六代目拍手お礼文



微妙にS/A/M/U/R/A/I D/E/E/P/E/R K/Y/Oのパロですが、たぶんあまり関係ない。








その日、俺は戦場でガキを1人拾った。


天人の奴らが農村で暴れているという報せを聞き付けた俺は、鬼兵隊を引き連れてそこに向かった。
出立前にかかった、手ェ貸してやろうか、という相変わらずのダルそうな目をした銀時の申し出は断った。農村なんて襲っているのは、どうせ隊からあぶれた残党だろうからだ。本隊みてぇな新兵器も持っちゃいめぇ奴らに、この俺の隊が苦戦するとは思わない。

俺が村に着いた頃には、そこはもう『村』なんかじゃなくなっていた。
ほんの数時間前には確かに息づいてたに違ぇねェ生活感だとか、或いは活気だとか、そんなもんが全て血と炎に塗り潰された『戦場』だった。
いや、戦場より酷ぇ。ここで繰り広げられたのぁ戦いなんかじゃなく、ただ一方的な殺戮だ。
そして、俺が『それ』を見つけたのは、村に着いてわりかし直ぐのことだった。

一匹の太ったガマガエルみてぇな天人が、崩壊しかけた民家の端で、転がったガキの死肉を食い荒らそうとしているのが目に止まった。胸糞悪くなるような光景だが、豚や牛を食う俺も偉そうなこたぁ言えねェか、と捻曲がった根性で皮肉に唇を歪ませる。
あのガマガエルが死肉に歯を突き立てたら、その隙をついて首を撥ね飛ばしてやるか。
そう思ったが、その前に気が変わる。勿論ただの気まぐれに過ぎねェんだが、俺は惜しいと、
そのガキの身体に傷がつくのは惜しい、と。何故か思った。

次の瞬間、俺はそのガマガエルに斬りかかっていた。


戦場で相手も気を張っていたんだろう、首を狙った一閃をカエル特有の跳躍力で避けると、ギョロリと両眼を動かして身体中から粘液を吹き出した。
これだからカエル型の天人はうぜぇんだ。奴らが身に危険を感じた時に吹き出す粘液は、途端に刀を駄目にしちまう。だから隙を見て一撃ってのがカエル共と斬り結ぶ際の基本だってのに。
それでもニ太刀目で額を一突きにして、相手が絶命するのを確認すると同時に死体に目をやる。
と、その死体はしっかりと『小刀を構え』、鋭い眼光で俺を『睨み付けて』いた。
そこで俺は、その『ガキの死体』が、生きていることを知った。少し見りゃ分かったろうに、嗚呼ちくしょう、銀時とかに鈍いとでもからかわれそうだ。

「つーかガキ。助けてやったってのに、てめえは何で俺を睨んでんだぁ?」

普通ここは泣いて感謝だろうが。いや、泣かれても鬱陶しいだけだが。
随分と自分勝手な思考をもって尋ねると、それを読んだワケでもないだろうが、感謝どころかますますその目に敵意が宿る。

「あんたが味方のふりした天人だって可能性ないとは言えねぇし、」

さらりとしたポニーテールの黒髪を揺らして話すガキの声は、思ってたよりも低いものだった。
どうやらこいつは男らしい、なんて今更なことを思ったのは、目の前のツラが綺麗に整った、所謂『女顔』だったから。
しかし、その声は少年期から青年期に移行する際の男の声だ。俺よりチビな痩躯に騙されてたが、意外と年は近ぇのかも知れねェ。

「そもそも助けてくれたイコール味方と判断するほど、俺もお人好しじゃねェよ」

顰めっ面を強めて「ただで殺される気もねェしな」と小刀を持つ手に力を込めるガキに、俺は自然と笑みを浮かべていた。
ギラギラと力の溢れる双眸は『死』の臭い満ちるこの戦場で、なのに生きる力を失わない『死なない』者の眼だったから。
いい眼だと思う。住んでいた村が破壊されたというのに、泣き叫ぶどころか立ち向かうところとか。

それは嗚呼なんて―――…


「おもしれぇ……」

知らず知らず呟いていた言葉は、自分でも不思議なぐれぇに愉悦に満ち溢れていた。

「おいガキぃ。お前、親は?」

「……はぁ?」

思うところがあって尋ねた疑問に、この警戒心の馬鹿強いガキが素直に答えるとは思ってなかった。実際、訝しげな声が返されただけだった。
だが、それでも所詮ガキ。逡巡するようにそいつが一瞬ちらりと視線を泳がせたその先に、一組の男女の死体が転がっているのに気付いて、そうかこれが、と悟る。
用心深いくせ、存外分かりやすいなァ。
意外な幼さを見つけて、クッと声を漏らせば、それだけで自らの失態を察したのか「……てめえに関係ねェだろ」と不機嫌に口を尖らせてきた。

「あぁ、関係ねェな」

「ッッ」

だからそう突き放してやれば、自分から言い出したことだというのに、ガキの眼の奥が揺らぐ。本心から拒絶を望む望まないに限らず、古代からコミュニティを築いて生きる『ヒト』という種族は、総じてその言葉に弱い。

「だがお前はこの先独りで生きていかなきゃならねェ。違うか?」

「だったら何だよ」

「この戦争の真っ只中で、誰一人味方のいねェ、ちんけなガキが、生きられると思ってんのか?」

「…………」

聡いところのあるこいつは、予想通り俺の核心をついた問いかけに押し黙る。
もう少しだ。
何の衝動に突き動かされてかは知らねェが、話しながらもガキから『ある言葉』を引き出そうと誘導している自覚はあった。滑稽なことだが。


「……生き残るのが難しくても、それでも俺は、」

しばらく沈黙を選んでいた小さな口が、やがてぽつりぽつりと話し始めた。同時に揺らいでいた瞳に焔が宿る。
それを見た俺は不思議なことにひどく満足感を覚えた。

「生きる」

言い切られた内容は、俺の想像通りであり、また俺の望んでいたものでもあった。

「生きて、仇をとるんだ。天人なんか……俺が、全部、」

だって重なる。そう、重なるんだよ、こいつァよぉ……。




「『殺してやる」』




あの日、天人に放たれた火によって焼けていく寺子屋と炎の中に消えた『あの人』を前に、幼心ながら強く誓ったそれに、重なる。
薄情ではないが基本的に赤の他人には厚情でもない俺が、放っておけねェと感じるぐれぇには、こいつの心の有り様は俺に似ていた。

「ハッ、『殺してやる』ったってなぁ、こんなこれから生き延びられるかも分からねェチビが出来るかよ」

「出来る出来ないじゃねェ! やるんだ!」

全くもって面白い。こんなことってあるか?
このガキの一挙一動にガンガンと脳髄が揺さぶられるみてぇだった。
だから自然とつり上がった唇で、気付けば提言を紡いでいた。

「おいガキ。ついてこい」

「は?」

「拾ってやるってんだ」

「はぁぁぁ? 要らねェよ、大体なんでそんな上から目線なんだ!?」

「じゃあ野垂れ死ぬかぁ?」

「……ッッ、てめえ性格悪ィって言われるだろ」

心底恨めしげでありながらどこか拗ねたような口調が面白い。
睨み付けてくる視線のきつさはそのままで、こちらに突き付けられていた小刀の切っ先がスッと下ろされる。
覚悟を決めたんだろう。いや、腹をくくったといった方が表現としてはより的確か。本懐を遂げるにはここは俺の申し出を突っぱねないことが得策だと、おそらく愚鈍ではないこのガキは気付いているから。

「……チッ、仕方ねェから拾われてやる」

だけど、まだまだ幼い素直じゃない了承の返事をしたガキに、昔自分も『あの人』に対してこうだったのかもなぁ、と苦笑を漏らす。そして当然のように手を差し伸べてやった。


「お前の人生は俺がもらう。そのかわり……天人を軽くぶっ殺せるぐれぇには強ぇ漢にしてやるぜ―――…」

同時に紡いだ台詞は少々クサイかとも思ったが、拒否権を与えぬ空気を纏わせ傲慢に差し出した手を、痩せた白い手は気にした風もなく、ゆっくりと、しっかりと、握った。




 ̄ ̄
狂とアキラが総ポニ過ぎてやらかした何か。
だからパロは苦手なんだって! ←




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