「よぉ」

そんな軽快な挨拶と共に、カチャリと後頭部に突き付けられたのは拳銃だった。

「……てめえは『ここ』でもンなことやってんのか」

呆れて溜め息を吐き出せば、聞き慣れた、しかし耳に馴染みのない笑いが返された。
揶揄とも、愉悦とも、判断がつかない特徴的な笑い声。

「馬鹿言うな、『ここ』じゃあ俺は健全無害な一介の男子高校生だ」

モデルガンだぜモデルガン、と拳銃――いや、モデルガンか――をふりふり見せ付けるように玩ぶ男は、幾分記憶よりも明朗な口調だった。
嗚呼、お前は少なくとも『今』幸せなんだな。
そう思って、ゆっくり振り返ると、やはり予想通り、記憶のそれよりも随分と若い、それでもしっかりと男の面影を残す学ランの少年が立っていた。
あどけない、と印象を懐いたのは、彼の身の内に巣食っていた闇が今の彼にはないからか。或いは単に自分が成人した彼の姿というものを知っているからだろうか。

「取り敢えず、学校にオモチャ持ってくんな没収だ」

「おいおい、新任直後からお堅ェなぁ。流石、鬼の土方」

「アホ、教免取り立ての新米教師にンな大層なあだ名はねェよ」

放課後職員室に取りに来い、と言えば、言葉の裏に含まれた意味に気付いたのか、眼帯に隠れていない方の眼が大きく見開かれた。
その反応は、実に意外なものだった。

何も驚くことないじゃねェか。

別にもう敵同士ではないのだし、最期に逢ってから百何十年も離ればなれだったのだし、例え次に会う約束を、ハジメテこちらから取り付けようが、もう誰にも構わないじゃないか。
そう、思った。
そんな想いが伝わったのか伝わってないのか、直ぐに返ってきた「あぁ」という肯定に、少しドキリとした。声は少年のものなのに、かつての男が閨に誘うときの、色を含んだ音とどこか一緒で困る。それには弱いのだ。
視線がかちりと絡み合う。今、気づいた。顔が近い。


キーンコーンカーンコーン、と予鈴が鳴った。

江戸の空気が壊れ、東京のそれに戻る。
げ、やべぇ次とっつぁんの数学じゃねェか予習してねェ、と慌ただしく去っていく少年の背中を見ていたら、急に笑いが込み上げてきた。あんな、学生丸出しの台詞を、よりによってあの高杉が、など。
それを言えば、自分もあんな教師丸出しの台詞を、なのだけれども。

ふと、廊下の窓から外に目をやると、そこは紛れもなく東京の街並みだった。
晴れた空に宇宙艦などひとつもない。





(いつも僕は同じ夢を視るの。哀しくて寂しくて切なくて、ほんの少しシアワセな夢だよ)




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