02



スッ転んで足を挫いた。高杉晋助ともあろう者が。
ツンデレのツンが過ぎる恋人と久々の逢瀬だとかで、少々浮かれていたのは認めよう。律儀な恋人は、敵同士という関係に負い目を持つのか、非番以外にばったり会おうものなら問答無用の手加減無用で斬りかかってくるのだ。それが、向こうから『非番をとった』だの連絡をもらえば、それはもう天にも舞い上がる気持ちというものではないか。
しかし、だからと言って、鬼兵隊と折り合いの悪い攘夷派の浪士十数人にうっかり取り囲まれて、ノリノリで片付けたはいいが、その後うっかり血溜まりに足を滑らせて、うっかり転んでしまった、なんて。自分でもちょっとこれはあり得ねェと自己嫌悪に沈んだ。
だが、それよりももっとあり得ないのが、今のこの状況だろう。

嗚呼、まさか『あの』土方十四郎が、高杉晋助を負ぶうだなど…。


「おい、土方」

「なんだ」

「おろせ」

「間抜けな怪我人は黙ってろボケ」

待ち合わせ場所に現れた高杉が足を引きずっていることに気付いた土方は何故か――肩を貸すでも歩調を落とすのでもなく――高杉を背負った。
幸い、人気のない細い路地裏を選択してくれたため、誰かの目に晒されるということはない。同じ成人男性同士とは言え、高杉の方が身長も体重も劣るし、土方は武装警察の副長として日夜体作りをしているだろうから、大した負担にもならないに違いない。
だけど、だからこそ、この状況は高杉には耐え難かった。
男の矜持や彼氏の威厳は勿論のこと、なんといっても、とにかく恥ずかしいではないか。

「いいからおろせ。夜中に酷くされてェか」

「粋がんなよ、痛ェくせに」

今ぐれェ背負わせろよ。耳を真っ赤にさせながら、土方はそんな殺し文句を言う。
いつだったか、土方は大切な人を傷つけられたときの怒りを理解出来ると言った。そのときの憎しみの大きさを知っている、と。しかし、彼は高杉の闇を理解出来るけれど、その立場ゆえに、決してそれを共有し、支え、癒してはいけないのだ。
お互いの道を誰よりも理解し合えつつも、決して交わることの出来ない平行線。或いは、立っている位置は――根源は――抱えているものは同じながら、真逆の方向を向いている。

「てめえは俺に背負わせねェのになァ」

「てめえが俺を背負ったら潰れるだろ」

それは心の話か、体格の話か。どちらにせよ失礼なことだ。
じゃりじゃり、と土方が歩く音だけが響く。閑散とした路地裏は寒々とした空気を溜め込んで横たわる。息を吸えば、肺が冷えていくような気がした。黒い背中に触れている場所だけが温かい。
まるで幸せボケだ。
怒ればいいのか嗤ってやればいいのか分からなくて、結局高杉は目の前の形の良い耳に、揶揄の意味でキスを贈った。




02おんぶ
(「残念ながら、とうの昔に霊やら祟りやらで定員オーバーさ。俺も、お前も」)


 ̄ ̄
ギャグだよギャグ



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