「…委員会?」
「うん。もう時間遅いけど、永田は?」
「自習室で寝てた」
「はは、なるほど」

なんだその返答は。手元の鞄を見つめながらそう思ったけど口には出さなかった。教室に二人きり。雰囲気におされて突然入ってきた図書委員の彼に声をかけてはみたが、よく考えれば月島としゃべるのはこれが初めてだった。自分の交友範囲が狭いのは仕方のないことなのだ。当然会話が続く筈もなく、直ぐに静寂が訪れた所為かなんだか教室が広く感じる。うわ、気まずい。少し焦りながら勢い良く椅子を押し込むと、カタンと音が大きく響いて小さな恥ずかしさを感じた。

「じゃ、また明日」
「あのさ」
「ん?」
「帰り一人?」
「え、うん」
「よかったら一緒に帰らない?」
「えっ」

戸惑う俺に対して彼は満面の笑みを向けた。












「それで、本は大好きなんだけど他人と本について語り合うのは嫌いなんだよね」
「そうなんだ」
「その本から感じたことを共有したいとも思わないし、その本の捉え方とか人によって違うのだろうけど他人の意見は聞きたくないっていうか。要するにさ、子どもなんだよ」
「高校生はまだ子どもだと思うけど」

この人もこんな表情をするのかと少し意外に思った。月島の本に対する意識などわりとどうでもいいのだが、彼が話していてくれないとこちらとしては話題がどうにも見つかりそうにもないので助かる。いやそもそもなんでこいつ一緒に帰ろうとか言ったんだよクラスメートであるからといって1ミクロンも仲はよろしくないのにというか仲良くなりそうもないのに。音楽を聴きながら歩いて帰る大事な一人の時間を邪魔されて、気分は落ちていくばかりだ。

「よく自習室いくの?」
「まあ、たまに」
「何曜日にいくとか決まってる?」
「特には…」
「永田さ」
「ん?」
「俺のこと嫌い?」
「えっ」

びっくりして彼を見るとかなり真剣な目をしていたので、慌てて口をひらく。

「嫌いじゃないよ」

そんなに月島時永という人間を知らないのに、嫌いになれる筈がない。もちろん好きなわけではないし、接するのは苦手ではあるが。

「そっか、よかった」
「何で?」
「え?」
「いやなんでもない」
「人に嫌われるのはあんまり好きじゃないからかな」

なんだか会話がすごくぎこちないなあと思う。かるく見た感じあれだけいろんな人と仲良く接している月島と話していてもこうなってしまうのだから、自分のレベルの低さはやはり相当なのだ。でも彼と帰りをともにするのもきっとこれが最初で最後だろうから、まあいいか。

「永田は人に嫌われるの平気?」
「わからない」
「そっか」

根暗な自分でもよくわからないのだから、明るくて人気者の月島には絶対わからないことだ。これっきり会話がゼロになってしまって、そしてそれは完全に自分の所為だろう。今頃、彼は俺を誘ったことを心底悔やんでいるに違いない。こんなにも自分はつまらない人間なのだから。薄暗い空の下、二人の間には中途半端な隙間があいていた。

「今日は一緒に帰ってくれてありがとう」
「こちらこそ」
「また一緒に帰っていい?」
「えっ」

戸惑う俺に対して彼は満面の笑みを向けていた。




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