以上が俺の運命の日、人生が最悪な方向へ転がり出した記念日の顛末だ。
どうやら今までは『抜け駆け禁止』の協定を結んでたらしい馬鹿共は、しかしあの一件で、銀髪の悪魔によってそれが破棄されたことをいいことに、我先にとアイノコクハクとやらをしてくるようになった。

「土方ァァァアァ! 愛しの銀さんがやって来てあげたよ〜!」

「誰が『愛しの…』なんですかィ? 土方さんは俺の恋人だと何年も前から決まってまさァ」

「ふんッ、馬鹿共め! 土方は俺とエリザベスと三人家族、裕福ではないながらも、仲睦まじく穏やかに縁側に座って、茶を飲みつつ碁を打って…(以下略)…最期は手と手を取り合って黄泉の旅路に出るのだ!」

「あれ(以下略)って自分で言った!? しかもなんかキモチワル!? 大体副長は俺とミント…「「「ジミーは喋んな」」」


毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎ッ回これだ!
喧嘩の原因を知らなかった頃の方が、何億倍も精神的負担が少なかった。今までライバルやら、弟分やら、敵方やら、信頼出来る部下やら、その他諸々…。そんな関係だと思ってた奴らに、ホモでもないのに告られ続けるなんざ、チクショウなんの罰ゲームだよ。
疲れる、毎日がマジ疲れる。真剣に逃げ出そうかと悩んだ事もあった。逃げなかったのは、近藤さんの存在故だ。あの人はお妙にゾッコンだからなんかホッとする。もしも近藤さんにまで、おいトシちょっとケツ掘らせろ、とか言われたら俺もう自殺する。
まぁ近藤さんはそんなこと絶対言わないけどな。
俺の今の癒しは近藤さんと、煙草ぐれェだ。マヨは中に何盛られるか分かったもんじゃない。危険過ぎて癒しとはいえない。


あぁ、それともうひとつ……。




「つ、疲れた…」

今日も俺は、精神を磨り減らして私室に戻った。
桂には追い回され――てか立場逆じゃね? ――、万事屋には押し倒され――着物脱がされかけた時は泣きたくなった――、総悟にはマヨに媚薬を盛られ――毒味にと庭の猫に舐めさせたら急に盛り出したビビった――、山崎を始め真選組隊士共には……いや、もういい。もう考えたくない。
かつては効果てきめんだった『絶交すんぞ』の言葉さえ、近頃は効かない。絶交されても、他の奴に俺を盗られるよりましらしい。
勘弁して欲しい。

「はぁ…」

すでに日課となった溜め息とともに、私室のふすまを開ける。
ここは唯一の安全地帯だ。以前馬鹿共に、両想いになるまで部屋には入れねェと宣言したら、土方は乙女だなぁとかなんとか、そんなような意味合いの馬鹿特有の解釈で了解されたのだ。大体、男同士で両想いってなんだ。

「相変わらず、くたびれた面だなァ」

ククッと、部屋から揶揄する声が聞こえた。
室内は煙管の煙で白い。もちろん目の前の男が出したものだ。
喫煙者であっても煙たいと感じる濃さのそれは、しかし一方で煙草とどこか似たような匂いで肺を満たしてきて少し落ち着く。

「高杉、」

また来てやがったのかという副音声を滲ませて、低く唸ってみせれば、本来敵であるはずの高杉は寛いだ仕草でひょいと肩をすくめた。

「一応、気遣いで来てやってるんだがなァ」

「感謝しろってか? 敵に」

「敵からの感謝なんざいるか」

「どっちだよ」

会話が成り立たないと思いつつも、だけどどうしてかこの意味のないやり取りは、煩わしく感じない。たぶん、高杉が何か意図を持って喋ってくるわけでもなければ、俺自身、何を考えるでもなく自然体でただ『喋っているだけ』だからだろう。

「……俺、なんも知らなかった頃に戻りてェ」

思わず愚痴ると、高杉はカラカラと笑った。
小馬鹿にしたような、とも取れる笑い声が響く。だが、実際はなんの邪気もないものだと知っている。こいつは単に愉快だったから笑っただけだ。

「俺との交流もなかったことにしてェと?」

「当たり前ェだテロリスト……と言ってやりてェところだが。嗚呼まぁ、ちょっと迷うな」

「素直なこって」

「うるせェ。さっさといつものしろよ高杉」

照れ隠しでぶっきらぼうになったその言葉にも、高杉は気にした風もなく、部屋の押し入れを開け、奥からズルリと三味線を取り出した。
高杉がここにやって来るようになったのは、あの例の馬鹿共がアイノコクハクをして騒ぎだし、屯所の警備が比較的緩くなり出した――何せ見張りも含めコクハク大会全員参加だ――頃からだった。
馬鹿騒ぎに疲れて自室に帰ってみれば、ある日突然当たり前のような顔をした高杉がそこにいた。最初は剣を交えることもあったが、高杉は何故か本気で俺を殺そうとはしなかったし、何よりこいつは馬鹿共のようにキモチワルイ言葉を吐かなかった。そして、だからこそ俺は、いつの間にかこいつがここに来るのを許してしまっていた。
高杉との斬り合いはストレス発散にもなった。他にも、煙草に似た煙管の匂いとか、奴の奏でる風流な三味線の音とか、とにかく居心地が良かった。ただひとり大切な人のために全てをかける、その思考回路も通じるところがあったからかもしれない。
本来は許されない馴れ合いだが、今の世の中、桂が俺にアイノコクハクするぐらいだ。構やしねェ。

ベンベン…と、三味線の音が室内に響き渡る。
嗚呼、これが俺のもうひとつの癒し。
馬鹿共と違い、何も言わずに傍にいてくれる。アイノコクハクをして来ねェ。それだけでも俺は泣きたいぐらいに安堵する。その上、三味線? 完璧なカウンセラーじゃねェか。
三味線を奏でる高杉の隣に座り、目を閉じる。途端に睡魔が襲う。
そして睡魔の命じるままに、ポテリと高杉の肩に頭を傾けて乗せる。これも今や日課。
香る煙管、落ち着く。
馬鹿共からの解放だ。

「おやすみ土方」

低く耳元で囁かれる声も、続いて額に何かが触れる感じも、かかる息づかいも、全てが落ち着く。居心地がいい。ずっと感じていたい。

この想いがなんの『感情』に起因してるかなんて気付かずに、俺は今日も高杉の隣で疲れを癒す。




 ̄ ̄
告白する勇気を持てなかったヘタレ晋助が結果的に一人勝ち(爆)





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