よく晴れた日の午後三時。休日であるからか此処はたくさんの人で賑わっている。約束の時間の十分前に行くのが人としての礼儀だと思っているのだが、なんだか早めに着いたら俺がものすごく楽しみにしていたようでそう思われるのは癪だったので七分前という微妙な時間に到着した。そして店内をぐるりと見渡せば、案外すぐに奴は見つかった。さらりとした焦げ茶色の髪の毛と綺麗な姿勢が特徴的だなとぼんやりと思った。しかし其処へ行くのは少し、いやかなり気が引けた。俺はとりあえず注文をしにレジへ向かったがこんな所にくる機会などまったくないのでオドオドしてしまっていたら、店員さんににっこり微笑まれてご注文はお決まりですかと尋ねられた。俺ほんとに何やってんだろ。もう高校生なのだからもっとしっかりしなければと思う。決して大きいとはいえない声で注文をしてから今度こそ奴のところへ向かおうと思ったけどやっぱりやめた。だってさっきから月島の隣には知らない女の子がいるのだ。二人で楽しそうに会話をしているなかを割って入るなんてそんなことできるはずがない。あぁ向こうの誘いにのってわざわざ休日に出向いてやっているのに、何故こんな面倒な気遣いをしなければならないのだろう。もしかしてあれが彼女かもしれないなと思いながら、俺は端っこの席に座った。二人掛けのところだがまわりに一人で座っている人もいくらかいるし平気だろう。アイスコーヒーをひとりですすっていると見知ったショートカットの女の子とふと目が合った。

「永田くん…?」
「久しぶり」

彼女はもともと大きなその眼をもっと大きく開いてこちらを見ている。俺も内心すごく驚いているが表情にはでていないだろう多分。部活帰りなのかテニスラケットを片手に持っているその女の子は美代ちゃんだ。奈月さんの大事な彼女の美代ちゃん。美代ちゃんは一緒にいる友達らしき人物に先に席行っててと言って、俺のほうへ近づいてきた。まさかこんな所で偶然会うとは。

「永田くんって一人マックするんだ」
「ちげえよ待ち合わせです」
「彼女?!」
「ちげえよ友達です」
「え、永田くんにも友達いたんだ」

なんだその言い方は。失敬な。少しだけイラッとしてそちらを見ると、彼女は楽しそうに笑った。俺にだって友達の一人や二人くらいいるんだからな。まあそれくらいしかいないけれど。

「へーでも良かったよ友達いて。なんかあんまり変わってないようだけどさ。なっちゃんが言ってたよー悠生が心配だ心配だって!」
「なんで」
「んー暗いからじゃん?」

だからなんで美代ちゃんはそんなに人の気にしてることを活き活きと言うのだろう。こういうはっきりしてるところに奈月さんは惹かれたらしいが俺はあまり好かないタイプだ。ちなみになっちゃんというのは奈月さんのことだ。

「うそうそ!永田くんはちょっと真面目すぎるんだよ!」
「全然真面目じゃないよ。こないだ授業サボったし」
「いやそういうことを言ってるんじゃないけど……えっ何の授業サボったの?」
「全校集会」
「それ授業じゃないじゃん」
「校内放送が流れて急にやることになったから体育館シューズ持ってなくて」
「いや何で体育館シューズ持ち帰ったのさ。普通持ち帰らないよね?!」
「みかんジュース零したから洗おうと」
「ばっかじゃないの!」

彼女はまた楽しそうに笑った。昔から変わらないその持ち前の明るさをなんだか心の底から羨ましく思った。結局みんなそういう人間についていくのだろうよくわからないけど。

「永田くんってそういうところあるよね」
「どういうところ?」
「真っすぐなのになんかふわふわしてるっていうか見ていてこっちが不安になる感じ」
「そこが良いところだと思うんだけどな」

……言っておくが最後のセリフは決して俺ではない。こんな公共の場で自画自賛する趣味は持ち合わせていない。急に会話に入ってきた彼は本来待ち合わせをしていた人物だった。少し奥に座っている女子高生二人組が、あの人格好いいと言って彼を盗み見ていた。

「此処にいたんだ」
「うん」
「こんにちは」
「どうもこんにちは。じゃあ私いくね」
「うん」
「またね」

月島がくると美代ちゃんはこちらに手を振ってすぐにさよならをした。なんだかんだいい人だなと思う。そのありあまるパワーをこちらにもわけてほしいくらいだ。でも身につけているその赤いマフラーは高橋さんのほうが絶対似合うと思った。

「…友達?」
「うん。奈月さんの彼女」
「へー仲良いんだね」
「さっきの人が月島の彼女?」
「どの人?」
「さっき二人でしゃべってた人」
「見てたんだ」
「うん」
「ちがうよ。中学のときの友達」

こんなふうに向き合って座って話すのもなんだかおかしいなと思う。俺と月島という組み合わせは外から見たら絶対におかしい。でもこれでも俺たちは友達らしいのだ。こないだ、あの寒い階段の場所で一緒に全校集会をさぼってくれた(別に俺は頼んでないけど)時に聞いてみたら友達だと彼は言った。その言葉は正直嬉しかった。嬉しかったけどなんとなく友達と云うには物足りないものがあるような気がした。しかしそれが何なのかはわからない。

「月島、注文しないで待ってくれてたんだ」
「いや早めに着きすぎちゃってさ」
「ごめんなんか…」
「いきなりマックポテト食べたいって言ったのはこっちでそれに付き合ってもらっているんだから謝るのはどちらかといえば俺のほうだよ。でも、」
「ん?」
「ありがとう」

その綺麗すぎる笑顔を見て無性に泣きたくなった。泣かないけど。少し奥に座っている女子高生でも彼の中学時代の友達でもなくて、たった今その笑顔を見せているのは自分にだけなのだという状況に泣きたくなった。よくわからないのだけど。どうして彼はこんなにも俺に足りないものを与えてくれるのだろう。他のみんなとはちょっと違うのだ。学校で接するときはこんな気持ちになんか決してならないのになと思いながらひとりアイスコーヒーをすすった。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -