「あんまり遅ェから心配してきてみりゃ」
相当苛立っているのか、ドスドスと大股でこちらに説教をしつつ向かって来る。
その軟らかな銀髪がふわりと揺れる。
「てめーらこんなとこでいちゃついてんじゃねーよ! 自殺志願者かコノヤロー!!」
「…銀時」
常に余裕の体(てい)を崩さない『彼』も、流石に予想外の男の登場に絶句し、呆然とその名を呼んだ。
「はっ、おいおい総督さん。なぁにが“…銀時”だコノヤロー。てめえが、しおらしくても、気色悪ィだけなんですけどー」
合流早々、散々な言い種で吐き捨てる男は、聞いている分には激しくムカつくのだが、それでもその乱れた息からして、きっと必死に自分達を追ってきてくれたのだと窺い知れる。
憎まれ口は、白夜叉と喩えられる彼が、素直に“心配した”とだけを伝えられない性分であるだけなのだと、同じく意地っ張りな土方は知っていた。
「つぅか、トシ君もさァ、」
「え?」
つい数瞬前までは『彼』と憎まれ口の叩き合いをしていた白夜叉が、突然くるりとこちらに話しかけて来た事に軽く驚く。
もっとも続いた彼の言葉に、比べ物にならない程の驚愕を土方は受ける事となったが。
「敵陣で堂々ラブラブあっはーん、もっとお前ェは常識のある奴だと思ってたぜ銀さん」
「あ、あっは……!? っ違げーよコイツが勝手に…」
「勝手? フンッ、勝手なのはどっちだ。ひとり特攻かまそうとしてた野郎が」
「うるせぇっ、あんたも混ぜっ返すんじゃねェよ!」
「あぁ!? てめえが俺のせいにしたんだろぉが!」
ふわりふわりと場の空気が軽くなり、くだらない応酬が口から飛び出す。
白夜叉、なんて、物騒な渾名を冠しているくせに、この銀色の男は――そのふわふわとした天パのようにと例えたら怒るだろうか――凝り固まった雰囲気を簡単にほどいてしまう。
『彼』もそんな白夜叉を信頼し、大切に想っている。つかず離れずといったライバルのような白夜叉のポジションが、少し羨ましく憧れると思わないではないけれど……それは決して口には出してやらない心からの賛辞。
意固地な態度に出てしまうのは、だからこそ。
そんな理由も相まって、ますますヒートアップしていた罵詈雑言の投げつけ合いは留まる事を知らず。
すると、ガシャ、と音がして、また天人が1人吹っ飛ぶ。いや、天人の大群を押し退けて――というか斬り伏せて――こちらに向かってくる二人の人影があるのだ。
「貴様等」
顔についた血を拭いながら低く唸った長髪の男と、戦場に似合わないスマイリーな表情を浮かべた兜を被った男だった。
「敵陣でもめるな 殺されにきたのか」
相変わらずの堅苦しい喋り方をする長髪の男は、狂乱の貴公子だとか何とか、大層な渾名を持つ。
そう人々が呼ぶ度に“こいつ、だけど電波だぜ?”と、いつも土方は言ってやりたいと思いに駆られる。まぁ確かにある意味“狂乱”な男ではあるが。
「金時ー おんしまで混ざってちゃ意味ないぜよ」
「銀時だって言ってんだろ辰馬ァァ!!」
「アッハッハッ」
「笑うなァァァ」
(あっちはあっちで何か繰り広げてるし……)
ふと土方が見やると、ドタバタと鬼ごっこ状態な白夜叉とスマイリーがいて、呆れた。
「貴様 話を聞いて…」
「あん? うっせーよヅラァァァ!!」
「ヅラじゃない桂だァァァ!!!」
「グダグダだァァァ!!!」
ドタバタと「銀時貴様ァァァァ!」とか叫びながら、鬼ごっこの輪に加わった狂乱の貴公子に、そうツッコミを入れたのは果たして誰だったか。
取り敢えず、基本的にボケは流して処理するツッコまない『彼』と、“何だかんだで一番揉めてんのてめえらじゃねェか”と脱力していた自分ではないから、一緒に囲まれていた浪士――三郎とか何やらとか――だったのだろうと土方は疲れきった脳ミソで考えた。