ダレカコノテヲツカンデクダサイ
カミハクモノイトヲタラス

「なんでお前が高杉と会ってたんだ!」

キラキラした銀色が、泣きそうに歪んだ顔でそう叫ぶ。キラキラ、キラキラ、ネオン街の明かりを受けて、そいつはとっても綺麗だった。
思わずそこに手を伸ばしてモフモフすると、何が気に食わなかったのか、万事屋は俺の手をパチンと叩き落とした。

「何しやがる」

「てめえこそ何しやがる」

ひりひりする手を庇いながら睨み付けると、やっぱり泣きそうな顔で睨み返された。
そのまま「バレたからって色仕掛けか」なんて訊いてくるモンだから、本気で笑った。頬ならともかく、髪触られて色仕掛け? 馬鹿かてめえ。

「なんだ、色仕掛けしたら落ちてくれんのか?」

「誰が落ちるかバカヤロー」

くるくるふわふわ、万事屋が苛ついたように低く唸るたび、揺れるキラキラが好きだった。
だって獲物がもがくと煌めく蜘蛛の巣みてぇじゃね?
いいな、蜘蛛の巣。昔、家の蜘蛛にそいつ自身の糸を巻いてやった覚えがある。蜘蛛だって下手すりゃ自分の巣に絡まるんだぜ? 捕食者が捕食される側に回るのは、なんだか見ていて奇妙な感覚だった。

「……あいつらのこと裏切ってたのかよ」

蜘蛛の巣にみとれていると、蜘蛛の飼い主は悲しそうな眼でそう言った。
あいつら? 真選組のことか?

「裏切ってねェよ」

「でも高杉と逢い引きしてたじゃねェか」

「別に情報を流してたワケじゃねェし。こそこそ人の動向覗いてんじゃねェ」

「見えちまったんだよ! 大体、だったらなんだ。コイビトとでも言うのか?」

騙されるもんか、と副音声をあからさまに滲ませて、だけどその副音声こそが真実なんだからどうしようもねェだろ。
そもそも、こいつは何に傷付いてるんだ? 高杉とコイビトになることのどこが悪い。恋愛って、もっと自由なモンだろう?
そう尋ねたら、「なんで俺が傷付いてるって分かんのに、傷付いてるワケを理解しねェんだよ」って責めてきた。

「俺は、真っ直ぐ自分の大将を護ろうとするてめえが眩しかったのに…」

「『のに』ってなんだ。別にそこに嘘はねェぞ」

「だけどてめえは敵とコイビトなんだろ?」

「あぁ、それの何が問題なんだ?」

どうも会話が噛み合わない。万事屋もそう思ったのか、もどかしげにキラキラした銀糸を引っ掻き回した。
それは踊るように跳ねて、寧ろ『引っ掻き舞わした』みてぇに感じた。

「だってよ、コイビトって裏切りだろ? 高杉が裏切れっつったらどうすんだよ」

「はぁ? 俺にあいつの命令を聞く義理はねェ」

「じゃあほだされる可能性は1%もないワケ? コイビトに一緒に来いって誘われて、お前はきっぱり撥ね付けられるワケ? 本気でそいつのことが好きなら、んなワケねェよな」

「それはお前の実体験か?」

「万事屋稼業を営んできた奴としての結論だ」

話をそらすな、と赤い双眸が俺を見詰めた。別にそういうつもりじゃなかったんだが。
本心を吐露することに抵抗はねェ。ただ、それを他人が理解出来るとは思ってねェから、俺は高杉以外の前では滅多に口にしない。ほら、高杉は分かってくれるから。
だが、そんな事情を話したところで、こいつは納得しねェんだろうな。仕方なく俺は打ち明けた。

「まぁ…裏切れって言われたら、裏切るな」

「高杉にか」

「いや、カミサマに」

途端に万事屋が眉を顰めた。話をはぐらかしていると思ったらしい。神様なんて信じるがらか、と俺を見詰める2つの赤色が言っていた。
実際、神様なんて信じてねェけどな。

でもな、知ってるか? カミサマはいるんだぜ。
俺にもお前にも、ひとりひとりにカミサマはいる。俺はそのカミサマが言ったことに従うし、逆にカミサマが言ったことにしか従わねェ。たまにカミサマの声が聞こえねェ奴もいるが、そいつァ聞こえてねェんじゃなくて敢えて目をそむけてるだけだ。確かに、カミサマは俺がしたいことをさせてくれるワケじゃねェさ。本心では幕府の腐った上層部を検挙してやりてェのに、今はその時期じゃないとカミサマに止められちゃぁ、どうしようもねェ。そんな感じ。
お前だって前に言ってただろ? 魂がどうとか。なぁ、それってカミサマのことだろ? 正確にはちょっと違うみてぇだけど。

そう丁寧に説明してやれば、万事屋は大きく目を見開いた。
どうした、高杉と同じことを言ってるとでも思ったか。

キラキラを引っ掻き舞わしていた手が、ポタリと垂れ下がる。拍子に数本キラキラが抜けて、指に絡み付いていた。
それがどうにも指を拘束する蜘蛛の巣に見えて、俺は思わずケタケタ笑った。



<了>


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