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テストが終われば待っているもの。そう、それは文化祭。
今日のホームルームはクラスごとに何をするかを決めるのが議題で、テストからの開放感と、文化祭で何をやろうか!と今から楽しみにしている生徒も多いのでいつになく教室は騒がしい。
編入生の私はイマイチこの学園がどういった規模の文化祭をしているのかはわからなかったが、体育祭を2日間やったり、全校生徒で林間学校へ行くぐらいだ。きっと派手なものになるんだろう。


「えーっと、それなりに予算は出るから、みんながどんな風なのやりたいかを学級委員中心で話し合ってちょうだいよ〜」
「先生丸投げじゃん!」
「いやいや!そんなことないわよ!!なにしたいか決まったらおっさん全力でバックアップしちゃう!」

前の席にいるギャルのマイコちゃんは相変わらず先生にちょっかいをかけて楽しんでいた。
学級委員が教卓の前に立てば、誰もが思いつくであろう無難な出店の名前が黒板に記されていた。
チョコバナナ、お化け屋敷、たこ焼きに焼きそば…どれも文化祭やお祭りではあるあるなモノばかりでクラスではぱっとしないなぁ!と騒いでいる人もいる。
うーん私も強いて言うなら料理は得意な方だし、焼きそばとかの方がいいけど…チラリと斜め前のエステルを見てもしも料理関係になったらエステルには是非とも売り子係に専念してもらおう…と心に決めた。


「ありきたりすぎてあんまり面白くないんじゃないー?せっかくだから楽しめて、且つ儲けの出るものが良いなぁ」
「マイコ…お前そんな風に言うならなんか意見出せよ!」
「えー…」


発言力のあるマイコちゃんに学級委員の山田くんが遂に口を挟んだので、一瞬教室が静かになった。
おお…修羅場…?違うか。なんて暢気に考えていればマイコちゃんは少し悩んでから思いついたかの様に、あー!と声を上げた。
派手なものが好きなマイコちゃんだ、少しいやな予感がするような気がする。と思ったのはどうやら私だけじゃないようで、エステルや先生も少し苦笑いをしてマイコちゃんの発言を待った。


「メイド執事喫茶!なんてどうよ?お菓子とかも何品か作って出して、女子はメイド服男子は執事ってな感じ!」
「あー…まあ目立つと言えば目立つよな…他に意見あるヤツいるかー?」


意見を求めた山田くんも何気に乗り気らしい…他のクラスメイトもまあ一つに絞るよりは…と満更でもなさそうだ…メイド服…を着るのか…
うーんと考えていればふと視線を感じたので前の方を向けば先生と目が合った。首を傾げながら笑ってみせれば先生は慌てて私から目を逸らすので視線の意図は掴めなかった。
そうこう考えているうちに、多数決でメイド執事喫茶に気がついたら決まっていて、メイド服を着るのには抵抗があるしどうにかして回避せねば…と意を決した。
そうと決まれば内装をどうする、料理、配膳の役割を決めようと話が出たので、いの一番に料理係に立候補した。
自主的に立候補したのが私を含めて数名だったため、希望が通ったので第一関門を突破できた私は胸を撫で下ろした。


△△△


一週間経って、内装や料理の内容なども固まって来て徐々にサンプルを作ったりして意見交換をしていた。
エステルは料理が苦手なので、マイコちゃんたちと同じ配膳の方に回っていて仲良さげに話していた。
エステルやマイコちゃん達とくらいしかあまり話していない私は少し心細くもなったけれど、改めて料理担当の子達と話せば料理について盛り上がったのでなんとか上手くやって行けそうだった。
エステルやマイコちゃん達はどうやら試しに買って来たメイド服の試着をしよう。と話になったようで近くの空き教室で着替えをして来るようだった。
少し恥ずかしそうにエステルが行ってきますね…!と私に一声かけて来たので頑張れ…!と見送った。


「とりあえず、提供するのはプリンと、シフォンケーキと、コーヒーゼリーとかでいいかな?」
「うん、高瀬ちゃんの提案で大丈夫だと思うよ!」
「楽しみだねー…料理係はメイド服回避出来るみたいだったからなんとかなって本当に良かった…」
「あ、メイド服着たくなかったんだね」


他愛もない話を料理係チームでしていれば、後ろからとてつもない視線を感じたので振り向いた。
振り向いた瞬間にメイド服姿のマイコちゃんが私の肩をがしりと掴んで、ちょっと来て!!と半ば強引に私の腕を引く。
なになに!?と普段よりも大きめに声を上げれば、小道具を作っていた男子が少し哀れみの目を私に向けていた。


「あーほら!!やっぱり姫似合うじゃん!」
「…どうしてこんなことに…」
「一つサイズ小さいのがあって、小柄なのって姫だし試しに着させてみよって話になったの!」

マイコちゃんに強引に連れてこられたのは更衣室で、少し拒めば、良いではないか!とギャルチームに身ぐるみを私は剥がされてメイド服を着せられていた。
エステルも私が着ているのを是非みたい。と乗り気だったため配膳チームに私の味方はいなかったらしい。


「いや、これは勿体ない。料理と配膳どっちもやろう?」
「姫は料理も得意だしバイト配膳もやってますからきっといいメイドになれると思います!」
「待って、エステルそこじゃないの…!」
「とりあえずこれをみんなに見せに行こう!」
「いやだぁ…!」


私はメイド服を着せられご丁寧に髪までツインテールされて、そのまま両脇を抱えられてまた教室へと連行された。私の人権は一体どこに行ってしまったのか。
廊下を歩いていれば、教室の方はなにやら盛り上がっている。先に執事服を着終えた男子達が披露しているのだろう。
最初に入った子がえ!なんで先生も!?と驚いているのに気になったのか、両脇を抱えていたエステルとマイコちゃんが走り出した。
私は引きずられながら教室へ入り、入った瞬間に手を離されバランスを取りきれなかった私は目の前にいた執事服を着た人物の胸に飛び込むような形で体制を立て直した。

「いたた…ごめん!よろけた…」

私の事を支えてくれただろうクラスの男子に謝罪を述べようと顔を上げた瞬間、私はフリーズした。
私を支えている人物は普段、無造作に結い上げた髪の毛を整えられて執事服を身に纏った先生だった。
胸に飛び込んだ相手がクラスの男子ではなく先生な事にも驚きを隠せないのだが、何故先生まで執事服を着ているのか…。

「あ…す、すみません!情報量が多すぎてフリーズしてました…」
「い、いや大丈夫…それにしても姫ちゃんって料理係から配膳係になったの…?」

先生も私がメイド服を着る役割じゃないはずなのに着ていて自分の胸に飛び込んできたことに混乱しているのかやけに汗をかいているような、少し慌てている。

「姫似合うよね?できれば料理係と配膳係兼任してもらいたいんだけど…!」
「えー…私メイド服着てご奉仕したくないから料理行ったのに…」
「客寄せのためにも…是非」

マイコちゃんと執事服を着た学級委員山田くんはどうやら結託したようだった。
相変わらずエステルは姫と一緒にできたら楽しそうです!と私の気持ちの裏をかいている。
こんな時に天然を発揮しないで欲しかった。
むしろ今は先生の執事服姿がレアすぎて私はそれどころではなかった。
先生は私の視線に気づいて少しだけ恥ずかしそうにしているのでなんだかこれもまたレアだ。

「先生はどう思う?」
「へ…!?俺!?」

マイコちゃんが何故か先生に意見を求めるので私も先生もここで回って来るのか!とたじろいだ。

「あー…うん。アリだと思う…」
「ほら!先生もアリだって!!そういうことで決定ね!!」
「えぇ…!」


先生が困った様に頭を掻きながら言うので思わず私は赤面した。
そしてマイコちゃんは先生もその格好当日してね!とノリノリに2人の意思とは別に文化祭の準備は進んで行った。
私のメイド服回避はどうやら失敗したらしい。
まあ先生の執事服姿もまた見れるらしいので、痛み分けと言っても良いのかも知れない…。


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