おっさんの苦悩 俺様には最近悩みがある。 それは何かというと、旅の道中でつい先日恋人になったヒメちゃんのことだ。 旅の最中でお互いの気持ちを確かめて晴れて恋人になったというのに、まあ二人っきりの時間はとれない訳で。 それに更に追い打ちをかけるように面倒ごとは増えて行くし(青年には絶対何か憑いてるね!) 次の目的地に行くまでの旅の準備をするために街に入って束の間の休息になっても ヒメちゃんは一向に俺様と二人きりになりたがらないし、全くこっちを見てくれないのよね。 俺様一体何かしたのかしら…? 今日こそは!と意を決して話しかけても 「あ、ヒメちゃ…「ジュディス!買い物に行こう!!」 「…えぇ、もちろんよ」 俺様が話しかける前にフラれるのよ。 がっくり肩を落とせば、ヒメちゃんと一緒に歩いて行くジュディスちゃんがチラリと俺様の方を振り向いて 顔には出ていなくても同情の目を向けられる。 これが一度や二度ならともかく付き合い始めてからずーーーっとな訳で。 道中徒歩で向かってる時も隣に行こうとすれば急に先頭の方へ走って行っちゃうし… 俺様と付き合ったのが恥ずかしいとか、そういうこと…?? やっぱり俺様の片思い? 考えれば考えるほど肩が重くなっていきそうで、近くにいたわんこが慰めるかのように更に近づいて来た。 「はあ…」 △△△ 「ヒメったらあんまりだわ」 「へ!?」 買い物を一通り終えてちょっとしたカフェでお茶をジュディスとしていると、突拍子もなくジュディスが私を咎めた。 突然だったため間の抜けた声が出る。 「さすがにおじさまが可哀想だわ。」 「えぇ…あー」 「恋人になったんじゃなかったかしら」 気がついていない訳ではない。 恋人になったレイヴンとはあからさまに今距離をとっている。 声を何度もかけようとしてくれているのも、街での買い物に誘おうとしてくれているのも、ついさっきのことも もちろん気がついていた。 まさかジュディスに咎められるとは予想はしなかったけれど 「だって…」 「みんな知っているのに、おじさまを避けるのに何か理由があるの?」 「いやね、その…あの…」 もじもじしながらポツポツと呟き始める。 「…わ、私お付き合いするのって初めてなのっ…!」 「えぇ、それで?」 「でも…ダングレストでレイヴンは、その…いろんな女の人に声かけられていたじゃない…?」 「そうね、おじさま曰く博愛主義なんて言っていたわね」 「女の人の扱いが慣れているってことでしょう…?」 気がつけば顔にとんでもないくらいに熱が集中しているのがわかった。 のぼせてしまいそうだ。 項垂れながら話していたのでジュディスの表情もわからなければ、その後の返答も返ってこない。 疑問に思って顔を上げてみればジュディスは口元に手を当てて、クスクスと笑っていた。 「それじゃあ、ヒメは自分がおじさまに何されるかわからなくて避けているってことなのかしら」 「あ…いや、そうじゃなくて…」 「それじゃあ何が嫌なの」 「嫌とかそう言うのじゃなくて…」 そろそろ日も暮れて来たし宿屋に戻りましょう。とジュディスに促されて宿屋に戻る道のりで、一度足を止めて口を開く。 違くて!!と大きく声を張った私をジュディスが振り返って見つめる。 「…レ、レイヴンには触れたいし触れてほしいけど…、緊張しちゃってどうしたらいいかわからなくて…! いろいろ考えていたらレイヴンを避けるようになっちゃって…どうしたらいいのかわからないのっ…!!」 「…そんなこと」 「そんなことって…!私真剣に悩んでいるのに!」 「それは私に言っても始まらないし、何よりおじさまに直接話すべきだと思うわよ? ねぇ、お・じ・さ・ま?」 ジュディスが私よりも更に後ろをみつめてニッコリと笑う。 ジュディスは今、確かに”おじさま”といった。 ギギギと音がなりそうなくらい重たい首をゆっくり後ろへ向けると夕日に当てられたレイヴンが立っていた。 「盗み聞きなんて良くないわよ、おじさま」 「おっさん隠れてたつもりだったんだけどね…ジュディスちゃん結構前から気がついてたでしょ…?」 「ふふふ」 結構前とはどこからだろうか…。更に顔に熱が集中する。 聞かれてしまってたのだろうか。 「まあ、後は二人で話すといいわ。 みんなには先に夕食取るように伝えておくし、二人でどこかにいってきたら?」 ジュディスは私の返答も待たずに、私が手に持っていた買い物袋を掻っ攫って宿屋へ歩いていった。 「あーっと…ヒメちゃん…?」 「……」 「盗み聞きするつもりは本当になかったのよ!! ただブラ〜っと散歩してたら真剣にヒメちゃんが俺様とのこと悩んでたのが聞こえてね」 つい…と頭を掻きながらレイヴンは照れて笑った。 「俺別にヒメちゃんと一緒にいたりとかできたらそれで嬉しいのよ? いや、そりゃあ、抱きしめたり、キスとかだってできたら更に嬉しいんだけども…」 「…私も一緒にいたい…」 「そっか、ならよかった!おっさんフラられちゃったのかと思ったわよ!」 少し照れながら言うレイヴンは、こっちにおいでと私の腕を引いて、きゅっと軽く抱きしめた。 顔に熱が集中しすぎて少し朦朧として来て、されるがままになってしまっている。 「あ…」 「嫌だったら言ってね、ちょっと今のヒメちゃんの顔は反則だわ」 「レイ、ヴン」 「おっさん何も焦らないから、ゆっくりヒメちゃんのペースで仲良くしましょ」 「うん、ごめんね…」 ありがとう、と言おうとしたら それじゃ、仲直り(?)ってことで!と顎をもたれて、次の瞬間唇に柔らかい感触と、レイヴンの顔が目の前にあった。 ちゅっと小さく音を立てて顔が離れたと思えば、レイヴンはニコニコ笑っていた。 自分の意識がなんだかふわふわと浮かんだと思えば次の瞬間レイヴンの胸に向かって倒れこんだ。 「えぇ!!ヒメちゃん!?」 その後気絶したヒメを抱えて、急いで宿屋に戻ったレイヴンはジュディスに笑われ、エステルとリタにこっ酷く怒られ 終いにはまたしばらくの間ヒメから避けられることになったらしい。 ▽▽▽ |