「うわピーマンの肉詰め美味しそう」
「うん美味しいよ」
「片方ちょーだい」
「…いいよ」
「内心嫌がってるでしょ」

バレたか。しかし2つしか入ってないのにその片方を食べられてしまうのはすごく嫌なのだ。そしてそれをわかっている上で平気な顔して食すこいつは本気でなんなのだろう。イケメンは何しても許されるとでも思ってんのか。すごく無神経なのか、それともただのドSなのか。そのどちらかに違いないのは確かだ。

「美味しい。ありがとう」
「うちの母親に言って下さい」
「まじで?今度ゆきの家にお邪魔していいの?」
「そんなことは一言も言ってない」

真顔でそう言い放つと月島はふっと笑ってから、俺に手を振ってここを去って行った。アイツ俺の弁当のおかずをただ食べたいがためにわざわざこっちに来たのかよ。隣にいる山田と新橋がガン見しているというのに目もくれないなんて、きっと彼は見られることに慣れているのだろう。さすが女子に陰で王子様と呼ばれているだけはある。

「永田お前いつの間に月島と仲良くなったんだ」
「仲良くないよ」
「どう見ても仲良さげだったけど」
「知らね」

瞬時にタコさんウインナーを口にくわえて知らん顔をする。というか本当に俺は何も知らないのだ。ただ最近アイツがなんか一方的に俺に絡んでくるだけで理由も知らないしよくわからない本能で動いているだけかもしれないし。月島は俺と友達になりたいのだと奈月に言われたけど、それならばどうしてこのタイミングなんだよその前に俺と月島とではタイプが違いすぎてあれなんだよ例外は奈月だけで十分なのだ。タイプが大きく異なる俺と仲良くなると生まれる彼にとってのメリットとは何なのだろうか。ここまで深く考えてしまう俺が馬鹿なのだろうか。少なくとも向こうは俺に対して表面的には好意的なのだからそれを素直に受け入れるべきなのだろうか。でも俺は誰とでも仲良くなりたいわけではないし、苦手な人間とはなるべく関わりたくないのが本音なのだ。しかしこんなふうに人を避けながらも完全に拒否することもできやしない。拒否すること自体に恐怖を感じる俺は本当にどうしたらいいのだろうかどうもしなければいいのか。

「あ、そういえば数学のプリント見せてくれね?」
「明日の国語のプリントを見せて頂けるのならば」

話題の移り変わり早いなあと思いながら俺は山田に数学のプリントを渡して、かわりに国語のプリントを受け取った。よかったこれで明日授業で当てられてもきっと大丈夫だろう。山田は理系っぽい顔をしているくせに根っからの文系だからこういうときすごく助かる。二人でもっぱら勉強トークを繰り広げている隣で、パンを食べ終えたらしい新橋がノートによくわからない絵を描き始めた。こういうありふれた風景に平和を感じる。

「ゆうきくーん」
「ん?…あ、奈月さん」

山田の下手くそな字で埋められた国語のプリントを睨んでいると、ふと自分の名前が呼ばれた気がしたので振り向くと教室のドアの所に奈月が立っていてこちらにひらひらと手をふっていた。すぐにそちらへ向かってそのまま二人で廊下の端に移動すると、彼がにやついた顔をして俺の左肩に手を乗せた。

「なんだ月島とだいぶ仲良しじゃん」
「そうでもないよ」
「普通に話せてるみたいだし友達に昇格した?」
「してない」
「うっそ」
「ほんと。最近は時間帯関係なくアイツがやってくるし彼女をつくる暇もないね」
「それは関係ねーだろ」

奈月さんと一緒にいるとどうしてこんなにも気持ちが楽なのだろう。誰かといると常にどこかに緊張感があるのに彼の前では自然で居られる自分がいる。どうしてか話題も尽きないしやっぱり昔からの友達というのはいいものだ。

「あ、そうだ今日の部活いきなり休みになってさ」
「まじで?」
「うん、これがほんとは本題だったんだけど一緒に帰れる?」
「もちろん」
「よかった。じゃ、またな」
「うん」

彼は笑って俺の頭に手を乗せて少し撫でた。俺の方が背が高いのになぜか奈月さんはたまにこういうことをしたがるから仕方なく俺はされるがままでいる。彼が去ったのを見届けてから教室に戻ろうとして、廊下の向こう側にいる月島と目が合った。きっとトイレ帰りか女子からの告白帰りかのどちらかだろう。まあすごく勝手な予想だけど。俺は見なかったことにして教室に足を一歩踏み入れたところで、彼が何故かこっちにやってきた。

「ゆきってA組の針山と仲良いよね」
「まあそれなりに」
「……」
「あの、何か?」

すげえガン見してくるので心の中で引きながらもその端正な顔立ちをチラリと見ると、どうしてかその手をこちらに伸ばしてきた。え、まじでなんなの。そしてそのまま俺の頭に触れた。

「…ごみでもついてる?」
「えっうんそう。で、でももう取れたから大丈夫」
「そう。どうも」
「いいえ」

あれ月島の笑顔がいつもとちょっと違う。少し暗めというか。今日はそんなにきらきらして見えないのは何故だろう。いやそんなことはどうでもいいのだけれど。次の授業が数学だったことをふと思い出して、俺は山田にプリントを返してもらいに奴の席へ向かった。




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