08



屯所の朝は小鳥のさえずりで始まらない。爆発音で始まるのだ。

バズーカ、バズーカ、バズーカ。そして怒声。

沖田はそれらを間近で聞きながら――或いは浴びながら――黒い男を追いかける。
冷静沈着だの、それを通り越して冷徹非道だの評される彼が、日課と化したこの子供じみた悪戯に、髪を振り乱して怒る姿は何とも言えないものがある。

一定の距離を追い回したところで、今度は彼の逆襲が始まる。抜き身の刀を掲げて、整った美貌を憤怒に染め上げ、そこにはクールな鬼の副長の顔などどこにもない。
待ちやがれ。
せめて一発殴らせろ。
朝っぱらだと言うのにテンションの高い咆哮が響き渡る。だが、テンションが高いのは自分も同じかと、表面的にはダルそうな調子で沖田は思い直す。
以前近藤に『じゃれあい』と称されたときは納得出来なかったが、よくよく考えてみると、いつの間にか手段が目的へ、目的が手段へと刷り変わっていたことに気付く。気に食わないクソヤローを殺すために始めたそれは、今や殺すという『建前』のもとに行われているのだ。

ぐわっと直ぐ背後にまで迫った彼の斬撃に舌打ちをする。相変わらず妙に足の速い男だ。
仕方なくそれをバズーカで受け止めて横に弾いた。刀が宙を舞い、同時にバズーカも手から吹っ飛んでいった。間髪を入れずに繰り出された拳を片手のひらで受け止めて、お返しとばかりにもう片方の手で拳を繰り出せば、更なるお返しのつもりか同様の動きで受け止められる。ガシリと繋がった両手の指を組み合って、ギリギリ正面から睨み付けて押し合うが、体格差から沖田の不利は明白だ。
そんなことは百も承知――ついでに言えば彼がそれを見越して力勝負に持ち込んだことも――だったから、競り負ける前に沖田は告げてやる。

「土方さん、これってある意味『恋人つなぎ』ですねィ」

目の前の男は言葉の内容をつかみ損ねたのか、一瞬きょとんと幼い表情を晒したあと、ふと組み合った手に視線を落として可哀想なくらい赤面した。
しかし直ぐに持ち直して、ニヤリと不敵に笑って見せる。

「えらく殺伐とした『恋人』があったもんだな」

上手く取り繕ったつもりなのだろうが、名残で頬がうっすら桃色に染まっている。

「適材適所ってやつでさァ」

「それなんか微妙に違ェ…」

そう言って彼が嫌そうに眉を顰めるものだから、沖田は楽しくなって、がっちり指を組み合ったまま思いっきり頭突きをかましてやった。




08組み手
(「いってぇな土方死ねこの石頭」「ッッ総悟てっめェェェェ!」)


 ̄ ̄
沖→土っぽいけどちゃんと沖土なんだと思うよ。
ふたりは付き合っててもこんな感じだよきっと。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -