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学生生活。如何なる時も遊んでばかりではいられない。
夏休みが終わって、体育祭も終わった。
文化祭の前にあるイベントごとと言えば、それはもちろん中間考査である。
私、高瀬姫は自慢ではないが頭は良い方である。
元々弓道で進学する予定が弓道は気持ち的に出来なくなってしまい、進学をする際にスポーツ特待ではなく、試験の特待生で入っているからである。
特待生なるもの生活費のためにバイトをしていようが境遇がなんであろうが順位を落としてはいけない。
前回中間試験で私はド頭から理科に躓き、夏休み前の期末試験は意地でも夏休みを勝ち取りたいが故に猛勉強してどうにかなった。(割愛)
そしてまたしても私の前で理科が猛威を振るっているのだ。
中間試験が近い事もあり今日は学校を終えてからファミレスでいつもの4人でテスト勉強を黙々としていたはずが、沈黙をまず破ったのは私だった。


「おかしい…」
「?何がおかしいんです?」
「しっかり授業を受けていたはずなのに何故かやっぱり理科がわからない…」
「1年の理科おっさんだよな?おっさんの授業ってそんなに難しかったか?」
「いや、僕は特にそんな風に思った事はなかったけど…ユーリがわかりやすいって思うくらいなんだから
難しい事はないんじゃないかな?」
「フレン、お前今あっさりと俺の事馬鹿にしただろ…」
「いや、そんなつもりは…」
「なんで他の教科は大丈夫なのにユーリ先輩もわかる理科が私にはわからないの…!!」
「姫…落ち着いて下さい!」
「姫お前もか…」


私は素直に言葉を放っただけなのだがどうやらユーリ先輩の癇に触ったらしい。
しかしそれを構っていられないほどに先生が授業の時に配布してくれたテスト対策のプリントはほぼ空白でわからなさのあまりにプリントの隅の方には現実逃避をするべく描いた絵があった。
はあ〜と長めのため息をつけば、これは重症だ。と私を困った様に見つめる3人がいた。


「初っぱなダメだった時はおっさんに教えてもらったんだろ?今回もそうすればいいんじゃないのか?」
「…それができたらもうやってるんですよ…」
「最近部活の方が忙しいみたいでレイヴン先生捕まらなくって姫困ってるんです…」
「僕もエステリーゼ様と一緒に姫に教えてみたんだけどやっぱりダメみたいでさ…」


その後のファミレスでの勉強会は何故か私を励ます会へと変わり、気がつけば帰らなければならない時間になってしまっていた。
見かねたエステルは今週の土曜日に勉強会を開くのはどうだろうか。と提案してくれたのでそれに了承した。
ファミレスを出てそのまま二手に分かれていつもの様にユーリ先輩と一緒に歩いて帰っていれば、ユーリ先輩もいつになく私を気遣ってくれていた。


「まあまだテストまで2週間あるしそんなに絶望する事もないだろ」
「…他の教科は問題ないんですけどね…」
「特待生ってそんなに順位落とせないもんなのか?」
「入学する前に聞いた感じだと学年で5位以内が目安なんです…編入時はもちろんトップで入りましたけど…」
「…デキの良すぎる妹だな…」


まあまだ時間はあるんだから、と頭をポンポンと撫でて私を宥め続けるユーリ先輩は珍しく困っているようだった。
ふと後ろから声をかけられて、同時に振り向いた。


「相変わらずイチャイチャするんじゃない!おっさん寂しくなるでしょ!」
「あ、先生…」


ここ最近捕まえたくても捕まえられなかった人物が目の前に立っており、今の私からしたら縋ってしまいたくなる。
私が涙目でいたのに気がついた先生は、え?痴話喧嘩?おっさん邪魔だった?と少し焦っていたようだったが痴話喧嘩をしたつもりのない私たちは首を傾げて否定した。
ふと、ユーリ先輩が何かを思いついた様にレイヴン先生の今週の予定を聞き出し始めた。


「おっさん今週の土曜暇か?」
「んー午前中は部活見に行かなきゃだけど午後からは暇よ?」
「お、じゃあ今週の勉強会は姫の家で決まりだな。」
「へ?」
「ん?どゆこと?!」
「おっさん部活終わり次第姫の家に集合な?」


って言っても隣だけど。とニヤリと笑ってユーリ先輩は手を振りながら家路について行ったのだった。
私と先生は状況がイマイチ掴めておらず、お互いに顔を見合わせたがどうやら決定事項になってしまったようでお互いに肩をすくませて、よろしくお願いします?こちらこそ?と疑問符付きで挨拶をして笑った。


△△△


ユーリ先輩の提案で今日はなんと我が家で勉強会になりました。
そこまで広い家ではないので私はエステルの家やファミレスで良いのでは?と提案し直したけれど、それだとおっさんが来にくいだろう。とユーリ先輩にいとも論破されてしまい結果的に私の家に集合する事になった。
夏休みの旅行に先生を強制的に連行した私が言えた話ではないけれど、生徒達の集まりに招待されたからと言って、エステルの家やファミレスで先生と合流するのは他の人に先生が目撃された時に少し面倒そうだ。と思った。
みんなが来るまでの間に夜ご飯の仕込みを済ませてしまおう。と昨日のうちに買っておいた材料を手際よく調理して簡単にカレーを作り終えて今は一息ついていた所だった。

ピンポーンとインターホンがなり、もう既に誰か来たようだった。まだ携帯に連絡が来ていないけれど早めに誰か着いてしまったのだろうと覗き穴を覗けば、まだ来ないと思っていた先生の姿がドア越しにあった。


「先生!早かったですね?」
「あーうん、早めに締める事になって今さっき帰って来たところ…俺ちょっと汗流してくるから一旦家に戻るけどコレ今日の差し入れね!」


私に差し出されたのは2リットルの飲み物が数本とお菓子だった。
んじゃ!と手を挙げて先生は隣の自宅に入って行ったのを見届けて、なんだか少しだけ照れくさい気持ちになった。
先生とは家が隣同士で、成り行きで車で送ってもらったり、マンションの玄関でバッタリ会って一緒にエレベーターに乗ってお互いに別れて家に入る事はあったが面と向かって先生が私の家に訪問してくるのは初めての事だった。
越して来て、ダラしなさそうな人だと思っていた時は最悪だと思っていたけれど、今は全く状況が違う。
先生の事が気になっている自分にとってマンションが同じで隣同士なだけでも奇跡なのに先生と勉強会が家で実現してしまうなんてことがあって良いのだろうか、と少し考えただけで熱っぽくなってしまった。
差し入れとして受け取った飲み物を冷蔵庫に入れて冷やし直して、考え事をしていればもう一度インターホンが鳴って覗き穴を覗けば、数分前にも立っていた先生がさっぱりとした顔で立っていた。

「はい、どうぞ…」
「なんか新鮮ね…お邪魔しまーすってまだ誰も来てないんだ?」
「そうなんです、先生が一番乗りです!」

そっか、と先生が首を掻きながら少し俯くのでお互いに少し気恥ずかしい無言の時間が流れた。
立ち止まる先生に声をかけて中へ通せば、先生は随分綺麗にしてるのね。とポソリと呟いていた。
妙に先生が静かなのでつられて私の口数も少しずつ減って行きなんだか顔が熱くなって来た気がする。

「姫ちゃん…?どうかした?」
「…!あ、いえ!なんか先生いるの不思議な感覚で…、みんなまだ来ないみたいだし先に勉強始めちゃいましょうか…!!」
「ほんとに?なんか顔赤くない?」

机を挟んで向かい合わせで座っていたはずが先生が私の顔を覗き込みながら少しずつ近づいて来るので、思わず目を閉じてしまえば、先生の手が私のおでこに置かれた。

「熱は…なさそうだけど?ん?なんかおっさんの顔に付いてる?」
「え、い、いやそんなんじゃないんですけど」

先生の行動に思わず目を丸くして固まってしまえば先生がまた不思議そうに私の顔を覗き込んで、おでこ寄せていた手を顔から首へ手を滑らせていた。
普段よりも距離の近い先生に更に顔が赤くなっていく気がした。

「おーい、いないのか?…ってなにしてんだお前ら」
「…っ!?ユーリ先輩?!」
「せ、青年びっくりするじゃないの!」
「こっちがびっくりだっての。ピンポン鳴らしたけど出てこないし、ドアの鍵開いてたから入っただけだ」
「…気がつかなかった…」
「もう!ユーリ!人様の家に勝手に入っちゃダメですよ!!」
「ああ、姫、先生もいたんですね!2人共なんだか顔が赤くない?」
「フレン君、気のせいだよ!!ははは…」

インターホンが鳴った音に気がつけなかったのはどうやら先生もだったようで、顔を赤くする私につられて先生も少しだけ顔を赤くしていた。
何かあったんですか?と先生にエステルが聞いていて、先生は首を掻きながら姫ちゃんが熱っぽそうだったから様子を見てただけ!と弁明していた。
先生とのさっきの一瞬の静寂の時間は一体なんだったのだろうか…と頭の隅の方で考えたけれど、エステルが勉強始めましょう!と手を叩いたのでその思考をどうにか振り切って私はペンを握った。
机を取り囲んだ時に一瞬だけ神妙な顔をしたユーリ先輩と目があったけれども、あはは…と笑ってごまかした。



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