあいつに繋がった。
誰よりも笑い、誰よりもうるさく、誰よりも泣き虫で、誰よりも馬鹿で、そして誰よりも優しかった、そんなあいつ。泣いたり笑ったり怒ったり、表情がころころ変わるのが不思議で、まるで天気が変わる空のようなやつだった。
一人になるのがすごく嫌いなんだ、と昔聞いた事があった。孤独がすごく怖いのだと、理由はわからないが、そう消えそうなか細い声で言ってた。だから彼はアバッキオを一人置いていくのに拒んだんだろう。涙を流したのだろう。
そう、一番優しくて可哀相な子供だった。
それでも彼は今満足なのだろう。死の世界に引きずり込まれていたとしても、彼なら笑ってそうだ。一人ではないし、なにより、こちらの人生を見つめて微笑むなんて行動、いかにも彼がしそうだからだ。

ああ、あの男はそう簡単に微笑まないだろうな、と俺はシルバー色がかかった長い髪を思い出した。
常に皆の一歩後ろを下がり、物事を冷静に見つめる男だった。腕っ節も一番強くて、頼りがいがあった。
冷たい男だったけれど、案外かわいいところもあったような気がする。彼は道で猫を見つけるといつも、「チッチッチ」と小さく呼ぶのだ。いつだったか、うっかりみんなの前でそのクセをやってしまい(その時俺も初めてそれを知った)、ナランチャが盛大に笑い、俺もこらえながらそれでも笑った。
彼が第一声に「ついていく」と言った時は、驚きが隠せなかったけれども、その言葉に後押しされて船に乗ったのは、まだ誰にも話してない。
落ち着ける場所、というのに、同感したのだ。

俺を冷たい籠から出してくれた、場所を与えてくれた、あの人の隣。
それにはチーム皆同感するだろう。みんな、あの人に憧れ、尊敬し、大切な人、という地位にあの人を置いているだろう。
彼には本当に感謝している。今まで恥ずかしくて言えなかった、いくつもの言葉が、彼に対して沢山あるのだ。沢山、沢山。言いたいことが、あるのだ。
嗚呼、


会いたいと思う。
呆れる彼にも。勉強に苦戦中の彼にも。ジョルノのグチをこぼすアイツや、そして、そんな景色に一人小さく幸せそうに微笑んでいるあの人にも。
会いたいと思う。



「たしかに、もしもみんながここにいれば、もしもあの時みんな死んでなければ、いやそもそももし、トリッシュの護衛なんてなければ、なんて」

俺は長いまばたきを止め目に少年を映す。少しだけ、不安げに見えた幼い表情が珍しくて、どうしてその表情をしているのか俺には検討もつかないが、その不安を和らげようと思った。少しだけ、優しく笑う。

「思えば、楽にはなるだろうな。でも、それだけだぜ。だからってポンっと帰って来たりするわけがない。」

そう言えば、ジョルノは長い睫毛を小さく揺らし、そっと目を伏せた。微笑を浮かべたジョルノは少しだけ自分をあざけるように言う。

「僕は、もしもの事ばかり、考えてました」
「意外だな」
「そうですか?」
「ああ」
「逆ですね、僕ら」
「ああ」

少しだけ沈黙が流れた。少しだけだ。
最初に沈黙を破ったのはジョルノだった。

「僕、涙目のルカを殺したんです」
「えっ」
「ポルポも僕が自殺とみせかけ殺しました。」
「えっ」
「‥‥本当です」
「‥初聞きだな‥」
「初めて言いましたもの」

そういって彼は少しだけ困ったように笑った。後ろにある三つ編みを自分で撫でながら呟くように言う。

「僕がもし、涙目のルカを殺さなかったら‥僕はブチャラティとは会えませんでした。」
「‥‥‥」
「僕がもし、ポルポを殺さなかったら‥ブチャラティは幹部になれずにいました。」
「‥‥‥」

「もしそれらの道だった場合、確実に彼らにトリッシュを護衛する指示は来なかったでしょう。つまり、死ぬはずはなかった。」
「まぁ、そうだな‥」
「フーゴもいまごろいらいらしながらナランチャに勉強を教えている筈でした」
「うん」

俺は腕を広げた。深い意味はない。ただ、まだ幼い歳である少年を、この腕の中に包み込んであげたいと思ったからだ。
ジョルノはただ身をこちらへ預けた。男同士のハグでも、今では一切の抵抗がない。
いまだけは、いまだけは。
弱虫になっていいんだぜ、ボス。

「たしかにそれもいいかもしれねぇ。お前と会えなくなるのはちと気がかりだが」
「‥‥この道しか、なかったのでしょうか」
「ん?」
「僕らしかいない、こんな道しか残ってなかったのでしょうか」
「‥‥よくわからねぇがよぉ、俺にはよ‥」

ノックもせずにドアを開ける音が聞こえた。ボスが仕事するこの部屋に無断で入るやつと言えば、あいつしかいないだろう。ヒールの音が、遠くから耳に響く。

「これで良かったと思ってるぜ、ジョルノ。これでいいんだ。たしかに、あの人たちが守り抜き、望んでいたものが、まだ咲き続けているんだからよ」

俺がそう言い終わったと同時に、ジョルノがそうですね、と肩をすくめて笑うのと、すこし高い声が部屋に響くのがほぼ同時におこった。


「チャオ!ジョルノ、ミスタ!タルト焼いてきたの!みんなで食べな‥‥あら、お邪魔したかしら?」


ハグをしていた俺らを見て、おかしいというようにかわいい唇を歪めながら笑う彼女に、俺らは安堵の笑みを与えた。
そうたしかにそこにはあったのだ。
彼らと、俺らが必死に守り抜き、望んでいたものが、たしかにあったのだ。

だから、彼女が笑っているかぎり、後悔はよそうじゃないか。
そうすればきっと、あの人たちも幸せそうに微笑んでくれる。








(そう、これが、唯一のみんなが幸せになれる方法だから)











――――――
完璧ウソですね。フゴたん幸せにならないフラグですよねこれ。<スマン、ありゃウソだった。
でもフゴたんもトリッシュが幸せだったら泣いて喜ぶと思うんです。愛おしいあの人たちが命をかけて守り抜いた人が幸せでよかった‥てくさいことを彼はいってくれると思うんです。仲間にならず、一般人になっても仲間を遠いところでそっと見守るフゴたんベネ。トリッシュだけ見守る形でもすっごくベネ。トリッシュは組織とかには入らずにごくふつうのカタギの女の子希望。







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