剣城とケンカした。 原因は何だったかよく覚えてもいないような些末なことだったけど、いつもの帰り道に並ぶ3つの影法師は、今日は俺と信助のものだけだった。 家に着いて、ケータイの電源を切って、布団を被りながら号泣して、ふて寝して。 8時ごろに起きてケータイを起動させると、20件くらいの不在着信。もちろん相手は剣城で、1件だけメールも入っていた。 そのメールを開くと、「俺が悪かった」の文字が。 俺は咄嗟にコートとマフラーをひっつかみ、木枯らし壮を飛び出した。 寝てる場合じゃないだろ、自分。あー、後悔。っていうか、最低。 ごめん、剣城。 一秒も迷うことなく剣城の家に辿り着くと、時間も遅いので庭を回って彼の部屋の窓へ直行。 ちらっと覗くと、おや、どうやら雑誌を読んでいるみたいだ。泣き腫らした目が痛々しい。うあーホントにごめん… こんこん、と控えめに窓をノック。 剣城はすぐに気付いて窓の方へと駆け寄ってくる。 その間に、俺は窓ガラスに息を吐き、白く曇らせた。そしてその上に、指を滑らせる。 部屋からでもわかるように、鏡文字だ。 まずカタカナの「ス」、それから「キ」。 剣城は最初、怪訝な顔をしてたけど、そのうちやんわりと頬を染め、それから少し呆れた顔をした。 そして重い音をたてて、窓が開けられる。 「あのなぁ、お前」 「剣城っ、ごめん!あの、俺」 「どうせお前のことだから、電源でも切ってたんだろ…」 それはもう気にしてない、と言ってから、剣城はちょいちょいと手招きをした。 「お前は"スキ"って書いたつもりなのかもしれないが」 「?」 招かれるまま窓枠から身を乗り出して、部屋の内側から窓を見る。と、 「あれっ?」 そこには「キス」の文字が。 「えーっとつまり?」 「つまりお前は並びまで鏡になると思ってなくて、左から右に「ス」と「キ」の鏡文字を書いたんだろ」 「ええぇっ」 そんなバカな!!!恥ずかしいにも程がある。 「あ、あはは…」 …とりあえず笑ってごまかす。 「…」 「…何?剣城」 何か言いたげな顔で、じっと見つめられる。やっぱり怒っているのだろうか。 「…仲直り」 あたたかな血の色が透ける剣城の薄い唇が、俺の少し乾いたそれと重なった。 「!!」 剣城からなんて、滅多にない。 「槍でも降るのかな…!!」 それもロットオブランス、なんちて。 「…おい」 「へへっ」 俺はもう一度息を吐き、ガラスを曇らせると、今度は間違えないように外から鏡文字で「スキ」と書いた。 剣城も息を吐き掛け、曇った窓に内側から指を滑らせる。 「天」「馬」「は」「バ」「カ」 「うっ」 滑らかに鏡文字を書く剣城。 負けじと俺も「バカ」と書くと、剣城は吹き出した。 「ぷふっ、は、ははっ、また逆になってる」 「えっ」 窓の向こうへと身を乗り出すと、「カバ」の文字が。 「バッカでぇ」 くすくす笑う剣城。 「バカじゃないよ!!うっかりしただけ!!」 俺はこほんと咳払いをひとつ、そして、 「じゃあ間違えないように、言葉で」 「?」 剣城の袖口を軽く引っ張り、顔を寄せ。 「ごめんね剣城、大スキ!」 翌日----- 神「よし今日の練習は…って剣城と松風は?」 信「二人とも風邪で休みです」 [*前] | [次#] [戻る] |