さっきまでは確かに、二人僕が運転する車に乗っていたはずだったのに、 気がつけば僕らは裸で、どちらからともなく口付けを交わしていた。 僕の上にいるその子は、銀に光る糸を引っ張りながら僕との距離を離して、それから呟いた。 「…せんぱい」 「なぁに、雪村」 こてん、と、頭を僕の心臓のあたりに預けて続ける。 「俺、せんぱいと兄弟だったらよかったのに」 「…、」 遠いむかしの、 ある晴れた雪の日を思い出した。 『兄ちゃん』 さんさんと柔らかな日の降り注ぐリビングでそう言った弟は、いつもよりいたずらっぽい顔で。 『何?』 『おれ、兄ちゃんと兄弟じゃなかったらよかったのに』 自分でも仲のよい兄弟だと思っていた僕は、当時相当なショックを受けたっけ。 『え、なんで』 『だって兄弟は、結婚できないでしょ?』 俺は兄ちゃんと結婚したいなー、そうあどけなく言う弟を、僕は何より愛しく思ったのだった。 長考のふりからふわりと現実に戻った僕は、同じ質問を繰り返した。 「なんで?」 「だってそしたら先輩とおんなじ血が流れるでしょ、それに」 濃い色の睫毛をゆっくり伏せて、更に続ける。 「血縁は切れないでしょう」 確かに他人との愛情とは儚いものだけどね雪村、 死は何人をも切り裂くよ、 なんて大人気ない言葉は嚥下して、 「そうだね」 いつもの笑顔で吐き捨てた。 [*前] | [次#] [戻る] |