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体育祭一日目が終わった。
途中経過で張り出された体育祭の順位は4位で、一年生としては大健闘らしいが、
借り物競走が終わってからと言うものいまいち記憶が定かじゃない。
それは何故かと言えば、給水所に寄ってレイヴン先生に会って…レイヴン先生が何故か私に自分が必要だったら良かったのに。と言ってて
その言葉がどういう意味なのかがわかるようでわからない。
そんなことを言ったら私だって、マイコちゃんみたいなお題を引いて先生と合法的に手を繋いでゴールしてみたかった。
先生が言っていた意味は私と同じ意味なのだろうか。
少し自惚れてしまってもいいのだろうか。

なんて一晩考えていたら朝日が昇ってしまっていて一睡も出来なかったことに気がついた。


「…酷い顔…」


洗面所で顔を洗って顔を見れば見事にクマが出来ていて、今日も体育祭だからコンシーラーを塗って隠してもきっと汗で落ちてしまうだろう、とため息をついた。
隣の部屋からカタンと音が聞こえたので、きっと先生も起きたんだろう。と一晩考えても答えが出なかったモヤモヤがまた再発する。
頬を軽く叩いて落ちてしまうとわかっていても少しだけいつもよりも濃く目の下に化粧を乗せて朝ご飯の準備を始めた。


△△△


「おはようございます!姫!…なんだかいつもより顔色が悪くないですか?」
「ちょっと考え事してたら眠れなくて…」
「そうだったんですね…何かあったら言って下さいね!」


ありがとう、と元気いっぱいのエステルに返せばニコリと笑ってくれて少しだけ和んだ。
更衣室に行ってジャージに着替えに行こう。とエステルに提案して更衣室へ急ぎ、今日の開会宣言が行われるであろう体育館へ移動した。
今日も壇上にフレン先輩がのぼり淡々と開会宣言を終えれば全体でストレッチを行った。
朝イチでバレーはトーナメント戦で行われるため、今になって眠気が出て来てしまったことに少しだけ恨めしく思えて来た。
少し眠い目を擦っていれば後ろから声をかけられて胸が跳ね上がった。


「姫ちゃんおはよー」
「っ!お、おはようございます!」
「なになにおっさんの顔になんか付いてる?」

眠気の原因を間接的に作ったであろう人物が後ろに立っており、声をかけられた事に驚き一気に眠気が吹っ飛んだ。

「ん?なんか顔色悪くない?あんま無理しちゃダメよ?
おっさんバレー応援してるね〜」

こうなったのは先生の所為だ!と伝えてしまいたくなったが言葉を飲み込んで頷けば、先生はヘラリと笑って頭を一度ポンと触れてヒラヒラと手を振ってどこかへ行ってしまった。
先生が歩いて行った方をぼーっと見ていれば借り物競走からバレーまで一緒だったマイコちゃんに声をかけられ、少しだけみんなでトスの練習をしてアップをし第一試合目が始まった。


△△△


「はー…疲れた…」
「姫おつかれー」
「おつかれ、マイコちゃん…」


体育館の隅でくたりと横になりお互いに声を掛け合った。
バレーの結果はと言うとなんとかベスト4まで勝ち進みこれもまた大健闘だった。
マイコちゃんは人一倍悔しがっていたけれど、体育で嗜む程度にしかやったことがなかったこのクラスのチームを鍛え上げてくれた功労者だった。


「まさか、こんなに勝ち進むとは思わなかった…」
「ほんとそれ!最初はどうなる事かと思ったのに!!」
「いや〜おっさんちゃんと全部見てたよ!!おつかれさん!」


寝転がって笑い合っていれば、先生の声が上から振って来て、次の瞬間覗き込まれていた。
先生は、女の子なんだからちゃんと座って落ち着いたら他の所応援しに行くのよ〜と声をかけてまたどこかへ歩いて行ってしまった。
ふと、体育館の時計を目にして、エステルの出るバスケの時間が近い事を思い出して起き上がりたがらないマイコちゃんを引っ張ってバスケの試合の体育館へ移動した。


△△△


エステルのバスケを応援しに行ってからは、勝ち進んでいたクラスの競技をフラフラと見て回った。
あっという間に2日目ももう終わりを迎えようとしていた。
結果発表で、なんと1年C組はギリギリ入賞の4位という順位を叩き出した。
1位は納得のユーリ先輩とフレン先輩のクラスで、賞状とトロフィーを受け取りに壇上に上がった2人には、大げさなくらい歓声が上がっていた。
チートすぎるよ先輩。

閉会宣言を終えて各自更衣室で着替えて教室へ戻れば、クラスでマイコちゃんを中心に打ち上げしようと騒ぎになっていた。


「行ける人挙手して〜!あ、姫とエステルも行く?」
「是非!参加します!ね?姫」
「あ…うん!参加するよ!」


正直なところ、一睡も出来ていない私は眠気が凄くできる事なら家に帰って休みたいが、クラスのほとんどが参加するようなので参加することになった。
丁度先生もHRの為に教室へ入って来て、マイコちゃんの持ち前の強引さで先生も参加する事になったらしい。
学校を出てすぐ近くの焼き肉屋で食べ放題の打ち上げになった。


△△△


「いや〜それにしてもマイコちゃんの憧れの先生がデューク先生だったとはね!おっさんちょっとしょんぼりよ」
「またまた〜先生ってばそんなこと1mmも思ってないでしょ!?」

焼き肉屋の団体用の小上がりの席に4〜5人ずつ座って打ち上げをしていた。
なぜかエステルとマイコちゃんとバレーで一緒だった女子1人と先生という組み合わせの席に私はいた。
私はエステルと先生に挟まれていて、先生はマイコちゃんと話に盛り上がっていた。

「姫?大丈夫です?」
「…あ、うん、今食べながら寝てた…」

こそっとエステルが箸の進んでない私に耳打ちすると困った様に覗き込んでいた。
隣に居る先生は私とエステルの会話は聞こえていないようでマイコちゃんともう1人の女子と盛り上がっている。
とても眠たい…と箸を皿の上に置いて座り直そうとした所で私は事切れた様に寝てしまった。





肩に重みを感じると思えば先ほどまで嬢ちゃんとこそこそと話していた姫ちゃんの頭が俺に寄りかかっていた。
さっきからずっと眠そうな顔をしていたし、昨日の今日で疲れてしまったのだろうか。と嬢ちゃんの方を見れば心配そうに姫ちゃんを見ていた。


「あれ?姫眠っちゃったの?」
「…今日一日顔色悪かったよな」
「…姫、一晩考え事していたらしくて眠れなかったみたいなんです…」
「さっきから眠そうな顔してたもんね」
「はい、私迎えを呼んで姫を家まで送ります!」


嬢ちゃんが立ち上がろうとした所で俺は咄嗟に嬢ちゃんを止めた。
俺が止めた事を不思議に思ったのか嬢ちゃんが首を傾げていたので焦って俺は口を開いた。


「車もあるし、姫ちゃんの家もおっさんの家とすごい近いから送ってくよ!」
「でも…」

嬢ちゃんは恐らく姫ちゃんと俺が隣同士に住んでいるのを知っているはずなので深くは詮索してこないだろうと焦りながらも淡々と言葉を並べた。

「それにおっさん持ち帰りの仕事も思い出しちゃったからそろそろお暇しようと思っていたしね!」
「…じゃあ、お願いします」


て、ことだから後よろしく。とこの打ち上げの首謀者のマイコに声をかけて姫ちゃんを抱き上げれば、からかう様にマイコが、手出しちゃダメだよ〜先生!と一声かけてきた。
元々そのような下心は持ち合わせていなかったのだが、無意識にゴクリと唾を飲み込んだ。

「んなことしないわよ、先生ですから!」

なんの保証もない建前をいい放ち店を後にした。
学校の駐車場まで運んですぐに車の助手席に乗せれば姫ちゃんは一度身じろぎをしたが起きる事はなかった。
運転席に乗り込んで、静かにドアを閉めて顔を覗けば幸せそうな寝顔をしていた。

「…無防備に寝ちゃって…」

エンジンをかけて車を発進させてお互いに住んでいるマンションへ向かう。
一向に起きる様子がない彼女を信号が赤になる度に盗み見ていたが普段とはまた違う子供のような寝顔に少しの背徳感を感じつつもドキッとした。
車を走らせればそう遠くもないマンションの駐車場に辿り着き駐車も済ませた。

「姫ちゃーん起きて…」
「…ん」
「…起きないわな…」

声を身体を軽く揺すってもなかなか起きてくれない彼女に少し魔が差した。というか、ふと焼肉屋でマイコに言われた言葉を思い出した。

「手出すな…か」

起きそうにない姫ちゃんをいい事に少し頬に触れて自分のシートベルトを外して彼女の方へ身を乗り出した。
目の前で顔を覗き込んで起きそうにないのを確認してさっき触れたばかりの頬に今度は手ではなく自分の唇を落としてみる。

「…ん…?」

少し触れた唇と声が同時に聞こえて焦って乗り出した身を何事もなかったかの様に座り直して顔を覗けば、ゆっくりと長い睫毛が動いた。

「姫ちゃん…?」
「…ん…は、い?…せんせ…?」
「…やっと起きた」

内心俺は頬にキスした事に気がつかれてしまったのではないか。と心臓が大きくなっていたが、すぐに顔に出る姫ちゃんは今まさに起きましたと言わんばかりの寝ぼけ具合で胸を撫で下ろした。
ゆっくりと目を開けてイマイチ状況が掴めていない彼女に少し笑って、運転席から出て助手席のドアを開け荷物を持って手を差し伸べた。


「駐車場着いたから早く帰ろう?」
「あれ…私眠っちゃったんですか…?」


ようやく脳の回転が通常通りになって来たのかあたりを見渡して俺の手を取った姫ちゃんに自然と笑みが零れた。



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