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男子の借り物競走がもう間もなく終わりになり、ついに私の出番がきてしまう。
大きな噂にはならなそうだが、先輩の妹分を近くで見てやろう。と何故かわざわざ1年の待機所まで足を運んでくる先輩方がいたりで、ソコソコ注目の的にはなってしまった。
エステルや他のクラスメイトたちに励まされて、なかなか選手待機所へ足を運ぼうとしない私を見かねてマイコちゃんが強引に引っ張っていた。


「別にユーリ先輩ファンから目の敵にされてる訳じゃないんだからいーじゃん!」
「私はもっと静かに学園生活を送りたい…」
「まぁまぁ、そんなこと言わないで!しけた顔してるとお題変なの引いちゃうかもよ?」


言われてみれば確かにそうかもしれない、と両頬をパチンと叩いて前に向き直った。
女子の借り物競走の準備が終わったのかグラウンドに移動する様に指示されて、先ほどと同じ体育委員がテンション高くまた実況を始めていた。
マイコちゃんが私より先に走るので頑張れ!とエールを送り、行ってくるね!と笑顔で走っていった。
生徒の紹介が終わりスターターピストルが場内で響く。
マイコちゃんは足が速く、好調に走り出してあっという間にお題の箱まで辿り着いていた。
お題を見ている顔からしてエグいお題ではなかったようで、マイコちゃんは先生たちがいるテントの方へと走っていた。
女子のお題は優しいのかな…と安堵したいところだったが、お題を引いて固まってしまった子もいれば頬を赤くして困っている子もいる。女子だからといって優しい訳ではないらしい。


マイコちゃんは学年主任のデューク先生を連れて走っていた。
ギャルと寡黙な先生が手をつないで走っている。と言うビジュアルは新鮮すぎてある意味注目されている。
少しマイコちゃんは恥ずかしそうにしていて、お題は一体なんだったのだろうと思っていれば2位で見事ゴールしていた。


「下野さんのお題は、”憧れの先生”です!デューク先生とはまた少し意外ですね〜」
「いーじゃん!先生かっこいいじゃん…!」


赤くなった顔をパタパタと手で仰ぎながらマイコちゃんは私の方をみてピースしていた。
普通のお題でも結構恥ずかしい!頑張って!とエールを受けてまともなお題を全力で引こう。と心に決めた。


「お!ユーリ君の妹分ちゃんも出るんだね!」
「ちょ、そのネタまだ引っ張るんですか!」


生徒の紹介中に体育委員が私のことを見てニヤリと笑った。
執拗に視線が集まり始めたので、顔を隠せばピストルを持っていた先生が位置について!と始まりの合図を口にした。
ピストルが場内に響いて、それと同時に走り出せば、周りの人もなかなか足が早く負けじと腕を振った。
と、いっても本題はお題次第である。


「変なお題引きたくないなぁ…」


お題の箱の前で唾を飲み込んで意を決して一枚引く。すぐに開いてみれば紙に書かれた文字は
”担任の先生の服(身につけてゴール)”と書いてあり、すぐさま先生のいるであろうテントへ目を向けたが、いない。
さっきまでいたはずなのに何故!と見つからないレイヴン先生に少し苛立てば、エステルたちの応援が聞こえてその中に先生の声も聞こえた気がした。
チラッとクラスの待機所を見れば、先生はエステルと並んで私の方を見ていた。


「いたー!!!」


私が叫んだ途端、レイヴン先生は何故か身震いしている様にも見えて、私はその先生目がけて一目散に走り出した。


「お!姫ちゃんまさか!」
「残念ながら違います!先生、脱いで下さい!」
「姫!?急に何を言ってるんですか!」
「そうだぜ姫ちゃん!おっさん一肌脱ぐとはいったけどさすがにそんなみんなが見てる前では…!!」
「な!!なにいってるんですか!先生の服が必要なんです!」


恥ずかしがるエステルとレイヴン先生に、思わず私もつられて赤くなりそうになったけれど、お題の紙を2人の目の前に突きつけた。
先生がなるほど…!といそいそと私に白衣を脱いで渡す。


「いってらっしゃーい」
「頑張ります!」


先生たちに送られてゴールから離れている待機所の地面を蹴る。走りながら器用に先生から受け取った白衣を身につけてあたりを見渡せば、他の生徒はまだお題をクリアできていないようで頭を抱えている人が多かった。
今のうちに!と全力で走れば、白衣から先生の匂いがしてそれに包まれた自分ににやけてしまいそうになった。
なんとか無事にゴールできて一位も死守することが出来た。

私が引いたお題に体育委員は少し退屈そうにしていたけれど、私からしてみれば先生の服を身に着けていることもなかなかハードルが高い。
小柄な私に取って男性ものの白衣は大きくてロングのワンピースを着ているようだった。
走り終わって、給水所を寄ってからクラスに戻ろうとしたら、先生が給水所にいた。


「あ、先生!」
「姫ちゃんお疲れさま〜!いい走りっぷりだったね!」
「お陰で一位獲れましたよ!」
「俺は少し残念だったけどね?」
「え、なんでですか?一位なのに?」

肩をすくめて先生が困った様に笑ったので首を傾げれば、先生は私の目線に合わせて屈んで私の頭の上に手を置いた。

「どうせなら服じゃなくて俺が必要だったらよかったのにな〜って思ったわけ!」
「そ、それは…」


なんてね!と私から手を離して立ち直した先生はヘラりと笑って私に背を向けた。
私は先生が言ったことをどう処理していいのかわからず、白衣を慌てて脱いで先生に手渡した。


「は、白衣ありがとうございましたっ!!ちょっと汗かいちゃったからアレかもしれないんですけど…!私戻ります…!!」
「あ、うん。お疲れさま〜」


先生に背を向けて私が走り出せば、後ろから衣擦れの音が聞こえたので先生は白衣を身に着けたんだなと思い、さっきまで纏っていた先生の匂いが少し薄れてしまったのに胸がキュっとなった。



△△△


「耳まで赤くしちゃってかわいーのなんの…」


姫ちゃんの背中が小さくなったのを見届けてから俺はポツリと呟いた。
にしても、生徒相手に本音を伝えてしまっている自分に少し笑みがこぼれて、思わず片手で顔を覆った。

下手なお題を引いて、自分以外の人間を引き連れてゴールしなくてよかったとつくづく思ってしまった。
ただでさえ、男子の部の時にユーリが姫を抱えて走っているのを見ているのは少し気が気じゃなかった。


「ほんと、結構ヤバいかも…」


数分間しか身にまとっていなかっただろう白衣から微かに彼女の匂いがして、高揚した。
そう思うのが自分だけじゃないといいな。と俺は思った。



▽▽▽



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