窓から射し込む朝日に気付いて、土方はゆっくりと目を覚ました。小鳥のさえずりが聞こえる気持ちの良い朝だ。
気だるい身体に昨夜の情事を思い出して、「チッ」と、苛立ちというよりはただの癖に近い舌打ちを鳴らした。
視線だけを動かして枕元のケータイを確かめると、着信を報せる青いランプがチカチカと光っていた。だが、恐らくあれは日頃から設定しているアラームが鳴ったことを示すランプだろう。つまり自分は、どれほど前かは分からないが、確かに鳴ったアラーム音に気付かず、今の今まで惰眠を貪ってしまっていたということになる。
ここは屯所の副長室だ。余りにも土方が起きてこないとなれば、山崎あたりが様子を見に来るかも知れない。それは困る。布団に散らばる残沚を、裸体に浮き上がる鬱血を、脱ぎ捨てられたままの隊服を、見られるワケにはいかなかった。

(そもそも、あの包帯馬鹿が悪ィんだ。昨夜突然アポなしで、いやアポがあったらあったで嫌だけど、よりによって屯所に夜這いに来やがって! あいつ自分の立場分かってんのか? 幕府が最も警戒する鬼兵隊の頭だぜ? 流されてヤっちまった俺が言うのもなんだが馬鹿だろあいつ…って毎度毎度流されてヤっちまうからあの馬鹿が付け上がんのか。むしろ俺が馬鹿なのか?)

恋人に対する罵倒から始まり、最終的に自己嫌悪に沈んだところで、朝っぱらだというのに疲れ切った溜め息を深く吐き出す。
しかしいつまでもぐだぐだしているワケにはいかない。昨夜やり残した書類――勿論あの夜這い魔のせいでだ――が、溜まっているのだ。
デスクワークは、出来る人間が少ないから担当しているだけであって、本音をこぼせば土方だってこんなつまらない仕事は嫌いである。恋人とはいえ敵方の男と屯所で致してしまった罪悪感も手伝い、今日は憂鬱な1日になりそうだ。
これは是非とも、次に男と会ったとき文句を言ってやらねばと決意する。

「……?」

痛む腰を叱咤して上半身を起こしかけた土方は、そこで初めて、気だるいだけでなく異常に身体が動かしにくいことに気付いた。情事が激しかったから、ではない。そういう類いのものではない。
例えるなら、力強い腕の中に閉じ込められているような。
不審に思い、ちらりと左隣に目を向けて土方は驚愕した。悲鳴を上げなかった自分を褒めてやりたい。
何せそこには、穏やかな表情で睡眠に浸る……

(た、た、た、た、高杉ィィィィィ!?)

……今ここにいてはならない人物が横たわっていたのだから。
何故と考えてみても、昨夜途中で気を失った土方には分かるはずもなく、ただただ高杉が情事のあと帰らずに寝てしまった事実だけを思い知らされるばかりだ。今の今まで気付かなかったのは、寝起きで注意力が散漫になっていたからだと思いたい。
馬鹿じゃねェのこいつ、つーか馬鹿だろ、と罵ってみても事態が好転するワケもなく、取り敢えず敵地で堂々無防備な寝顔を晒す馬鹿を起こそうと手を伸ばす。

「副長ー? 起きてますかー?」

その時タイミング悪く障子の向こう側から、土方を起こしに来たのだろう山崎の声が響いた。「副長ー?」と言いながら障子に手をかける影が見える。
布団には明らかな情事の跡と凶悪テロリスト。これを絶体絶命と言わず、何を絶体絶命とするのか。いっそこの馬鹿を斬って捨ててしまおうか。
ここで、着替え中だそこで待ってろ、とでも言えば良かったのだろうが、如何せんパニックに陥った脳では冷静な判断を下せはしない。
やばいやばい、とおたおたする内にガラリと障子が開けられた。
土方は咄嗟に、地味な山崎に気付かないのか未だに夢の中の高杉――それでいいのかよ指名手配犯、と心の底から思う――を、頭から『そこ』へ突っ込んだ。

「失礼します…って副長」

「な、なんだ山崎?」

高杉を押し込んだ場所に釘付けになる山崎に、内心どきまぎしながら、表面だけは平静を貫いて問い返す。まぁ少々どもってしまったが。
残沚が付いた布団と鬱血まみれの身体は、山崎の目が『そこ』にいっている間に、その布団を裏返しに羽織ることでなんとか隠した。

「つかぬことをお訊きしますが……」

山崎は『そこ』から視線を外すことなく、呆然と疑問を口にした。


「あのマヨネーズ王国の入り口からはみ出てる足は何なんですか?」

「マ、マヨネーズの妖精さんに決まってんだろ(親指グッ☆)」





(目を開ければそこは、壺でした)




――

逆さまで壺に突っ込まれる高杉が書きたかっただけですorz




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