ダレカコノテヲツカンデクダサイ
カラスハソラヲトベルノデ

「虹ってさ、コーラで出来てんだぜ」

雨上がりの空、たまたま一緒になった団子屋の軒先で、突拍子もなく土方が言った。

「そのアホ情報、誰から教わった。晋ちゃんか? 晋ちゃんなのか?」

敵同士のくせに何故か恋人らしい昔馴染みの名前を出すと、虹を見詰めたままの鬼さんは、「ばぁか」と楽しそうな声で笑った。
真選組の服に身を包んでいない非番中のこいつは、普段からは考えられないほど陽気で無邪気であほで電波な言動をとる。
リセイやセキニンとやらから隊服と共に解放された土方の振る舞いは、どこかトッシーを彷彿させた。あの天然馬鹿オタクも確かに『土方十四郎』だったんだと再確認した。

「カラスが言ってたんだ」

虹は、コーラで出来ている。
心の中にカミサマやら何やら色々飼っている電波ヤローは、どうやら喋るカラスも飼っているらしい。朗らかに、ごく当たり前な口調でそう笑う。

「でな、虹の下には虹の欠片が落ちてて…」

「おいその話まだ続くの? 着地点が見えねェんだけど」

「虹の欠片は夢の欠片なんだ」

「誰か通訳呼んでェェェ! 馬語か鹿語分かる奴呼んできてェェェ!」

するとケタケタ笑っていた土方は、ふいに真剣な顔をした。

「俺ァ今すぐ夢が欲しい」

「え?」

まるで『普段』の土方みたいに、キッパリ言い切ったそいつに、俺は少し戸惑った。

「あとな、カラスは飛べるんだぜバッヒューン」

続いた言葉は『いつも』の土方と何ら変わりない電波そのものだったけれども。

「いやその効果音はどうなのパタパタだろせめて」

「いやバッヒューンだ」

「どんなロケットカラスですか」

「俺も飛びてェな、空」

「おい、虹の話どこいった」

きっとそこにはなんにもないんだぜ、なんて空を見上げる土方に、地上は煩わしいかと尋ねてみれば、持ってるからこその贅沢だ、と返された。
持っているからこそ捨てる選択が出来るんだ、と。得るより失う方が遥かに簡単な世の中で、二十数年間生きてきた男が言う。

「知ってるか、カラスって虹を捕まえんのが得意なんだぜ」

「あれ? なんで虹の話に戻ってるの?」

「俺だって、疲れたっていいだろう?」

「あーイインジャナイデスカ? モウドウデモイインジャナイデスカ?」

もはや支離滅裂な言葉のデッドボール続きに、とうとうツッコミを放棄して、なげやり口調でそう返す。
てめえは俺の話を理解しちゃあくれねェが、受け止めてくれるから好きだぜ、とかなんとか。へらりとした顔で言ってくる土方に、跳ねた心臓なんて知らないふりをした。




 ̄ ̄
土方君の愛読書はエ/ア/ギ/アwww
エ/ア/ギ/ア(マガジンの漫画)を知っている人には土方が何を言ってるのか分かると思います。が、分からなくても問題ないです。一応彼にも彼なりの根拠があって喋ってるのに、どうにも脈絡がないのと説明不足で意味不明に見られがち(=電波)っていうだけの話ですから(^^;
たぶんこれは、幕僚絡みで何かあってたまに逃げ出したくなるけどそんなこと実際は出来ないからわざと非現実的な逃げ方を空想する土方…みたいな?




<了>


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