好きで、好きで、好きで、仕方のない人がいるんです。
その人のためならば、なんだって出来る自信があるんです。

そう告げたら、目の前の想い人は泣きそうな顔をした。
勿論それは、他の人なら気付きやしないだろう僅かな歪みだったけれど、ヒクリと一度だけ痙攣した白磁の瞼に、そう確信したのだ。

「違いますよ副長、俺が好きで好きで仕方ないのは……」

「分かってる。別に勘違いしちゃいねェさ」

鈍感さに定評のある彼は煙草の紫煙と共に、そんな言葉を宙に吐き出した。
ゆらゆら、ゆらゆら、白い揺らめきが上へと昇る。天井に蓋されて凝る、凝る。
他人(ひと)の心の機微に疎いとは、敢えて悟らないようにしているからこそなのだと知っている。でもそれが、相手が悟られたくないと思っていることを分かっているからそうしているのか、相手の気持ちを悟ることが自分の重荷になると分かっているからそうしているのかは知らない。
しかし、なんにせよ、彼は鈍感ではない。

「俺が決死の覚悟で告白したら、俺の想い人は受け取ってくれると思いますか?」

訊いてしまったのは、未練がましい弱さゆえ。
彼が鈍感ではないことと同時に、自分も鈍感ではないから、それがゆえの卑怯な問いかけだった。
だって自分は彼のモノで、彼だけを見ていたから、彼のことを深くまで良く知ってしまっている。だから、彼が誰を好いていて、それが所謂ソーシソーアイだと予想立てることは容易だった。つまり、彼の好い人は我らが大将でもなければ、亜麻色の髪の弟分でも、銀色の侍でもないのだ。
ここで彼が頷きさえすれば、きっとその予想は裏付けを得て確信に変わる。
要するに、その時点を持って、この想いは報われるのだ。

「……山崎」

「はい」

「たぶんその想い人とやらは、」

だって自分は彼のモノで、彼だけを見ていたから、彼のことを深くまで良く知ってしまっている。だから、彼がどう答えるかだとか予想立てることは容易だった。
嗚呼、容易なのだ。
血臭立ち込める道を突き進む心優しき鬼は、やっぱりソーシソーアイになることを恐れていて、愛した相手をミチヅレにすることを全力で阻止しようとするのだから。
仲間までも疑って生きなくてはならない監察なんて――例え手を添えるような程度だとしても――すでに片棒を担いでいるのと同じだろうに。
それでも、まったく、何故、彼はいつもいつもいつまでも、いつまでたっても『そう』なのだろう。
いや、もしかしたら、片棒を担がせて『しまっている』と、思い込んでいるからこそ、余計頑なに『そう』なのかもしれない。こちらは決して、彼の気遣いなど、欲してはいないというのに。


ひとつ赦したのならゼンブ赦して下さいよ。


心の中で、そう告げる。

そんな文句、本当に口に出して言ってしまえるワケがなかった。
特に、ぐだぐだに酔っ払ったときポロリと『俺の愛したやつは死んじまうサダメらしいぜ』、なんて零したこの優しくて残酷な人には、絶対に。





(ンなことで死ぬなと言うんじゃないか、なんて、嗚呼、遠回しな拒絶だ)




 ̄ ̄
両想いだって知っているくせにくっつかない山土(シリアス)




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