『マックポテトがたべたい』

メールの着信に気づいて携帯を開いたらそのようなことがかいてあった。差出人は最近頻繁にメールのやりとりをするあいつだ。しかしこんな平日の真っ昼間にくるのは珍しいと思ったので、同じ場所にいる筈のそいつを探すと彼は携帯を片手にまわりの友達と楽しそうに会話をしていた。なんて器用な奴なんだろう。会話しながら携帯を操作するというのはなかなか難しいことなのに。

『そうですか』
『一緒に食べにいこうよ』
『なんで?』
『一緒にいきたいから[ほし]』

というメールが返ってきたところでシカトすることにした。そもそも同じ空間にいる奴と何故わざわざ携帯を使って会話せねばならないのか。アホらしくなったので俺は携帯をしまい込んでかわりにペットボトルのお茶を一口飲んだ。

「…なに描いてんの」
「キリカちゃん」

誰だよ、それ。何の用事かは知らないけど山田は一緒に食べられないらしいので今日のお昼は新橋と二人きりだ。彼はいつも通りパンを食してからよくわからない絵を描き始めた。山田がいないと基本的に会話がないためずっと無言だったのだが、そろそろ耐えられなくなってきたのでその絵を見ながら聞いてみたがやっぱり会話は続かなかった。キリカちゃんってまじ誰。

「あ、キリカたんだ」

そう言ったのは隣の席の高橋さんだ。昼休みはいつも友達の所へいっているらしいのだがどうやら戻ってきたようだ。俺は彼女がキリカちゃんを知っていたことやキリカちゃんをキリカたんと呼んだことよりも、赤いマフラーをしていることが気になった。やっぱりとても似合っている。

「知ってんの?!」

すると新橋がいきなり大きな声をだした。その声に反応してまわりの奴らがこちらをチラリとだけ見た。よくわからないけど彼は興奮しているようだった。お前がそんなに感情を剥き出しにしている姿を初めて見たぞ。と思ったけどそういえば自分も他人のことなどまったく言えなかった。

「うん。新橋くん、絵上手いね」

笑顔で高橋さんがそう言うと新橋の頬がうっすら赤く染まった。前から薄々思っていたけれど新橋ってシャイな奴なんだな。二人がキリカちゃんだかキリカたんだかについて話し始めたので俺は黙って席を立った。



教室を出て目指すのは4階へ続く階段だ。この校舎の4階は今はあまり使われていない古い教室ばかりなので人通りは本当に少ない。とはいっても端っこには今も使われている大きな音楽室があるので毎日誰かしらは人がいる。しかしこっちの西階段は基本的にみんな使わないのだ。だから夏はいろんな奴らの溜まり場となっているのだが、なんたって冬の教室の外はかなり寒いので冬にこんな所にくる人はほとんどいない。だから俺はそれを利用してたまにその階段へ向かう(放課後は吹奏楽部の皆さんがよくそこらへんで楽器を吹いているので主に昼休みに)。そっと階段の端に腰をかけるとケツが冷たくて堪らなかった。それに、場所もそうだが人がまったくいないから余計に寒く感じる。その寒さのおかげで身体だけでなく頭まで冷えていってあぁ俺は今ひとりなんだなと思う。左右が白い壁なのはもちろんのこと、上の方に小窓はついているが前もほとんどが壁だ。こんなに白い壁に挟まれているのだからやっぱり自分は今ひとりに違いない。壁はところどころにヒビが入っていてとても古くさく眼に映る。暇なのでそのヒビの数を数えようかと思ったところで、ポケットに入っていた携帯がメール着信を知らせた。

『今どこ?』

携帯を開いて驚いたのはあと5分で昼休みが終了するということだ。いつの間にそんなに時間が経っていたのだろうか。壁を見ていると意外に時間というのははやく経つものなんだな。はやく寿命がきてほしいなら壁をずっと見続けてるといいかもしれないとなんとなく思った。のんびりと立ち上がって、月島にメールを返信する。ついさっきこちらがシカトしたばかりだというのに彼の精神力には驚く。あぁ自分にはないものをたくさん持っている。

『階段のとこ』

と返してから、同じ校舎にいる筈の奴と電波を通して会話するなんてやっぱりおかしいと思った。そして階段を4段くらい降りたところで、急に校内放送が流れたので自然と体の動きも停止した。その放送を聞いて呆然としてしまったのは仕方のないことだ。えっどうしよう。




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