今日は思ったよりも取り立てがスムーズにいき、少し早めに帰宅出来ることになった。
飲みに行くか、とトムさんが誘ってくれたけど、夕方とすらいえない明るい時間からそれもどうかと思い、今回は遠慮させてもらうことにした。どちらにせよ、こんな時間帯じゃあ殆どの店は閉まっているだろう。どうせトムさんと飲むなら、美味い店のが断然いいに決まっている。

帰路の途中で寄ったコンビニの袋にプリンを引っ提げて、俺は比較的良い気分で自宅のドアを開けた。
そして閉めた。
うん、だってなんか幻覚が見えた。しかもよりによって、ノミ蟲の幻覚だ。マジ最悪。
つーか俺、朝ちゃんと戸締まりしてったよな? だったらなんで中に……いや、いやいやいやいやいや、違うって、だからあれは幻覚だから。ただの錯覚だから俺。
だって、あり得ねェだろ?

あの糞ノミ蟲が俺の家で、俺のパンツ頭から被って、押し入れから出してきたんだろう俺の枕をクンカクンカしつつ、俺の靴下をモグモグしてた、
なんてよぉ。

まったく、どんな幻覚見てんだよ俺。どんまい俺。疲れてるんだよ俺。嗚呼、疲れてるのか俺。

と、現実逃避に成功しかけた瞬間、不幸なことに目の前のドアがバッターン! と開き、中から幻覚野郎が飛び出してきた。

「ちょっとシズちゃん! なんでドア閉めるのさ!」

「お疲れさまでしたさようなら」

「なにが!?」

見なかった見なかった、と必死に自分に暗示をかけるが、このノミ臭ェにおいが俺にこれが現実なのだと知らしめる。

「つーか、てめえ何してんだよ」

とりあえず、これだけははっきりさせておかねばなるまいと、怒りというよりは気持ち悪さにひきつる声で尋ねる。
すると高校時代からの天敵であるはずの男はさらりと「え? 勿論、シズちゃんの家で、シズちゃんのパンツ頭から被って、押し入れから出してきたシズちゃんの枕をクンカクンカしつつ、シズちゃんの靴下をモグモグしてたんだけど?」と、さっき見たまんまの光景を説明してきた。勿論ってなんだ。

「………あ、あぁ、そうか、またいつものごとくワケの分からねェ嫌がらせか」

うん、それなら納得出来る。嫌がらせも、それはそれでムカつくが、まだ精神衛生上負担が軽い気がする。そうかそうか。
という俺の楽観的希望的観測は、しかし臨也の「いや、違うから」の一言で簡単に弾け飛んだ。死ね。

「じゃああれだろ、腹が減って靴下しか食うモンがなかったんだろ」

「シズちゃんって馬鹿?」

「ンだと、手前!」

俺は目の前で呆れた顔をつくって見せるノミ蟲野郎に殴りかかった。それは反射に近い行動だったが、ある程度意識的な行動でもあった。
これで喧嘩に持ち込んでしまえば、この出来事をうやむやにしてしまえる、と思ったんだ。
臨也は確かに変態だが、こんな形の変態であるだなんて誰が望むだろうか。誰だって、変態と知り合いであるよりは、天敵と知り合いあることを望むだろう。
そうして突き出した俺の渾身と祈りを込めた拳が、だがそれが相手に届く前に臨也が大声で叫んだ。


「シズちゃんおかずにして自慰してたに決まってるだろ!」


………嗚呼、そういえば帰りに寄ったコンビニって何つー店だっけ。
俺は遠い目をして、そんなどうでもいいことを青空に思った。




 ̄ ̄
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい




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