おはなし 12/31 04:19


!花京院以外出てくるのみんな性転換
!花京院死ねた







人の死に対して「死んだようには見えず、まるで眠っているようで、今にも起きて動き出しそうだ」なんて比喩表現がある。
だが、そんな比喩表現なんぞ彼の死体から生まれてはこなかった。むしろ、逆だった。そのぽっかりと開いた体は、どう見ても、痛々しい死体にしか、見えなかった。
彼に対しての比喩表現をあげるとすれば、こうだ。
「まるで人形のようで、昨日まで笑っていた彼とは思えない」
触れてみればやはり冷たくて。聞けば承太郎が、溢れ出す水を吹き出しているタンクからその体を抱き上げたらしい。
冷たくて、だらりとした体。穴が開いていて、傷口は何時間も水に浸かったからか変色している。無表情で、動きそうにない表情。まるで寝ているようだった、とは言えない、それよりむしろ、

「まだ寝れないのか?花京院」

閉じきっている瞳を見つめながら、そう問いた。











ホテルのソファーに沈みながら、窓から月を見ていたら、少しだけいい香り付きの湯気が流れてきた。

「あっ」

声の方を振り向けば花京院で。今一番会いたくない人ぶっちぎりNo.1な奴が来た事で俺は思わず眉間(眉は殆ど見えないのだが)にシワを寄せた。
俺の気持ちなど知ってか知らずか、しかし表情はばっちりと見た筈の花京院は、無言のまま了解もなしにソファーの隣に腰かける。ソファーが小さいせいか、やけに距離が近い。

「いつも一番最初にがーすか寝る君が起きているとは珍しい」

女に言うようなセリフではない言葉を綺麗に言ってのけたやつは、まだマグカップに口をつけない。
怒っているようにだんまりと黙り込むという手もあったが、生憎今は2人きり。ぎすぎすした雰囲気もめんどくさかった。もっと言えば、もうあまり落ち込みたくはなかった。

「寝れないんだよ」
「はは、奇遇だなぁ、僕もだよ」
「じゃあコーヒーなんて飲むんじゃねぇよ」
「残念、ハズレ。これはココアだ」

僕、コーヒーあまり好きじゃないんだと、呟きながらやっとマグカップに口をつける。しかし長く啜ることなく、やがてテーブルにそれを置く。どうやら飲むにはまだ早かったらしい。今思い返せば、花京院は猫舌だった。

「話してみろよ」

たっぷりと間があったので、花京院のいきなりの言葉に肩をびくりと動かした。

「な、なにが」
「何か不安で眠れないんだろう君。僕に話したらどうだい?」

そうしたらきっと楽になるよ、とそういってこちらに笑顔を向ける花京院。
俺はすこしだけ苦笑しながら首を振る。

「いいよ、どうせ、あれだ。話したとして、絶対解決しないことだから」
「そんなの、話してみないとわからないだろう?」
「わかる」
「わからないよ」
「わかるって」
「いーやわからないね」

こうなれば意外に子供っぽい花京院は絶対引かない。俺は困った風に頭をかき、しかしながら本当にこまっていた。

これは言うしかないのか。

「怖ぇんだよなぁ‥」
「ん?」
「DIOとの対峙が近づくにつれ、怖くなるんだよ」

笑われるかと思っていた。しかしいつまでたってもムカつく笑い声が聞こえないと顔を上げれば、やはりそこには笑い顔があった。しかしながらそれはばかにしたような笑い方ではなく、優しく微笑んだ表情をしていた。

「な、なんだよ‥」
「いや、失礼。きみにも女性のような弱い部分もあるのだなと安心して‥」
「なんだよそれ!差別か!?」
「そうじゃあない。あーもう。これだからきみはいけないんだ。もうちょっとこう‥おしとやかにだな‥」
「ほらきた差別!」
「もう、そんなんじゃないって言ってるだろ‥」

花京院は少し照れくさそうに鼻をかく。戸惑ったとき鼻を触るのは花京院の癖だった。

「それでいいのだと僕は思うよ。傷つく事を怖がっていいと思う。君はなんでもかんでも考えずに突っ走っていくから心配なんだよ」

だから君が怖がってて安心した。花京院はいつになく満面の――本当に子供みたいな――笑みでこちらを見た。

「僕は、こう言ってはだめだろうけど、女性は女性らしく、男性は男性らしくあったほうがいいと思っている。偏見なんかもってはだめだと思うだろうけど、やはり女性は男性に守られる立場が一番だと思うんだ」
「それ納得できねーな。これだから男女差別ってもんがあるんだろーが」
「それは男性達の一部がおごってるからさ。僕はそうおごったりはしない」
「お前はいいだろうよ。でも、俺は‥守ってくれるやつなんか、いないしさ、」

こんな男まさりで、女っ気ない、復讐復讐といの一番に口にしてた女なんてだれが守りたいんだ。そうじめじめ小さくなりながら呟けば、クスリ、と花京院は可笑しそうに笑う。

「ポルナレフ、」
「あ?」
「だから言ったろ?君にも弱い部分があってよかったって」
「‥?」

「僕が君を守ってあげるよ」

なんてくさい台詞を真顔で言うのだろうか。俺は長い時間の間にその台詞を頭の中におさめ、理解した後に顔を真っ赤にした。
しかし当の本人は無自覚にその台詞を放ったらしく(やはりやつはどこかぬけているのだ)、呑気にぬるくなったはずであるココアをすすってる。
‥明日承太郎に言おう。てめーの彼氏無自覚で女おとしていくスキル身につけてるぞって。

「ま、守るって、てめー‥承太郎がいるじゃねえかよ‥」
「承太郎?」

意外なキーワードなのか、少しつり目が見開き、そして不機嫌になりやがった。どうしてだ喧嘩でもしたのか。

「‥承太郎はどちらかといえば僕を守ってくれるよ」

‥なるほど、強すぎて守れないということか。

そういえば昔、同じ台詞を小さかった今は亡き弟から聞いたことがある。
お姉ちゃんはぼくがまもるよ、と。無邪気な笑顔で。

ああ、この男は。

この男は、まるで無邪気な子供のようだ。何かを守りたいがそれが偉大なために自分の腕の中でじゃあ守ることができず、ならばと母なら守れるだろうという子供のように、近くのものを守ろうとする。
少し拗ねてしまうというところも、また。

「ふぁ‥」
「あ、眠くなったか?」
「ああ。だいぶ‥」
「じゃあ寝ちまえよ。カップは片付けてやるからさ」
「すまない‥でもぼく、承太郎を待ちたい‥んだ‥」
「あいつの一服は長いからなぁ‥いいよ先に寝ちまえ。俺からも言っておく‥」
「しかし‥」
「大丈夫だって」
「‥僕、ベッドに入ったら寝れないタイプなんだ」

まじかよお前本当にガキか‥。俺は盛大にため息をつきながら、花京院をベッドまで押していき、そこにやつを投げて毛布をかけてやった。

「しゃあねー、俺が子守唄歌ってやるよ」
「よけいねれない」
「ばかにしてんのか!」

花京院はちらりと俺を見、そして理由なんてないだろうが微笑んできやがった。その笑みがなんだかいつもつらくて、たまに笑わないでくれ、と思うときがある。
なんだかつらくて、泣きたくなって、ああなんだ自分って結構弱いのかと思い出す。

ごまかすように唇に歌をのせていれば自然と手が彼の胸を叩いていることに気がついた。恥ずかしくなって、謝りながら彼を覗けば、小さな寝息をたてていた。寝れないとかいいながら、案外早いリタイアだったなと俺はひとりでに小さく笑う。
花京院の寝顔を見て、ふと愛おしく感じた。弟が生きていれば彼と同じ年頃だっただろう、だからそれが弟と彼を重ねている原因になっているのだろうか。否、違うような気がする。
弟ともちがう、感情が胸をざわつく。何なのだろう。無性に泣きたくなって、胸が苦しくなって、とてもつらいのに、なぜだろう。このまま時が止まればいいのにと思ってしまう。
この弱い感情は、なんなのだろうか。

「ああどうやら俺は弱い女になりさがったらしい。だからどうか守ってくれよ、」

そういって眠った子供の額にオヤスミのキスをした。いい夢がみれますように、なんて、














「そんなに噛んじゃあ血ぃ出ちまうぜ、承太郎」
俺がそう言えば、承太郎がはっとしたようにこちらを見る。彼女の目には、たくさんの粒が溢れ出そうで、唇は手遅れだったらしく血が少し滲んでた。(ああ言うのが遅かったか、)

承太郎はまだ離さない。冷たくなったそのかさかさの手を。生きていたあの日、あったかいココアを包み込んでいたあの両手はあんなにあったかそうだったのに、こうも変わるものなのか。俺の目線に気がついたのか、さらにさらに承太郎はそれを握りしめる。

「守れなかった、」
「ばかいえ。お前のせいなわけねーだろ。それに男は自分で身を守るもんだぜ」
「俺の方が、強い」
「そうかね」

今にもこぼれそうなそれを、こぼさせやしないと俺は人差し指で拭う。ほらみろ花京院。お前が思ってるほど承太郎も強くないんだぜ。はやく守ってやれよ、抱きしめてみせろよ。

「お前は泣くな。笑えよ。じゃなきゃあいつが眠れねーぜ」
「お前だってさっきからずっと泣いてるじゃねぇか」
「俺はいんだよ。」

俺はぐしゃぐしゃに泣きながら、彼女に笑って、2つの手に自分の手を重ねた。

「大好きなお前が泣いたら、やつは寝れなくなるけどさ、だれも泣かないってなると、ほら、あいつガキじゃんか?だから寂しくなってよけい寝れなくなるから、友達の俺が泣くのが、丁度いいんだ。そう、友達の、」

耐えきれなくなって俺はそこで泣き叫ぶ。ああ、だめだ。やっぱり俺は弱い女だよ。女友達に一つの嘘すらつけずに、自分の感情に押しつぶされる弱い女。
ああたすけてくれ、俺をまもってくれと泣き叫びながらその冷たい手を額にこすりつける。すがっても、あの守ってやるといった子供の笑顔は、もうそこにはない。

泣き叫んだこの声を子守唄に、しずかに眠る子供。
その寝顔が愛おしくて、苦しくて、苦しくて、ああ、そうか、おれはおまえを、










――――――――――
今更知った恋心は、子守唄に揺られながら、しずかに眠った。








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