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あの後何度かゴネては見たものの結局私のメイド服回避はクラスが団結してしまったが故に不可能なまま文化祭当日を迎えてしまった。
何故か先生もノリ気になってしまっていたのもあって断るにも断りきれず、文化祭が始まるまで私はヤケクソになりながら提供するデザートの準備をしていた。
そして私は予期せぬ来訪者の対応に追われることをこの時まだ知らない。


「…ここが姫の…」


△△△


「…お、お帰りなさいませ。ご主人様…」
「お、やってんなー…案外似合ってるんじゃねーか?」
「…お褒めいただき光栄です…」
「姫もエステルも似合ってるね!」
「そうですか?それにしても来てくれて嬉しいです!」


ニコニコと笑顔でユーリ先輩とフレン先輩を迎え入れるエステルは何の抵抗もなく接客を楽しんでいた。
早速来てやったぞ!とニヤニヤと笑うユーリ先輩を恨めしそうに睨むと、後ろの方からマイコちゃんの痛い視線を感じた気がして背中がゾワリと粟立った。
ははは…と笑って振り向くと、笑顔が堅いと口パクで言っているのがわかってしまい、後ろにいるはずなのに私の表情を指摘するマイコちゃんに少し恐怖心が芽生えた。


「そう言えばいつ頃休憩になるんだ?」
「私とエステルはお昼頃にですかね。」
「僕たちは今日後半戦だけだからそしたら4人で一緒に回らない?」
「いいですね!是非一緒に回りましょう!」
「ユーリ先輩たちの所はなにやるんでしたっけ?」
「俺らは外でお好み焼き。」


私たちのメイド執事喫茶はそこそこお客さんの入りもよくて、先輩にメニューを手渡して簡易のおしぼりを渡した後にメニュー決まったら教えて下さい!と言づてをしてテーブルを離れた。
なかなかに忙しい。
先生も積極的に接客に加わってくれていることもあり、女子生徒も多いのは目に見てわかった。
普段の先生とは打って変わってカッチリとした姿見たさに噂を聞きつけて遊びにきている生徒は結構多い。
意外と先生ってモテるんだなぁ。と少しだけ落胆してしまいそうになった所で他のお客さんから注文が入る。


「はい、お待たせ致しました。ご注文お決まりでしたか?」
「ああ、うん。このシフォンケーキと珈琲を2つずつー」
「…キミ、可愛いね〜!」
「あ…、お褒めいただき光栄です…!」
「なんかどっかで会ったことあるくね?」


接客中と言うこともあって、褒められれば常套句を返すと、最後に男が言った一言で一気に血の気が引く。
忘れもしない、この男2人は前に花火大会の時に私を無理矢理連れて行こうとした3人の内の2人だった。


「いえ…そんなことは…」
「あれでしょ!花火大会の時に1人でいた子!へ〜姫ちゃんっていうんだ〜」
「あーやっぱり?ここの生徒だったんだ〜凄い笑顔だしやっぱ可愛いって言われるの満更でもないんじゃん!」
「あの…もう少しお静かに…」
「そんなこといーからさ!ここ座ってよ!俺ら客だし!!」
「この服のなかって何か掃いてるのー?ガーターとかだったらアガる!」
「や、やめ…!!」


一番奥の席で、店も混雑し始めたこともあって他の接客担当も私が面倒なナンパ男たちに絡まれているのに気がついていないようだった。
腕を無理矢理引かれてかたやもう1人の男はスカートを捲ろうとゆっくり足に触れてくる。
恐怖に声が出ず、身体を強ばらせて息を飲む。
誰かに助けを求めたくてユーリ先輩の方を見ると、私の様子に気がついたのかユーリ先輩が立ち上がって来るのが見えたので声をもう一度あげようと試みる。

「やめっ…「ご主人様、ここそういう店じゃないんだけど」

私の声に被せてユーリ先輩じゃない声が横から聞こえたかと思えば、同時に足を触れる不快な感触が消えた。

「いっ…お前…!」
「いやーおっさんも男だからこんな可愛い子いたら触りたくもなっちゃうけど…ここにいる子たち俺の生徒だからね?」
「アンタ…この前の…!」
「あらま!おっさんのことまで覚えててくれたの!?嬉しいね〜
そんじゃそろそろお暇願いますよー。………大事にしたくなかったら帰んな」

ご主人様おかえりでーす。と先生は何事もなかったかの様に掴んでいた男の手を離して教室の出口の方へ誘導した。
最後の方は小さい声で男の耳元で言っていたので私には聞こえなかったけれど、ナンパ男再来をまた助けてくれたのは先生だった。

「おい、姫大丈夫だったか?!」
「ごめん、気が付くの遅くなって…」
「なんとか大丈夫でした…!」

心配そうな顔をして先輩たちが駆け寄ってきてくれた。大丈夫。と言えば嘘になるが先生がすぐに助けてくれたことで気持ち的には恐怖心よりも先生に対してドキっとした気持ちの方が勝っていた。
ナンパ男たちを丁重に見送った後に今度は先生が私に困った様に笑いながら近づいて来た。

「気が付くの遅くなってごめんね?怪我とかしてない?」
「は、はい!先生が助けてくれたから…」
「ならよかった!おっさんにも刺激が強いから出来るならもう少しスカート丈を長くすることをオススメします」

ヘラリと笑って先生は頭を軽くひと撫でして接客へ戻って行った。
私は撫でられた頭とスカートを抑えながら先生を見送ると顔の温度が上昇して行くのに気がついた。
先生その顔はズルい。


△△△


「高瀬姫の教室はどこかの?」


姫たちの模擬店から出て一旦自分たちのお好み焼き屋の様子を見に行こう。とフレンと2人で昇降口まで来ている所だった。
金髪の小学生くらいで海賊帽を被った少女が見境なしにいろんな生徒に姫の名前とセットで教室を尋ねていた。
フレンもどうやら保護者のついていない子供に違和感を持ったのか視線を同じ方に向けているのがわかり、口を開こうとすればフレンが先に口を開いた。


「あの子…姫の知り合いの子なのかな?案内してあげた方が良いかな?」
「あの調子じゃ教室どこかもわかんないだろうし、声かけてみるか…」
「ね、ねぇキミ!!」
「む?なんじゃ?」


自分が声をかけられているとわかったのか不思議そうに目をクリクリさせながら俺ら2人を見上げる少女は子供らしからぬ口調で少し笑えた。
フレンも同じことを思っていたのか少し笑いを堪えている。

「1人かい?保護者の方とかは?」
「うちは保護者が必要な程子供じゃないぞ!立派な12歳じゃ!それにキミなんて名前でもないぞ、うちはパティじゃ!」
「へぇ…で、パティはなんで姫を探してるんだ?」
「む!姫のことを知っているのか?!話は後じゃ!案内して欲しいのじゃ!」

教室の場所がわからないはずのパティは半ば強引に俺とフレンの手を両手で掴んで引っ張って突き進んで行く。
どうやら自分たちの模擬店に行くのはしばらく先になりそうだ。
教室へ向かう途中で俺らの名前を尋ねて来たので自己紹介すれば、俺だけ名指しで姫とは恋人なのか?と尋ねられ違うと答えれば目を爛々とさせていた。何を考えているのかイマイチわからなかった。


「おーい姫」
「どうしたんですユーリ?また来店ですか?」
「違う、姫に客だよ」


奥の方で接客をしている姫は、今行きます!と少しだけ声を張って仕切られた厨房コーナーの方へ客のオーダーを通しているようだった。
手を掴んだまま離さないパティは姫の声を聞いてウズウズとしていて早く対面したそうにしていた。

「はい、お待たせしました!ユーリ先輩どうし「姫姉ぇ!!!!」
「えっ!!?パ、パティ!?どうしてここに…!?」
「姫姉ぇ、会いたかったのじゃー!!!」


気がつけば握られていたはずの手は離れていて、瞬時に姫の胸へ飛び込んでいったパティは少しだけ目に涙を浮かべていた。どういう訳かはわからないが余程会いたかったらしい。
そして今日の姫は人一倍人の対応に追われる日。らしい。




▽▽▽



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