昼休みのばか騒ぎの中、すすすっとこちらに寄ってくる倉間くん。 そして僕に耳打ちをする。 「あのさ、速水」 「何でしょうか」 その顔はいつになく神妙で。 「…え、」 「え?」 「遠距離恋愛、って、どう思う」 どもりながら聞く倉間くんに、 「え、それって」 南沢さんのことなの、と聞きかけてやめた。 「…?」 「あ、なんでもないです」 言い終わったころには顔が真っ赤になっているこの人にそんなことを言ったら、話を切られそうな気がして。 「で、どう思う」 「どう、って言われても…」 わざわざ浜野くんがいないところで聞くのを見ると、真面目な返答を求めているのだろう。 「やっぱり気持ち次第なんじゃないでしょうか」 「やっぱ速水もそう思うかー」 基本に忠実に。バイブル通りに。 恋の話には鉄則だと思っている。 とりあえず相手は話を聞いてもらえれば満足なんだから、あとは当たり障りのないことを真剣そうに言えばいい。 どうでもいいから、とかそんなんじゃなくて、下手なこと言って相手を怒らせないために。案の定倉間くんもうんうん、と頷いていて、どうやら平均点はとれた様子。 やれやれ、こういう質問されるのは信頼されてるみたいで嬉しいんだけど、不甲斐なくて、申し訳なくて、肩がこるよなぁ。 まぁ何はともあれ終わってよかった、なんてひそかにほっと一息つくと、 「近距離ってなに?」 「ぅわっ」 ひょこん、と机の下から顔を出した浜野くん。 「距離が近いってことだよ」 「それくらいわかってるっちゅーの」 そこまで馬鹿じゃないよー俺、と言ったあとに、 「だから、近距離恋愛の定義って何?」 問い直した。 「え、そりゃ近くに住んでれば近距離恋愛だろ」 「じゃあ近いって何?」 僕らはうーんと頭を捻らすが、うまいこと思いつかなかった。 「だからさ、24時間365日ず〜っと一緒にいるわけじゃなければ、それはもう立派な遠距離恋愛だと思うよ?」 「!」 倉間くんの目が輝く。 「つまり今までの2人の関係となんら変わらないってことだよ」 浜野くんがなんだかそれっぽいこと言ってる…あれ? 「そっかぁ、浜野ありがとう!!お前すげーな!!」 見直したぜ、と言って倉間くんは去っていった。 「浜野くん」 「なにー?」 「まさか、気付いてたんですか?」 「なんのこと?」 「とぼけないでくださいよ…倉間くんと、南沢さんのことです」 「…まあね〜」 「はぁ…そうだったんですか…それにしても倉間くんも意外とおバカですね」 「違うよ、知ってるっしょ?」 「?」 「恋は盲目なんだよ」 「あはは、」 「ちょっと、愛想笑いすんなよ〜」 「はは、ごめんなさい」 速水が去っていき、一人で物思いにふける。 「そっか、倉間と南沢さんがなぁ…」 その事実を俺はしらなかった。カマをかけただけだったんだけど、速水も、気付いてもよかったよなぁ。 近しい友人が誰が好きとかは見ててわかる。 速水の、倉間に対する感情も感じる。 そんな速水を取られたくなくてわざわざ話に割って入る自分の醜さが、嫉妬深さが、後から後から嫌になる。 「はぁ…」 俺も気付いてもよかったよなぁ、倉間と南沢さんのこと。 「好きだよ、速水」 恋は盲目。 俺も周りが見えていないんだろうか。 しょうがない、それでは手のなる方へ、なんて世迷い言。 いや半分本気か。 好きな人との距離なんて近いようであまりにも遠すぎて、もう測れないや。 無理やり笑顔になってはみたけど、涙は次から次へと流れる。 「誰か俺を、」 自分でもどこにいるのかわからない俺を、 「導いて」 [*前] | [次#] [戻る] |