土方side


ここ最近、身の回りで不可解な出来事が続発している。
知らない内に家が掃除されてたり、ゴミ捨てがしてあったり、シャンプーが詰め替えてあったり、服が洗濯されてたりクリーニングに出されたり……まぁ実害がねェから敢えて追及しようとはしなかった。面倒臭ェし。
まぁとにかく世界って摩訶不思議アドベンチャーなんだな、とぐれぇにしか考えてなかった。

だが、あるとき不意に、本当に何がきっかけでもなく不意に、こんだけ無償で世話焼いてくれるなんて、イイヤツだよなこいつ、とか思っちまった日から、俺の心情は瞬く間に変化してしまった。

俺はイイヤツの正体を知りたくて知りたくて堪らなくなったのだ。つーか会いたくて会いたくて、か?
まぁその辺の差異は些細なことだ。
つまり俺ぁその姿も知らねェイイヤツにマヨを前にしたみてぇな――卵と油の比率が知りてェとか、あの黄色を目にしてェとか――、そんな興味と愛しさを抱いたワケだ。


……そう、分かりやすく言やあ、何を隠そう、俺ぁそいつにコイシチャッタのだ!




恋しちゃったんだ たぶん 気づいてないでしょう〜。

るらるら鼻歌を歌いながら巡察していると、隣を歩いていたそーごに何か犬の糞でも見るような目付きで見られた。
あ? もしかして浮かれすぎていつの間にか踏んじまってたのか?
だとしたらそーごも人が悪ィな、知ってたけどよ。踏む前に糞の存在を教えてくれたっていいじゃねェか。

屯所に帰って早速靴を調べてみたが、糞は見当たらなかった。
実は靴じゃなくてもっと他の、例えばズボンの裾とかについたのか、と念入りに至るところチェックしていたら、すっかり定時を過ぎて辺りは暗くなっていた。
ここで、残業時恒例の屯所泊まりを決行しても良かったのだが、明日は非番だし急ぎの仕事が溜まってるワケでもねェ。俺は私宅に帰ることにした。
半分ぐれぇは俺の想い人――イイヤツさんに会えるんじゃねェかと期待して。


「……た、高杉晋助?」

だが、いざ玄関をくぐると、そこにいたのはご機嫌な様子で晩飯の支度をする凶悪テロリストの指名手配犯だった。
相手は俺が帰ってきたことに気付いてねェ――どんだけ料理に夢中なんだ――ようだったから、問答無用で斬りかかればことは済んだのだが、あいにく困惑しきった俺は、思わずその名を口にしていた。
高杉がハッと振り返る。
愕然として隻眼を見開き、冷や汗をダラダラ流す奴は、本当にあの高杉晋助かと訊きたくなる程なんか可哀想な感じだった。

取って付けたのがバレバレの笑顔で「よ、よぉ、土方おかえり」なんて、朗らかに片手を挙げて当たり障りのない挨拶を返されても、それはそれで対応に困る。
とりあえずツッコんどきゃあいいか、とか安易な理由で「あ、ただいま……じゃねェ! 何でてめえがここにいる高杉ぃぃぃぃぃ!」と、ノリツッコミという高度なテクを繰り出しながら抜刀すると、「うぉ馬鹿、室内で抜刀すんなや。つーか火ィ使ってるときにちょっかいかけんじゃねェって常識だろ」と、不法侵入者のくせに常識を振りかざしてきやがった。イラッ。

「なぁにが常識だ! 人ん家に不法侵入かまして勝手に台所物色しやがって! 何で指名手配犯が警察の私宅で無許可で晩飯作ってんだよ!?」

「何を今更。まぁ晩飯作ったのぁ今回が初めてだが……」

「今更!? 今更ってこたぁ何か!? まさか今まで知らない内に家が掃除されてたり、ゴミ捨てがしてあったり、シャンプーが詰め替えてあったり、服が洗濯されてたりクリーニングに出されたり……まぁ実害がねェからって放っといた俺も俺だが、それもこれも全部全部……」

高杉に対して敵意を剥き出しにしていた俺は、だが奴の爆弾発言でそれどころではなくなった。
あばばばば、とプチパニックを起こして頭をかかえる。
だって奴の言ったことに嘘偽りがないのならば、俺の恋しちゃったイイヤツさんはこの高杉晋助ということになる。いやいやいやいや、勘弁してくださいよー、そりゃねェっスよー。マジねェわマヨネーズ値上がりぐれぇマジねェわ。
と、現実逃避をしてみても、事実マヨネーズは値上がりしたワケで、高杉晋助がどうやらイイヤツさんらしいことは最早確定的だった。

ととととにかくもちつけ、じゃなくて落ち着け俺。こういうときはどうするべきだ?
………って、どうするべきとか知るかァァァァァァ! 俺の人生プランの中には『疲れて自宅に帰ってみればほぼ初対面の指名手配犯が我が物顔でクッキングしてたよびっくりびっくり』なときの対応法なんざ組み込まれてねェんだよ!
いやいや冷静になれ俺。とにかく落ち着け、じゃなくてもちつけ、あれ? じゃなくて落ち着け?
もう自分でも自分が何言ってんのかワケが分からない。

すると、しばらくパニックを起こした俺を見て頬を染めたりニヘラニヘラ気持ち悪い笑いを浮かべていた高杉が、急にザッと青ざめたかと思うと、突然懐からケータイを取り出して、どこやらにかけ始めた。

「……あ、もしもし万斉かぁ?」

あれ? もしかして俺ガン無視?

何調子乗ってんだこの不法侵入野郎、と沸き上がった怒りのままに殴り斬り殺してついでに磨り潰して独房にぶち込んでやっても良かったのだが、それより先に何故こいつが急に電話をかけ始めたのかの方が気になった。
だって、こいつが電話をかける要素なんざ1個もなかったはずなのだ。俺らがしていたことといえば、ただお互いにパニックを起こし合っていただけなのだから。

………って、え?

そこまで考えて、ある可能性が脳裏に閃いた。


ま、まさかこいつ!
俺が落ち着きを取り戻せるように暫時ひとりで熟考する時間をくれたんじゃねェか!?

それ故、意識を外すようにして電話をかけ始めたに違ェねェ。俺が目の前の高杉を気にせずに、自分の思考に没頭出来るように。
な、なんつーいいやつなんだ高杉晋助! そう言えば俺は元々知っていたじゃねェか、『こいつ』は当然『いいやつ』なんだと。何故ならこいつは俺の恋しちゃった『イイヤツ』さんなのだから!
そうだ、イイヤツさんは人をガン無視するような、そんな人じゃねェ!

それさえ分かれば、あとはもう十分だった。嗚呼、俺は何を戸惑っていたのだろう。高杉はイイヤツなのだ、イイヤツは高杉なのだ。そして俺はそのイイヤツさんが好きなのだ。
好きなやつが目の前に現れたら、すなわち俺がすべきことはたったひとつしかない。
告白だ。
相手に受け入れてもらえるかもらえまいかは問題ではない。相手が俺の気持ちを知っているか知っていまいか、だ。

勿論、高杉が俺を受け入れてくれるなんてあり得ねェと分かっている。それは自明であり、そもそも俺と高杉は敵同士だ。
だけど、だからこそ、高杉は俺の護るべき対象にはなり得ないワケで、つまり俺はミツバのときのように相手の幸せを憂いてこの気持ちを押し殺す、なんてそんな必要はないワケだ。

高杉の与えてくれた猶予――電話が終了するまでの間――のうちに、なんとか自分の気持ちに折り合いがつけられてほっとする。
やがて電話が切れたのか、ケータイを懐にしまいながらこちらに顔を向けた高杉に、俺がとる行動は決まっていた。
告白すること。
それにはまず相手に対して誠意を見せなきゃならねェ。

何故か異様に青ざめている高杉を一瞥して、覚悟を示すように固い表情を作ったまま、俺は用意してもらった料理を食べ始めた。
味は文句なく美味かった。特にマヨとのハーモニーが絶妙だった。まさしく、マヨネーズ・マヨネーズ・マヨネーズだった。いや、マヨネーズだった。
とどのつまり、ただのマヨネーズじゃねェかという無粋なツッコミは控えてもらおう。そうではない。だってホラ、なんか真心の味がする。流石、俺の高杉だ。
りんごはなんだか傷でもついたかのように変色してしまっていたが、まぁ味は変わらないから構わない。うっすら『すきやき』と書いてあるようにも見えなくもないウサギ型りんごを口に放り込み、そんな評価を下して咀嚼する。

「ふぅ」

すっかり完食して、満足感いっぱいの息をついたところで、高杉が気まずそうにこちらをチラチラ見ているのに気が付いた。
つーかなんであいつ、あんなに足ガクガクなんだ?

まぁいいか。

たいして気にすることでもねェだろうと結論付けた俺は、真っ直ぐやつを見据えて、少し性急かとも思いつつ、しかし意を決して口を開いた。

「高杉、結婚を前提に付き合ってくれねぇか?」

すると、やはり突然過ぎたのか――流石に結婚はまずかった、せめて好きですぐれぇに留めとくべきだった――高杉は「……え? え、えぇぇぇぇぇぇ!?」と叫んだ。


そして、続いて更に激しく絶叫した。




「俺達って結婚してなかったのかァァァァァァ!?」

「……え? え、えぇぇぇぇぇぇ!?」


嗚呼、やっぱり世界って摩訶不思議アドベンチャーだ。




知らないんですかィ? 男同士は結婚出来ねェんですぜ。
知らねェのか? 男同士でも結婚式は挙げられるんだぜ。
(そんな後日談)




 ̄ ̄
誰が1番馬鹿って、これ書いてる私




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