俺が土方宅に侵入して世話を焼いてることは土方本人にゃ決して知られてはいけないことだった。
何故なら、手配書で顔は知ってるとはいえ、『赤の他人』がいきなり自宅で飯作ってたらびびるだろぉ? 図太い銀時も、電波なヅラも、馬鹿丸出しの坂本も、メチャクチャ優しい松陽先生だって引くに決まってる。
そう、悲しいことに土方にとっての俺の位置付けは『赤の他人』もしくは『指名手配犯』でしかないのだ。
ラスボス的役割が似合う俺は裏で暗躍することが多く、直接土方と剣を交わしたこともなければ言葉を交わしたこともない。
勿論、妄想の中では剣も言葉も、それ以上もくんずほぐれずドロドロに交わっているがな。

だから俺にとっての土方の位置付けは恋人であり妻であり嫁であるから別に――ついさっき『悲しいことに』とはいったものの――土方にとっての俺が『赤の他人』もしくは『指名手配犯』だろうと、うちひしがれるような悲しさはない。
こう言うと万斉の野郎に『恋人や伴侶というものは、互いが互いをそう思わなければ、況してやどちらかが一方的にそう思っているだけではその関係が成立したとは言えないのでござるよ』だとかなんとか、やったら長ったらしい台詞をくっちゃべられたモンだが、あれは土方の可愛さに嫉妬してるだけだろう。全くハニーも罪作りな子猫ちゃんだぜアッハッハ。
そこまで思って、俺はひとつ不安になって懐からケータイを取り出した。

「……あ、もしもし万斉かぁ? 土方に手ェだしたら殺すからな」

『いきなり何がどうしたでござるか馬鹿。別に拙者は土方殿になんの感慨も抱いておらぬよ馬鹿』

「おいおい土方の可愛さに気付けねェたぁ可哀想な奴だなお前。それじゃあ生きててもつまんねェだろ。よし、帰ったら俺が殺してやる喜べ」

『わーい、やったー(棒読み)。というわけでお主はもう一生帰って来なくて良いでござる消えろ馬鹿』

ブチッ、ツーツーツー

あ、切りやがった。
万斉の声が途切れ、無機質な機械音が電話口から聞こえてきて、俺は奴に少し申し訳なくなった。
どうやらあいつは、電話線を越えて溢れだしていたらしい俺と土方との甘い空気――なんたって今は二人きりだ――に耐えきれなかったみてぇだからな。

土方? あぁそうだ、今はあんな音楽電波に気をとられてる場合じゃねェ。目の前のマイハニーに集中するのが夫の勤めだ。
おっと、勘違いするなよ? いや、『夫』と『おっと』のことじゃねェぞ違うからなこれぁたまたまだからな。
とにかく、勘違いするなよ? 俺ァ別に万斉にかまけてマイハニーの存在を放置していたわけじゃねェ。単に現実逃避のために万斉に電話をかけたのだ。

だって、そうさ、分かってらァ。これで俺と土方は破局なんだってことぐれぇ。……おい誰だ、今『始まってもねェのに破局も何も』とか言った奴。幕府より先に壊してやるからな。

例え菩薩より寛大な聖なる心を持っている土方とて、こいつが真選組副長であることを誇りとする限り、不法侵入指名手配犯を見逃すワケがないのだ。
だから姿を見られるのはご法度だったってのによぉ。
そもそも赤の他人――あくまでも『土方にとっての』、だが――が勝手にプライベート空間に上がり込んで、我が物顔で家事とかしてたら普通引く。つーか俺がされたらドン引く自信がある。

俺は土方から三下り半を突き付けられる覚悟を固めた。
すると土方は、来たる別れを想像して青ざめる俺を一瞥して、次に何事もなかったかのように、もむもむと用意した料理を食べ始めた。

あ? なんだこれ? ちょっと意味分かんね。腹でも減ってたのかァ?
困惑する俺を他所に土方という名のエンジェルは、黙々と料理を平らげていく。仕上げ――つーかトドメっつーか――とばかりにぶちまけられたマヨネーズは大層料理への食欲を萎えさせるが、口に運ぶ際、必然的に口元に付着するマヨネーズをぺろりと官能的な赤い舌で舐め取る様子は、土方への食欲を煽った。
とりあえずこの光景を心のメモリーカードに永久保存して、ついでに心の中でバックアップを取っておく。困惑していても流石出来る男、俺。
しかしなんでケータイの写メってシャッター音消せないんだろうな。隠し撮りが出来ねェじゃねェか。

今日からしばらくはマヨプレイだな、と今夜のおかずを決めたところで、ちょうど完食した土方が「ふぅ」と一言、誘ってるとしか思えねェような息を漏らし、箸を置いた。
ここで襲いかからねェのぁ俺が紳士だからだ。断じてびびってるワケじゃない。今度こそ本当に突き付けられるであろう三下り半に怯えて足がガクガクしてるワケじゃない。別に違う。
大丈夫だ、俺にゃあ心のメモリーカードに永久保存したマヨネーズ土方エンジェルがいるだろ。あれさえあれば、俺ぁきっと生きていける。っていうかイける。
だがやっぱり本物のハニーには触っていてェよなぁ、触ったことねェけど。脳内で触ってるから別にあれだけど。実際に土方に――あらゆる意味で――包まれたら爆発出来る自信がある。いや、間違っても暴発ではないからな、それぁ男としてどうなんだよ。
つまり土方を手中に収めたら、そのままのテンションで世界ぐれぇぶっ壊せるに違いないのだ。

結局何が言いたいのかというと、あぁ、白状しよう。
とにかく俺は、破局なんて嫌だァァァァ! と内心絶叫したのだ。

土方はそんな俺を真っ直ぐ見据えて、おもむろに口を開いた。




「高杉、結婚を前提に付き合ってくれねぇか?」

「……え? え、えぇぇぇぇぇぇ!?」


なんだ、世界も捨てたもんじゃねェな。




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