05



保健室はほぼ高杉の私物と化している。
眼帯とド派手な色のシャツ、その上に羽織った白衣だけがかろうじて彼を保健医だと認識させている。やくざと言った方が的確だろう容貌と態度に、多くの生徒が保健室を敬遠するのも無理からぬことだった。

今日も生徒と縁のない保健室で、高杉は寝不足の不機嫌な顔でアルコール綿を作りながら幼馴染の男を睨み付けた。

「いい加減出てけ」

受け持ちの授業が午後からなのをいいことに、朝からずっとここで愚痴を吐き続ける銀八に、もともと丈夫でない堪忍袋の尾は切れかけていた。
しかし、ふてぶてしい国語教師は気にした様子もなく、がしがしと天然パーマを掻き毟り、「だってよぉ……」と続ける。出ていくつもりはなさそうだ。

「あの流れだったら普通俺ん家で勉強会だろ。せんせー教えてくださいだろ。何で高杉のとこ行ったのあの子」

「てめえじゃ頼りねェんだろ」

「担任俺じゃん。成績の話をしてたのも俺とじゃん。何で接点の少ない保健医のとこ行ったのあの子」

「きけよ」

天然か天然なのか、とぶつぶつ頭を抱える銀八は、既に自分の世界に入り込んでいる。
だったら他所でトリップしろやと内心え悪態を吐きつつ、高杉は整った容姿を持つひとりの男子生徒を思い浮かべた。


『放課後、先生の家で勉強教えてもらってもいいですか?』

先生は数学が得意だって聞いて、と期末試験前日、言葉だけは丁寧だが、嫌そうに眉を顰めて保健室にやって来たのは土方だった。
それに高杉が、面倒臭ェと思いながらも了承したのは、嫌そうな表情を“取り繕っている”だけだと気付いたからか、相手が土方だったからか。数学の教師に訊けよと言えば、伊東先生とは折り合いが悪いからと返されて、ざまぁみろインテリと優越感に浸るくらいには、高杉もこの黒髪の少年を気に入っていた。

「しかも今朝見たらあの子腰押さえてダルそうにしてるし。ねェなんなの? お前絶対ぱっくりいったんだろ。何それ嫌がらせ?」

「俺の担当は保健体育だからなァ」

「土方君も迂闊にも程があるっつの。つかお前俺があいつのこと好きだって知っててそれとかホントあり得ねェ」

「残念ながら、もうてめえを応援してやれねェからな」

「ほら、だから嫌なんだよ趣味が似てる腐れ縁ってのは。基本ヤり捨てのオメーがそんなこと言うとか初めて聞いたわ俺」

銀八は冗談めかした調子で呆れてみせた。きっと本気だったのだろう。彼がこうやって茶化した物言いをするときは、大抵自分の本心を悟らせたくないときなのだから。それは付き合いの長い高杉相手には無駄な努力なのだけれども。
馬鹿だなぁ、と高杉は薄く笑う。

「そもそも作戦が悪ィんだよ、てめえは」

土方は数学を教えてもらいたかったのだから、国語教師の銀八に相談するはずがないのだ。
そう告げてやれば、銀八は一瞬怪訝な顔をしたあと、深く溜め息をついて脱力した。

「どうした」

「あのなぁ、土方は理数系教科は得意なんだよ」

だから国語教師の俺にチャンスがあったんだろうが、と吐き捨てる。
その意味を理解して、高杉は堪えきれずに吹き出した。




05勉強会
(最初っから両想いとかやってらんねーよコノヤロー)


 ̄ ̄
保健室高土は高→←←←土に見せかけたイチャラブバカッポー(被害者銀八さん)なイメージ



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