おはなし 5/13 23:58
!穴あき幽霊さんシリーズ
!四部後
!不覚にも某さんが書いた幽霊さんと仗助に萌えた









「この人ってどんな人だったんスか?」

承太郎さんに、一つだけ答えが辛いだろう問いを投げかけた事がある。
指で差された先、写真に写るその赤毛の癖っ毛を、承太郎さんはいつもあまり感情を滲ませない瞳を、めずらしく細めながら見つめた。
その写真は、かのエジプト戦の際、まだ皆が無事全員集合できた時に撮ったものだと、いつだったか承太郎さんが言っていたのを覚えている。
まだ、無事、全員集合できた時、その単語に込められた意味をぬぐい取れないほど自分は馬鹿じゃあない。あまりエジプトでの戦いを口にしない承太郎さんを今まで見てきて、全員が無事だったんだなと安堵するわけがない。
この時が止まっているその紙でしか存在できない人がいるのだ。そのくらい、俺にだって理解できた。

承太郎さんは誰が死んだか、だなんて一度も話した事はないしそもそもこいつは誰でこの人はこんな人だった、という話すら話してくれなかった。DIOの事くらいは少なからず話してはくれたが、なぜか、‥もしかしたら彼にも悲しむ感情があるからかわからないが、仲間については話してくれなかった。

「この人、俺と同じくらいッスよね?この時。どんな人だったんスか?」

承太郎さんからの口からは一切聞いた事ないその人を、俺は知っている。写真に浮かべた緊張ぎみの微笑みだけじゃない、悲しい顔をするのも知っているし、幸せそうに目尻を下げた笑いもする事を、俺は知っている。

「教えてくれないスか、承太郎さん、」
あんたの口から聞きたいんだ、

承太郎さんは帽子の下からチラリとこちらへ目線を投げた。しつこい、という念が籠もった飽きれた視線だった。しかし負けじと諦めませんよというように苦く笑って見せる。

あんたが話してくれるまで諦めないさ。
だって初めてなんスよ、目の前にいるのに、あんな痛々しい傷を塞げないのは、初めてなんだ、
君では治せないなんて言っちゃうんですもの。だから、あんたの口で塞いでくださいよ、その、あんたには見えてない傷を、












ある日いきなり承太郎さんの肩にこの俺とまったく面識のない人が座っていて、さすが承太郎さん、肩に人を乗っけられるのかすげー、なんて感想は持てなかった。見たその瞬間ギクリ、と心臓が鼓動を大袈裟に鳴らした。
その時の俺はあまり使えない脳で2つの考えを巡らせる。1つはその現象をスタンド攻撃だという仮定。しかしこれは違うのではないだろうか。もしスタンド攻撃で承太郎さんの肩に乗ったそれがスタンドだった場合、きちんと彼に見えているはずだ。しかしどうやら承太郎さんには見えていないようだしどうやら気づいてすらいないようだ。いつものすまし顔を健在させている。
だとすると、もう一つの仮定だ。俺はその類いを前に一度見たことがある。しかし彼女はああもグロテスクな傷を生々しく表現しては居なかった。服の下にはあるのだと少女は言っていたが、こちらの場合、その傷を隠してくれるはずの服をも貫通しちゃっている。傷穴が丸見え、むしろ向こう側まで丸見え、なのである。それに少女の場合は友人から会う前に何度か説明をうけていたし、いきなりぽんっ、と現れたわけではなかった。だから、怖さなどひとかけらもなかったし、むしろ可愛い顔をしているなと思ったほどであったが、
あったが、この青年には大袈裟でもその言葉を捧げることはできない。
それは幽霊だという事を踏まえてもある。傷が何より、ひどい。ひどすぎて、怖かった。

驚きと、なにより恐怖で目を見開きながら、動けず(金縛りってこの事か)その青年を凝視し続けていると、先ほどまで何故か少しにこやかだった青年は表情を一変し、同じようにぱちぱちと睫毛を揺らしてこちらを見つめてきた。


「もしかして‥え?あのもしかして‥だけど、仗助くんさ、僕の事見えて」
「うわあぁぁ!喋ったぁぁっ!!」
「うわぁぁぁ!叫ばないでびっくりするよ!!」

「‥?なにしてんだ仗助」


無表情のまま首を傾げる承太郎さんに抱きついてなんとかおちつこうとするその青年は、うわーどうしよう!と全然困ってなさそうにそう言う。

「あー、あーあー‥、ちょ、とりあえず、お互いおちつこうか、仗助くん、」

穏やかに喋り出した青年の、その顔に、あれ?と俺は首を傾げる。おかしい、たしかに自分はこの青年の知り合いでもなんでもないけど。
どこかで、見たことがある気がした。
どこだっただろうか、と考えていれば、青年はくすくすと俺の顔を見つめて笑い出した。

「まさか、ジョースターさんに隠し子がいたなんて、ほんと、ははは、ほんとおかしい、ははっ、もう笑いすぎてお腹いたい」

全然冗談にも聞こえない恐ろしい単語を出すその人を、俺はたしかに見たことがあった。そうだ、写真の。
あっと、俺は思わず、机の上に飾ってあった写真とそのぷかぷかうかぶ人を見比べる。その穴と、体に少し霧がかかったところ以外は、まったく同じで。

「うん、ご名答」

そういってその幽霊は音のない拍手をこちらへ贈る。


「はじめまして、仗助くん。僕の名前は花京院典明。エジプトでDIOと戦った一人で、それで死んでしまった、承太郎のおともだち、」

だったらいいな、と消極的に発言しながらしかし幸せそうに苦笑する、その青年がすごく印象的だった。
こんな痛々しい傷を身ごもった幽霊でも、こんな生きてるような温かい笑顔が作れるのか、なんて。










これで二人目なのだと、花京院さんは言う。
「といっても、徐倫ちゃんはまだはっきりと見えてなさそうだけど、ね」
「徐倫ちゃん‥?」
「そのうちわかるさ。おしえてもらえるといいね、承太郎の叔父さん?」
「うっ‥たのしそうッスね‥」
「ああ!すごーくね」

だれかとお話したのはもう何年振りだろうか。花京院さんはそう言い、静かに微笑みながら明後日の方向を眺める。
承太郎さんの部屋から出た後、廊下を歩いていたら「送っていくよ、」と壁からにゅーっと出てきた時は大層驚いたしちょっぴりだけ怖いと思ったが、こうして、笑ったり、いろんな表情をする花京院さんを見てると、どう考えても死んだようには見えなかった。
しかし視線を落とす。そこには大きな落とし穴があって。それを見るたび、ああ、この人は生きてはいないんだという事を知る。


‥塞ごうと、思ったのかも、しれない。
ただその穴に手を伸ばした。傷に触れようとした。しかし、虚しくそれは通り抜けて、ゴールにたどり着かないで、なにもない場所まで手がすり抜ける。相手は幽霊体なのだ、もしかしたら、魂の形ならば、と俺はスタンドをだし、彼の傷口に触れる。触れた。

「あ‥」

一番驚いたのは彼のようで。俺も幾分驚いた。早速この悲しみしか埋まっていない落とし穴を塞ごう、とした。けれど、どういいことだろうか、塞がらない。塞がらないのだ。
がんばれ俺、まじでほんとがんばって、とぼやいていれば、花京院さんはすこしだけ苦笑を吐いて。でも、それがどこかすこし嬉しそうで。

無理だよ、と彼は言った。

「無理なんだ、君には治せない。だれでも、なおしたら、いけない」

どうしてそんな悲しそうな顔、するんスか。こっちが泣きそうになっちまう。そう思い、手を離す。こんなにも自らの能力が無力に感じたのははじめてだ。
それから花京院さんとわかれた後も、彼の落とし穴の事で、頭がいっぱいで。

“きみ”には治せない

(なら、一体誰が治せるんスか‥)

愚問だった。
もちろん、そんなの一人しか、居ない。














「仗助くん、もう止めてくれ」
質問に耐えきれなくなったのは質問した俺でも、された承太郎さんでもなく、花京院さんで。
「なんでスか、」
「‥死者の事を聞いても仕方ないだろう。承太郎にはこれからがある。過去に関わった、“死んだ人”についてほじくり返しに聞いても、仕方ないだろう」

ちがう。わかるんだ。そんな大層な気持ちであんたは今、質問を遮ったわけじゃない。ただ、怖いんだ。承太郎さんの人生の中から自身が消えてくのが。それを、承太郎さんの言葉として表されるのが。この人はそれが怖いんだ。
わかる。承太郎さんが、中々質問を返さないのも。
花京院さんの死を口にするのが、もういないと認識するのが、彼には怖いんだ。
でも、そんなの、そんなのって‥!


「助す‥」
「逃げてどうすんスか!」

俺は叫んだ。必死に、それはもう、必死に。助けを求めるように、じゃないと死んでしまうかもしれないというように、必死に。

「過去から逃げていく奴に、明日なんてくる筈ないッスよ!少なくとも、お互い、救われは‥しないッス‥!放置を繰り返したんじゃあ、そりゃあ傷も治んねーよ!」

気づけばぼろぼろ泣いていて。あーあ、絶対承太郎さんに頭おかしいと思われてる‥ほら口ポカーンとあけとるし‥なんて思いながらすんすんと鼻をならす。

「‥忘れないであげてください‥。彼は形こそは無いスけど、確かに存在しているでしょ‥アンタの胸ん中で‥!」

己ながらにクサい言葉No.1だ。明日になればきっと恥ずかしくなって身悶えるだろうが、もう構うもんか。犠牲になれ俺の明日!


「傷を治すのは、彼から逃避した世界じゃないはずッス。真っ直ぐ過去を向き合えた自分自身でしょ」

きりっと顔をあげ、そう二人へ言えば、花京院さんは目を伏せ、承太郎さんは下を向き、‥‥吹き出した。

「ぶっは‥くくっ‥」

突然の事に、俺も花京院さんも目をまん丸くさせた。え、どうしてこうなったし。

「え‥ちょ‥承太郎‥さん?」
「くく‥は‥いや、悪い。あまりにもお前が中二みたいなセリフ吐くからな‥ふっ」
「わ‥悪かったッスね!厨二で!」
「いやッ‥大丈夫‥っ」
「全然大丈夫じゃないじゃないスか!」
「親友だ」
「あーあーそうス‥え?」
「親友だ。名は花京院、典明」

承太郎さんは写真を手に取る。
今にもいい笑顔で笑い出しそうなほど、目が優しかった。

「大切な人、だったんスか?」

俺の問いに、花京院さんが固まる。聞きたそうな、聞きたくなさそうな。そんな複雑の表情をしていて。
彼はお腹を抑えた。緊張したらお腹が痛くなる体質だったのだろうか。または、傷が痛んだのだろうか。

「そうだな。少なくとも、人生で一番と言っていい程俺を泣かせたくらいだな」
「ぅえ!?」

へんな声を出したのは花京院さんだ。カッと目を見開きながらうろたえて、承太郎さんから二、三歩離れながら壁に手をつく(つけないはずッスけど)

「泣いた?」
「ああ‥なんてったってな」

(はつこいのあいて、)

「だったからな。」

そう大事な部分を口パクで言った承太郎さんは、苦笑しながら帽子のツバを軽く下げた。
その行動に呆然とする俺や、泣いた宣言でパニクって今の重大告白を目撃できなかった花京院さんには目もくれずに、承太郎さんは続けた。


「大事すぎて、あまり人に話したくなかったんだ。おかしいか、仗助」


俺は勘違いしていたのかもしれない。花京院さんよりも、ずっと、彼の方が傷が深い。そうか、もしかすると彼はまだ、初恋を延長させているのか。
「おかしくないッス」

そんな彼の傷も、いつか近くにいる誰かさんがおまじないをかけて治してくれますよーに、なんて。

「全然!おかしくなんかないッスよっ」


役立たずの叔父さんは、そう思った。














―――――――――
かなーり前に某さんの幽霊花京院と仗助のお話しに萌えたので勢い余ってわたしも書いたらすっごい時間かかったという罠。もうオチとか忘れたからてきとうに書いてみたよてか花京院くんが最後らへん空気すぎワロタww‥ワロタ‥








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