嗚呼、暇だ。こんな日はアイツに会いに行くのが一番だ。
そう思って俺は、似蔵に言付けて京を出発した。
*
「死ねや土方ァァァ!」
ドゴォンッッ
数刻後、江戸に着いた俺が土方を見つけると、薄茶色の髪したガキにちょうど爆撃されているところだった。
あの野郎! 俺の大事なマイハニーに何しやがる!
傷でもついたらどうしてくれんだ、と熱(いき)り立って飛び出そうとした俺は、しかし突然腕を掴まれ、不覚にも前につんのめった。
「晋助様! 流石に今出てくのはマズイっスよ。真選組の奴らがうようよじゃないスか」
何しやがる殺すぞこらぁとメンチを切る前に、直ぐ後ろから若い女の声がした。
「……やっぱりついて来てやがったのか、また子」
振り向いた先にいたのは、金髪の女――来島また子だ。
心配性なのか何なのか俺が江戸へ赴くと毎回引っ付いてくる。別にてめえのフォローがなくても、捕まる俺じゃねェってのによォ。どうせフォローされるなら、土方にしてもらいたいもんだ。いや、フォローっていうより寧ろフェラーだな。間違った、フェラだなフェラ。
そんな妄そ…もとい想像をして、ククッと機嫌良く笑っていると、何故かまた子はそっと俺から視線をそらした。
おい話してるときは相手の目を見るのが礼儀だろうがよ、と俺がまた子に気を取られた間に、土方は「馬鹿野郎! 今のはホントにおっ死ぬとこだったじゃねェか!」と、自分を爆撃したガキに食って掛かっていっていた。
「当たり前でさァ! 殺す気でやったんですからねィ!」
「んだと、コラァァァァッッ!」
ガキもガキだが、あの行動が素直になれねェガキの精一杯の愛情表現だと、鈍いアイツは気付いてねェ。まぁアイツは俺んだから、わざわざ俺からその事実を教える気はありゃしねェがなァ。
俺の、といってもまだ付き合ってるワケじゃねェが、直にそうなるから問題ねェ。
前にそう万斉に言ったら、無言で頭に絆創膏を貼られた。なめてんのかアノ野郎?
そもそも土方は、無自覚に他人をしかも無節操に惹き付けるからタチが悪ィ。吸引力の変わらねェただ1つの掃除機ならぬ、ただ1人の人間だ。
そうこう言ってる間に、またひとり、人間バキュームに吸い込まれたゴミが向こうからやって来るのが見えた。
「ひっじかったくーん!」
銀髪のゴミは、黒い人間バキュームに勢いよく抱きついた。……って何抱きついてんだテメエェェェッッ!
「晋助様ァァァ! 落ち着いて下さいっス! 指名手配テロリストが街中で抜刀は流石にマズイっスからァァァァッッ!」
「あ"? るっせェんだよ。テロリストが常識に従ってどうすんだァ?」
この細腕のどこにそんな力があんだって程の馬鹿力で、また子は俺を羽交い締めにする。
はっきり言ってウゼェ。また子の言ってる事も一理あるが、そんな事してる間にアイツが天パの餌食になっちまう。
俺にゃあ一刻の猶予とやらも許されねェ。
「おい万事屋、俺ァ仕事中だっつってんだろ。放しやがれ」
「んー? いいじゃん。忙しい恋人との数少ない逢瀬なんだし?」
「誰が恋人だァァァッ!?」
「土方くん」と、満面の気色悪ィ笑みを浮かべる銀髪のゴミ。因みに抱きついたまま。
攘夷戦争時代の戦友は、その白夜叉の面影を完全に失っている。
「チッ、アイツも気安く口説かれてんじゃねェよ」
苛立ちは思わず土方に向かう。
「晋助様……それは流石にただの八つ当たりっス……」
うるせェ、知ってらァ!
「ねぇ、なんで土方君は俺の告白、毎回真剣に聞いてくれないの?」
元白夜叉――そう、俺としちゃァ『元』ってとこを強調したい――は口調はそのままに、少し低めの声を出す。
「てめえが俺をからかってるからだろが」
「やっぱり土方君、そんな風に思ってたんだ。銀さん本気なのによ」
「…………」
黙り込んだ土方を見て、俺はヤバイと思った。存外お人好しで押しに弱いアイツの事だ、このままではほだされる。
しかも、寄りによって銀時の野郎は、いざという時の煌めく目で土方をじっと見詰めている。
心なしか、土方の頬が次第に赤く染まっていっているような気がする。あぁ可愛いな、喰っちまいてェ…じゃなくて!
「す、済まねェ、万事屋…俺……、」
「いーよ、土方君が取り敢えず俺の気持ちを信じてくれさえすれば」
ニッコリと、俺から見れば胡散臭さ120%の笑みを、銀時は浮かべた。
徐々に気恥ずかしそうに俯く土方に、本気でヤバイと感じる。
「万事屋、俺…済まねェ。お前の気持ちは分かったから一度真剣に考えてみる」
「土方君……」
「告白を受け取れるかはまだ分からねェ。だけど待っててくれねェか? 少なくとも俺は…お、お前の事……き、嫌いじゃ…、」
ピッ
ドォォ…ンッ
俺は無意識に、事前に高官の私宅へセットしていた爆弾の起爆スイッチを押していた。
隣でまた子が「なんて事してるんスかァァァァ!?」とか叫んでるが無視だ無視。
「それは明日、今から仕掛ける他の場所の爆弾と一緒に一斉爆破させる為のヤツじゃないっスか!」
「煩ェ、俺ァただ壊すだけだ、十四郎が手に入らねェこの腐った世界を」
「そんな理由ゥゥゥゥ!?」
あーもう煩ェな。ちったァ黙ってろや。
「何だ!? テロか!」
慌てて駆け出そうとする土方の背に、銀時が満面の笑みで声をかける。
「愛してるよ土方くぅん!」
「アホかてめえェェェェ!」
だが、そうやって悪態をつく土方の耳が、りんごよりも真っ赤に染まってるのに気がついた。
チクショウ、爆風で目に塵でも入ったか? 前が霞んで見えねェぜ。
 ̄ ̄
こんなに晋助をカワイソウにするつもりはなかったんです