どちらが先か 旅の道中、ひょんなことからグランコクマでピオニーのブウサギを捜索する珍任務に追われ 無事にピオニーへブウサギを送り届けた報酬にもらった”メガロフレデリカ・スパの会員証”を片手にスパを堪能すべくケテルブルクへと足を運んでいた。 束の間の休息、というのも大事でしょう。と珍しく最年長のジェイド本人も乗り気のようでいざホテルのスパ受付にルークが声をかける。 「ようこそ。メガロフレデリカ・スパへ。会員証はお持ちですか?」 「これだろ?」 ルークが受付の女性にピオニーから貰い受けた会員証を見せると、女性は目を見張った。 「これは!ピオニー陛下からのご紹介の方でしたか。失礼致しました。 陛下から皆様にスパで着用する水着を預かっております。 更衣室へお届けしておきますので、ご利用ください。」 受付の女性に丁寧に通され、ネフリーの計らいもあり今日はホテルも全員一人部屋だ。 それぞれ準備をしたらスパに向かおう。と一時解散になる。 部屋へ行く途中で、スパは水着が着用なのか、だとか私たちの水着を陛下が選んだということは…下心がーなんて本人がいないのでみな言いたい放題である。 そんななか、”水着”というワードが出て以来、一言も会話に混ざらず悶々と考え込むヒメがいた。 (ピオニー陛下のことだから露出が過ごそうなんだけど…!私もスパは入りたい、堪能したい…でも水着か…) 長い間この7人と1匹で旅をしているし、女性陣だけで水浴びなんかもしているがそれは女子同士だから気にしなかった訳であって、自分にとってネックがあった。 ネックというのはもちろん、胸である。女性陣のなかでは自分が最年長だというのにも関わらず、ティアやナタリアとは比べ物にならないくらいにそこの成長は乏しい。 年齢のことも考えて、体系には気を使っているので、ウエストなどの細さは負けず劣らずだが、女性の象徴の一部であろう胸は自力でどうにか出来るものではなかった。純粋に切ない。 部屋に入る前に一度ティアとナタリアと自分のものを見比べる。 ため息混じりで部屋へ入った。 (みんながゾロゾロくる前に先に行ってしまえばいいのか!!!) 荷物を置いてすぐスパへ迎えるように、上着を脱いで髪を結った。 △△△ そそくさと部屋から出てすぐさま更衣室へ向かい、名前の書かれたロッカーをあけると、黒い水着がかけてあった。 「あ、意外と普通かも……えっ…」 普通じゃなかった。 ワンピース水着だったが、背中はバックリと空き、背中から腰までにかけては編み上げ。 ワンピースといっても、胸から下の布はヘソのラインのみがかくれていてウエストや腰はサイドが丸見えである。 ボディラインを隠せるものはなく、胸に目線は行かずともそれ以外に注目を浴びてしまいそうでそれはそれで悩ましい。 おそらくヒメ史上、一番攻めている格好に気持ちが引けてくる。 「くぅ…やってくれたな…でもスパには入りたいし、背に腹は代えられない!!」 意を決して水着をきて、もしもの時のためにローブをもってスパのなかへ入りこんだ。 「うわぁ!すごーい!!」 洗練された空間で、水着で動き回っても過ごしやすい温度管理に、ここは銀世界の広がる街だということを忘れてしまいそうだ。 今は見る限り誰もおらず完全に貸し切り状態になっているスパに、攻めた水着を着ていることを忘れ年甲斐もなくはしゃぐ。 「おや、一番乗りかと思っていましたが先客がいましたか」 「ジェ、ジェイド…」 急に現実に引き戻され、声のした方を振り返れば眼鏡を外してこちらに近づいてくるジェイドがいた。 普段ジェイドが肌をだしているのは見たことがなく上半身を露にしているのはとても新鮮だ。 (意外とがっちりした身体してるんだ…腹筋割れてるし…) ほぉ…と見惚れていると、困ったように笑う声が頭上から聞こえる。 「照れますねぇそんなに見られると。穴があいてしまいそうです」 「なっ、ごめんなさい…ジェイドが水着って想像できなかったからつい…」 「おやおや、ヒメも大概だと思いますよ? 貴女も滅多に露出した服は着ませんし。その格好で顔を赤らめて見られると勘違いしてしまいそうですv」 語尾にハートが付いていそうに聞こえる声に恥ずかしくなり身体を抱えて下を向く。 完全にジェイドはヒメをからかい始めてしまったのだ。 「もう!いじわるいわないで!」 「おや、事実だったのですがね。意外でしたがよく似合っていますよ。」 面白がってからかってくる食えないおっさんである。 もういいから浸かりましょ!! と、顔を赤らめてジャグジーのある少し深めのプールにジェイドの腕を引いて誘導する。 「きゃっ」 「おっと」 バシャバシャと一心不乱に突き進んでいくので途中でズルッと足を滑らせて咄嗟にジェイドが腕を引き抱き合う形になってしまった。 「役得ですね」 「れ、冷静に言わないで…!!!」 ヒメの顔が真っ赤になっているというのにジェイドは至って平常心だ。 ジェイドはヒメが体制を整えるまで腕を放すことはなく、端から見たら抱きしめ合っているようだ。 「な、なんだかのぼせちゃったみたいだから…私休憩してくる…!!!」 ジェイドの腕のなかから脱出して急いでローブを纏ってジェイドから離れた休憩用のチェストに向かう。 「ヒメ、その顔。この状況でガイやルークには見せてはいけませんよ」 わ、わかったわ!と焦ってチェストの方に顔を覆いながら向かい、座り込む。 「その顔ってどんな顔よ…意識するなって言われる方が難しいわよ…」 ジェイドに聞こえないように呟いて自分を落ち着かせるために無心になろうとしたが、足を滑らせた時に自分の腕や背中に回った手の感触や熱が離れず悶絶する。 元々自分のプロポーションを気にしていたはずなのに、もはやその悩みは蚊帳の外である。 (これは気のせいよ…) 一方ジェイドは、ヒメが離れたチェストに逃げていったあとに、ジャグジーにあたりながら彼女に触れた手を見つめていた。 「ふむ…まずいですね。私ものぼせましたか…」 ローブに身を包み、平常心を取り戻すべくジェイドはスパに遅れてやって来たであろう他の仲間達をからかいに、もとい迎えにいったのであった。 意識するのは、どちらが先か ▽▽▽ |