実は俺達…あれなんです。 | ナノ

ひみつ道具ネタ


すっげぇモノを手に入れた。どのぐらいすっげぇかっていうと、マジすっげぇ。
代金きっかり5000円。まぁ俺にとっちゃァ端金だが、それだけに良い買い物をしたと思ってる。
ツンが過ぎる恋人と、こいつの効果でイチャイチャらぶらぶしてやるんだ!


‐あいあいパラソル‐



昨夜降った雨で濡れた道を、上機嫌でパチャピチャさせながら『目的』へと向かう。目的地じゃねェぞ、目的だ。
ところどころに水溜まりが出来ちゃァいるが、今の天気は快晴。虹が出ていても不思議じゃねェような昼下がり。なんだか楽しくなってきて、手にした傘を振り回した。
周りの通行人共がぎょっとして俺を避けていくが、それは俺が急に傘を振り回したからか、それとも指名手配犯だからか。
って何考えてんだ俺ァ。そもそもいい年こいて傘振り回すなよ。
だいぶトウシロウに感化されて来てるらしい自分を自覚して、半ば呆れつつも、ふっと目の端に引っ掛かった『目的』に気付いた。俺はにやりとニヒルに笑って『そいつ』の肩をポンっと叩いた。

「よぉ、ハニー。こんな広い江戸で偶然会えるたァ俺とてめえの運命の赤い糸は、」

ガシャン

そうそうガシャンと繋がって……って、ガシャン?

「午前9時7分、高杉晋助逮捕、と」

視線を落とすと、そこには運命の赤い糸っつーか銀色の鎖っつーか、手錠? で繋がれた俺の両手があった。
おいおい子猫ちゃん、おいたはいけねェなぁ。この場合、俺の右手とお前の左手をガチャコンするべきだろうが空気読めてねェな相変わらず馬鹿だなお前。
いや、そんなことはどうでもいい。そこじゃねェだろ。寧ろ俺が馬鹿なのか?

「……こういうときだけ真面目に仕事すんのやめろや」

「はぁ? いつもは真面目に仕事しろっつーじゃねェか。職務中に犯罪者捕まえて何が悪い。お前カワイソウだな頭」

「お前にカワイソウとか言われたくねェよ! こういうときだけっつってんだろうが! 大体俺らが本当に遂行すべき任務は真選組の仕事じゃなくてだなぁ…」

「あ、そういえばお前何か妖怪?」

「おい、俺はツッコまねェぞ。敢えて言うなら、人の話は最後まで聞け」

何がきっかけか知らねェが、突如『土方十四郎』の演技をかなぐり捨てたトウシロウは、へらりと笑って、「ふて腐れるなってー」と片手をひらひらさせた。
俺はふて腐れてなんてない。どっちかってと腐ってるのはトウシロウの方だ。頭の中が。

「で、用ってのはその傘か?」

「相変わらず察しがいいな馬鹿のくせに」

「いやぁお前ほどじゃねェって」

「なんだその失礼極まりない謙遜!? いや、いい。話が進まねェ」

これは『あいあいパラソル』っつってなァ、と俺は手にした真っ赤な傘を、トウシロウの眼前に突き付けながら説明する。

「…つーワケだ」

「ふぅん、つまりこいつで相合い傘をすると、している人間は相手のことが好きになっちまうってことか」

「あぁ」

だからやろうぜ、という意味を含ませて傘を差し出すと、何に拗ねたのかトウシロウは頬を膨らませてそっぽを向いた。
とっくに成人した男のくせに、そんな仕草がイヤほど似合うんだから、俺のマイハニーは半端ない。ぷっつり理性をカットして、この可愛い生き物を押し倒してやりたかったが、手錠がはまったままの俺じゃあ不利だから、それは流石に諦めた。
代わりに「何拗ねてんだァ?」と、色気たっぷりな低い声を耳元で囁いてみた。

「シンスケが堂々と浮気宣言するからだろ。誰と相合い傘するつもりなんだよ」

「あ? 俺がお前以外と相合い傘するわけがねェだろうが」

「だって意味分かんねェよ。俺とお前は恋人だろ? 好き合ってんだろ? その傘は必要ねェじゃねェか」

「……え」

トウシロウは俯き加減で僅かに震えながら、俺から傘を奪い取った。そして懐から取り出したボンドで手錠に固定させていく。金属用なのか何なのか、それはたちまち固まって、しっかり貼り付いた。
よくよく考えれば、何でボンド常備!? だとか、そもそも何してんだ!? だとか、色々ツッコミを入れるべき場面だったが、このときの俺は、今のはまさか、デレ!? 稀少なデレが発動したのか!? と、舞い上がっていて露ほど気にしていなかった。

「シンスケの馬鹿野郎!」

震えた詰りと共にドンッと勢いよく突き飛ばされて尻餅をつく。だが、みっともねェとか思ってる場合じゃねェ。
慌てて「トウシロウ!」と、弁解の意を込めて顔を上げると、そこには目一杯に涙を浮かべ――――るどころかカラッカラに乾いた瞳で、ニンマリほくそ笑んでいるトラブル量産機が立っていた。
あ、はめられた。
反射的にそう思った。するとトウシロウは綺麗な顔にいたずらっ子みてぇな、だけどそれより数段タチの悪ィ笑みのまま、俺の足元の地面を指差した。

「おい、気を付けねェと恋人潰しちまうぜ?」

嫌な予感がして視線を下ろすと、うごうご動く一匹の蟻が目に止まる。ザッと血の気が引いた。
と、同時に沸き上がる愛しさ。ときめき。速くなる鼓動。今までトウシロウにしか感じたことのなかったあれやこれやを自覚して、本気でヤバイと焦る。
頼むから誰かこの傘の貼り付けられた手錠を外してくれ!
恥も外聞もかなぐり捨てて、土下座して請おうとした瞬間、ふと足元の蟻と目があった(ような気がした)。
バッコーン! と頭がパンクして、爆笑するトウシロウの声をどこか遠くで聞きながら、俺は……、


そこから先の記憶は、幸か不幸か残ってない。
だが、あのあと何とかトウシロウへの愛のパワーで正気に帰った俺が鬼兵隊のアジトに戻ると、いつもはある部下達からの「高杉さんお帰りなさい」の声がなかった。
最近入り浸ってる神威までもが、視線を合わせないようにしてくるのを見て、俺は初めて本気でこの腐った世界をぶっ壊そうと誓った。


 ̄ ̄
単にシンスケを虐めるシリーズになってきた希ガス…



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -