空を見上げる度に気だるい気分になる。青々とした色は昔も今も寸分違わないけど、人の手の届かない神聖な場所だったそこは、今や宇宙船が我が物顔で飛び交っている。
ここはもう自分達、侍の国ではなくなった。
あれだけ必死に戦ったというのに、結局サムライのタマシイと呼べるモノは抑圧され、或いは失われてしまった。
あの戦争が為した事と言えば、数多くの侍に深い傷を残し、命を奪った事だろう。肯定的なことを挙げるとするなら、予想外の侍の抵抗に驚いた天人により幕府が形だけとはいえ存続した事ぐらいだ。

(だが、その幕府は、侍を見捨てた)

何故、自分が現在幕府に使えているのかと問われれば、“幕府ではなく近藤に使えているのだ”と即答するだろう。それは確かに真実であるし、瞬間的に思い浮かぶ理由は、ただそれだけだ。
だけど、きっと、本当はそれだけではないのかもしれない。
攘夷戦争に参加し、『彼』を唯一と慕い、今も敵のハズの高杉を恋人と定める自分が、それでも幕府――天人に使えているのは、恐らく、幕府が許せないから、であろう。
腐りきったと形容できる幕府ではあるが、その膿を全霊で掻き出し守っているのは、侍を裏切った幕府を許せず正したいからなのだ。腐臭を放つ上層部を検挙し、いっそ松平や近藤のような武士(おとこ)が上に立てばいい。
否、それこそいずれ実現させて見せようと思っている。
立場は正反対なれど、自分の思考はどちらかと言えば、攘夷派のそれに近いままなのだろう。土方は“護る”事で結局は“攘夷”を成し遂げようとしている。
はた、と思い当たって、傍で煙管をゆるりと吸う隻眼の男に視線を送った。

(こいつァ“壊す”事で“攘夷”を成し遂げようとしてんのか……?)

攘夷ではなく復讐と、声高々に言い放ったこの男でも。今の時代、サムライのタマシイを持ち続けようとする事が、ある種の“攘夷”と呼べるのならば。
土方が聞いた話では高杉も戦の参加者で、今とは比べ物にならないくらいまともだったとか言う。高杉を知る男、万事屋こと坂田銀時も言っていたのを思い出す。


―――昔は…あんなじゃなかったぜ

と、


いつもの飄々とした、土方を苛立たせる態度とは異なり、そう言う彼はどこか哀しげで痛々しげな、憂いに満ちた面持ちだった。
だからだろうか? 余りにもそれが痛々しかったから、自分の中で、夢に出てきた――大切な人の内の一人である――白夜叉と、坂田をどうしてもダブらせてしまうのは……。
そう思い込む土方は、高杉の事を聞いた時に坂田が漏らした『お前もこんなじゃなかったのにな』という言葉を、正しく理解する事が出来なかった。

『あ"ぁ!? 何でてめえが知った口叩いてんだよ! 大体“こんな”たァどういう意味だ!』

『“こんな”は“こんな”だよ土方君。瞳孔全開のイカれたマヨラーが』

『んだと、このイカれた天パがァァァァァ!』

そこからはいつもの口喧嘩に発展し、最後に呟かれた『だけどよ、周りに流されずに好きなモノを好きだと行動出来るお前は…それでも変わらねェんだな』という悲しくも優しい一言を聞き取る事はなかったのだけれど。


(……なのに、)

結局は取っ組み合いになってしまったけど、坂田の高杉へ向けた哀しげで痛々しげな、憂いに満ちた表情は真剣だったハズだ。

(なのに、何がどうしてこうなっちまったんだか)




「あーもう何なんだよてめーは!!」

さっきから「土方」「土方ァ」とウザイほど呼んできた高杉に、ビキビキ顔に浮かせていた血管がとうとう限界を迎え、くぁッと瞳孔を広げて土方はキレた。
怒りのままに、高杉の方を振り向けば、いつになく真面目な色を宿した隻眼にぶち当たり、どくりと心臓が変な脈を打つ。

「な、何だよ」

「土方……、シたい」

「…………死ね」

思ったより冷ややかな声が出た。ズキズキとこめかみが痛んだ。
仕方ない、何事かと少しでも不安になって心配した自分が馬鹿だったのだ。
更にビキリと浮き出る青筋を増やす鬼の副長にも、やはりと言うか何と言うか、当然臆しない凶悪テロリストは、隙を突いてスルッと隊服のスカーフを奪い取る。



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