「的なことがちらほらあってさ」
「ちらほら?その2回だけじゃねえの」
「違うなんかもっといろいろ」
「へえ」
「彼は何したいんだと思う?」
「友達になりたい。以上」
「…まじで」

びっくりして彼を見ると、奈月はベッドに腰をかけながら目線は手元の雑誌に向けたままだった。近頃クラスメートの月島がよく絡んでくるしかも時間帯は決まって放課後で俺が一人の時を狙ってくるんだけどどうしたら、的なことを真剣に相談している最中だというのに彼はそんなに真摯になってくれない。しかしこんな態度にはもう慣れっこだ。そういえば彼は昔からテキトウな男だったのだ。

「あの月島がねえ…ふーん」
「地味男に絡むのは珍しいってか」
「悠生は地味じゃないよ」
「地味だよ」
「雰囲気が暗いだけ」
「うっせえ」

暴言を返しながらも心では完全に同意していたそしてそのことも彼はわかっているのだろう。この真っ暗な髪の所為かそれとも猫背の所為か、自分の雰囲気の暗さは昔から異常なのだ。特に小さい頃は奈月とよく一緒にいたのでそれはもう差がすごかったと思う。彼は見た目も中身も基本的に明るい人間なのだ。しかしなんでか彼は俺の前では無口気味で、二人きりになると寧ろ俺のほうがよくしゃべる…多分。というか俺は人見知りなだけで決して無口キャラではない。

「めんどくさい」
「月島に関わるの?」
「うん」
「関わらなければいいじゃん」
「向こうが絡んでくるって言ってんだろ」

俺の話聞いてた?とクッションを思いきり投げつけると、奈月は雑誌を捲りながら聞いてた聞いてたと言って見ずにそれを片手でキャッチした。さすがはテニス部エース。いや別にテニスは関係ないか。

「あ、そういえば美代ちゃん元気?」
「たぶん元気。今度会う」
「へえ、デート?」
「アイツ今観たい映画があるんだと」
「リア充おつ」

美代ちゃんというのは中学3年から付き合っている奈月の彼女だ。体は小さいけれど中身はとてもしっかりしていて、奈月の母親的な存在にも思える。この奈月が甘えるのだから美代ちゃんはすごいと思う。俺と奈月と美代ちゃんは小学中学と同じ学校だったのだが、高校になって美代ちゃんだけが違う学校へ進学してしまった。それでも交際が順調そうにみえるのは、きっと二人の関係が安定しているからだろう。

「美代が悠生に彼女できた?って聞いてきた」
「またかよもしかして電話の度に聞いてんじゃね何度聞いても答えは同じです」
「彼女つくればいいじゃん」
「簡単にできたら苦労しねえよ」
「その前にお前つくろうともしてねえだろ」
「うるさい」

世の中は嘘ばっかりだから怖いと思う。というより、何が真実かよくわからないから怖い。怖いから、そして弱いから自分を守るために嘘をつく。例えば月島と話すときなんかは嘘ばっかり言葉にしている。それに対して奈月といるとき心が穏やかで居られるのはあんまり嘘を吐かなくても平気だからだろう、だから彼と一緒にいるのは好きだ。つまるところ俺は自分の有益を一番に考えて生きているのだ。そしてそういう自分をあまり好きになれない自分がいる。

「あのさ」
「ん?」
「いつでもうちのクラスきていいから。というか俺を呼び出していいから。何かあったら悠生を助けるし何もなくても会おう」
「…なんかお前の日本語おかしくね」
「うるせえな俺の思いが伝わんねえのかよ」
「いやいや伝わりましたありがとう、奈月さん」

本当に昔からもらってばっかりだ。友達によくイタズラされて泣いていた小学生時代もいじめられて不登校になりかけた中学生時代もその所為で人が苦手になった高校生の今も、いつでも奈月には助けてもらってばかりだ。それに比べて俺は彼に何ができているだろう。できたことといえば奈月が美代ちゃんに告白するときに背中を押したくらいだろうか。奈月は何で俺と一緒にいてくれるのだろう。高校に入ってからクラスが同じになることはなくなって学校で関わることが極端に減って、それでも休み時間には話したりはしていて今日みたいに休日はお互いの家に遊びにいったりしている。余計な考えは捨てておいて、俺は単純に奈月と一緒にいるのが楽しいのだ。

「今日夕飯食べてく?カレーらしいけど」
「食べる!おばさんのカレー超好き!」
「急にテンション上がったな」
「だってまじ美味いし」

一瞬で笑顔になった奈月を見て学校ではこれくらいテンションが高いのだろうなと思った。俺はテンションが上がってもなかなか言葉に出せないから羨ましい。そして唐突に月島のキラキラした笑顔を思い出す。…やっぱりアイツいけめんだよなあ。

「あのさ」
「ん?」
「月島は悪い奴ではないと思う」
「…うん」

多分わかっている、それは。




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