「やっぱりキングが俺でクイーンが土方だよなァ?」
黒幕感溢れるニヒルな笑みを浮かべながらそんなことを宣(のたま)った上司に、万斉が『あ、こりゃ駄目だ』と思ったのも無理からぬことだろう。
「晋助、相談なら拙者ではなく、ここにするでござるよ」
「あぁ? なんだこの名刺。0120‐…ってチャ●ルドラインじゃねェかァァァ!」
「万年厨二で身長があれなお主にはお似合いでござる」
いちいち電波の戯れ言に付き合ってなどいられない。こういった輩には冷たくするに限るのだ。
下手に相手をすれば付け上がるだけだと、短いとは言えない付き合い――長くもないが――の中で学んだ万斉は、辛辣に吐き捨ててから無視を決め込んだ。
しばらく高杉は「身長があれってどう意味だァ? あぁ?」だの「3枚におろしてやろうか音楽馬鹿」だの、低い声で唸っていたが、返事が一向に返らないのを見ると次第に拗ね出した。まったく、鬱陶しいにも程がある。
「はっ、じゃあいいさ。てめえはジャックにしてやろうと思ってたが止めだ。クローバーの5ぐれェで我慢してろや」
何がなんだかさっぱり意味不明だが、どうやら本人は万斉を罵っているつもりらしい。この男が相手を貶すときの癖で、鋭い眼光を宿す隻眼が細まり、にぃ…と唇の端だけを持ち上げて嗤う。
こちらとしては別に貶されている気はこれっぽっちもしないのだが。
「いや、だがそれだとジャックに当てはまる奴がいなくなるな。武市は弱ェし、また子も何か違ェし、したっぱ共がジャックってのもなァ…」
対して高杉は万斉に意趣返しを成し遂げて――思い込みだ――満足したのか、完全に自分の世界に入り込んでいる。
「おいおいやべぇぞ鬼兵隊、武道派少なすぎんだろ。キングを守るジャック(兵卒)になれる可能性があるのが音楽馬鹿だけってどんな過激派だ」
「…似蔵がいるでござろう?」
「あいつ腕からなんか生えててキメェ」
生えさせた元凶が言っていい台詞ではない。似蔵は高杉のために、多少空回わっていた感はあるが、あれだけ献身的に行動したというのに大概報われない。
しかし報われないのは真選組の鬼副長様に無謀なアタックをし続ける高杉も同じか、と万斉は溜め息をついた。
だが、どうしてこんな頭が弱いのが上司なのかと嘆きつつも、それでも万斉は高杉に付き従うことをやめようと思わないし、似蔵は相変わらず高杉をリスペクトしたままだし、高杉は高杉でうっとりした表情で土方に想いを馳せるのだ。
きっと人生は、大部分の『報われないもの』と僅かな『自己満足』で出来ている。
「やっぱ土方はクイーンじゃなくて、14番目の特別な『トウシロウ』っつー新しい神のカードか何かだな」
「……ところでそれ何の話でござるか?」
09トランプ
(「キング(13)の俺さえも凌駕するなんざ流石俺の嫁だぜ土方ァ!」「一回斬られてくればいいのに」)
 ̄ ̄
高杉ってどんなキャラだっけ。