それはあまりにも儚く〜のボツ部分@



ぐちゅっと、耳を犯す水音を立てて性急に与えられたくちづけに、思わず「ふ、」と声が漏れた。未だに慣れない、自分のものとは思いたくない甘ったるい声が、恥ずかしい。
月は出ていない。朔の日だからだ。
暗闇に紛れて、それでも足りないというように路地裏で逢瀬を重ねる自分達はなんて滑稽なのか。
俺のものとは違う紫煙の香りが鼻腔をくすぐる。嗚呼そうだ、確か俺は煙草を買いに外へと出たのではなかったか。この男に会うためではない。

「やめろ」


唇が離れたその隙に言葉を紡いで男の身体を押しやると、ムッとした気配が伝わってきた。

「久しぶりに会った恋人に随分と連れねェなぁ」

「ふざけんな、てめえが勝手に宇宙に行ってたんだろが」

「なんだ、拗ねてたのか」

クツクツと独特の嫌味な笑いを奏でながら、高杉は隻眼をきらりと光らせた。紛れもない狂気の色だった。
何かあったのだろうか。
訊きかけて止めた。普通の恋人ならともかく、それを尋ねる資格は俺にはない。……ないけれど、

「……斬ってきたのか」

尋ねるのではなく、ぼそりと呟いた。
何があったのかは知らない。だけど、何をしてきたのかは分かる。

「ああ、もう戻れねェよ」

戻るつもりなんて最初っからないくせに、高杉はそんな戯れを言う。
いくら新月の闇の中、街灯のない路地裏とはいえ、僅かな星明かりに眼が慣れれば『それ』が『何』か、判別は難しいことではなかった。職業柄、夜目が利き、『それ』を目にするのも日常茶飯事だ。
高杉の着物は、こびりついた汚れが乾いてパリッとしていた。鉄錆びの臭いが煙管と高杉自身の甘い匂いに混じって鼻に届いた。嗚呼、この俺が間違えるはずもない、こいつが全身に浴びた『それ』は、慣れ親しんでしまった血液の……もっと言えば返り血の臭いだ。

「戻れない。……だから、なぁ土方…」

そのあと高杉が何と言ったのか、意識を飛ばされた俺は覚えていない。




 ̄ ̄
字数制限とかで、アーッてなったから削った部分ですw




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -