君の上に雨が降った日
ざぁざぁと雨が降る。
「……なぁ、馬鹿っていうやつの方が馬鹿なんだよな?」
「あぁ」
あいつの問いかけを掻き消すように、俺の返答を塗り潰すように。
「けど、馬鹿って言われるやつも、やっぱり馬鹿なんだよな?」
「あぁ」
ざぁざぁと雨が降る。
「だったら世の中みんな馬鹿だよな?」
「あぁ」
ざぁざぁと、洗い流すように。
洗い流したくて。
「みんな馬鹿なら馬鹿なのが普通なんだから馬鹿なんて居ねぇことになるよな?」
「あぁ」
なのに、洗い流れちゃあくれなくて。
「だから、……だったら、ヒトゴロシだって、居ねぇよな……?」
「……嗚呼、てめえは、やっぱり馬鹿だぜトウシロウ」
「わかってる」
全身を緋色に染めながらも、緩やかに笑ったお前は、何よりも壮絶に美しく、何よりも哀しいくらい儚く見えた。
殺人が完全なる悪だと定められた“あの時代”に育った俺達に、“この時代”での任務はやはり痛かった。
あいつの足元に転がる死体が、絶命間際に吐いた呪いの言葉は、深く深くあいつの心を切り裂いた。
攘夷浪士を斬るのが、今のあいつの仕事なのだとしても、それはとても。
そして、慰めるようにあいつを抱き締めたこの腕も、数え切れない『呪いの言葉』に犯されてるんだと知っていた。