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アレから数週間、体育祭に向けての練習あった。
私とは違って、渋々参加した声のトーンが高めのギャル”下野マイコちゃん”とも仲良くなった。
そのきっかけと言っては、練習中に借り物競走のお題がシビアなものだと知らなかったとボヤいた時に
”高瀬ちゃん勇気あるなーって思ったんだよねー!知らなかったのはドンマイ!”
と明るく宥めてくれたのは彼女だった。
バレーも一緒なこともあり話すことも増えて、彼女はとても取っ付きやすい子だということが分かったし、何よりギャルの見かけとは裏腹に実はバレーは小学生の時にみっちりやっていた。なんて過去もあるから2日目のバレーでは力を発揮してくれそうだ。
何より練習がとても厳しかった。


体育祭の練習に明け暮れていればあっという間に当日を迎えてしまった。
選手宣誓の為にフレン先輩が壇上に上がり、開会式がスムーズに終了すれば各クラス割り当てられた待機場所へ移動してミーティングも行った。
最初の種目は徒競走で、私の出番はしばらく後なこともありエステルは広場でストレッチを提案してくれ、先に向かっていると言われたので追いかけようとすれば
気だるげに壁にもたれてグラウンドを見つめていた先生と目が合ったので足を止めた。
他の先生たちは普段の装いとはちがくジャージを着ているというのに、目の前にいるレイヴン先生は普段と変わらず白衣に動きやすそうな私服のままだった。


「先生はその格好のままなんです?」
「ん?おっさんの格好どこか変?」
「いや、他の先生はジャージだけど先生はいつも通りじゃないですか」
「あーみんないつもスーツとかだからねえ、おっさんはこの格好でもなにかあったらすぐ走れるし大丈夫よ〜
それにしても姫ちゃんてば借り物競争なんて出ちゃって大丈夫なの?」

どうやら先生もお題の内容を知っていてそれなりに私のことを心配?してくれているようだ。
と、思いきやヘラリと笑いながらまた口を開いた。

「ま、もしも“好きな人”なんて出ちゃったらおっさんの所に来てくれてもいいのよ!」
「なっ!」
「おっさんと姫ちゃんの仲だし姫ちゃんのためなら一肌脱ぐわよ!」

私が一番出たら困るお題はまさにそれで、ましてやその解答になるのは今自分でふざけて志願して来た先生なのだ。
私の反応を楽しむ様に返答を待っている先生に、顔に熱が集まる前に
そんなお題は意地でも出しませんから!と一喝してエステルの元へ走り出そうとした。


「残念だねえ」


普段と声色の少し違った先生の声に振り向いてしまいたくなったが、赤く染まってしまっているだろう顔を隠すために振り返らず聞こえない振りをして走った。



△△△


ストレッチを終えてグラウンドに戻ってくれば丁度玉入れに出場する生徒の待機場呼び込みが始まっておりエステルに頑張れ!とエールを送って見送った。
玉入れは一斉に行われることもあり、その次の騎馬戦の選手も呼び込まれているようだ。
たしかユーリ先輩も出るはず…。


徒競走が終わり玉入れが始まった。クラスの待機所でエールを送っていると、なにやら他の女子たちがソワソワしていることに気がついた。
みんな応援しているというのになんだか目線はグラウンドと騎馬戦の待機所を行ったり来たりしている。
首を傾げて、視線の先を辿れば
屈強な男子のなかに一際目立つ男子生徒がいた。線は細いが鍛えられ引き締まった腕がまくり上げられた袖から覗いていた。
黒くて長い髪を一つに束ねハチマキを頭に付けたユーリ先輩がおり、女子がソワソワしている正体はよく知る先輩そのものだった。
ああ、なるほど。と少し笑って一生懸命玉をカゴに投げ入れているエステルにもう一度エールを送った。


玉入れが終わって騎馬戦の選手たちがグラウンドへ進めば、黄色い声が増えた気がした。
ユーリ先輩もだけれど、騎馬戦で馬に乗るであろう選手は線が細く引き締まった所謂細マッチョのイケメンが多い。
どのクラスの女子も前のめりになっており後ろの方で傍観しているとエステルが戻って来た。


「エステルお疲れさま!いっぱい入れてたね!」
「はい!なんとかいい感じにポイントを稼げました!」
「それにしてもどのクラスも騎馬戦になった途端女子の目線がすごいんだけど…」
「あぁ…ユーリも出てますし、騎馬戦盛り上がりますからね!」
「うちのクラスの子たちユーリ先輩応援しちゃってるんだけど」


ハハハとエステルと苦笑混じりに騎馬戦を見つめていれば、ユーリ先輩は着々と他のクラスのハチマキを回収しているようだった。
うちのクラスも一年生ながらに大健闘しているようで、たくさん騎馬があったはずが、残るは3組になっていた。


「うわ!ユーリ先輩うちの山田君狙ってるよ!!」
「山田君応援しましょう!!!」
「がんばれー!!ユーリ先輩のハチマキ取っちゃえー!」


私たちの応援が聞こえたのかどうにか劣勢を逆転しようとした山田君は不意をつかれてユーリ先輩にハチマキを取られてしまった。
私たちの声が聞こえていたのか、ユーリ先輩はニヤリとこちらを見てすぐに向き直って最後の騎士のハチマキを獲得して見事騎馬戦で優勝していた。


△△△


お昼休憩になったので、先輩たちと合流してエステルが家から持って来てくれた豪華なお弁当を囲んでいた。


「姫、お前さっき俺のハチマキ取れー!とか言ってただろ?」
「えっ、聞こえてたんですか!?」
「ばっちり聞こえてた。」
「だからユーリこっちを見たんですね…!大人げないです」
「まず俺は大人じゃない」
「ユーリは意地悪だね」


フレン先輩が困った様に笑うのでユーリ先輩はフンと鼻を鳴らしていた。
私はこのお昼休憩が終わらなければいいのに…と内心思っていた。


「さて、昼休憩後は問題の借り物競走だな」
「それなんですよ…来てしまった…」
「ま、まぁ先に男子からだから…」
「姫もユーリも変なお題引かないといいですね…」


祈ったところで時間は止まることはなく、お昼休憩は終わってしまった。



△△△


借り物競走男子の部が始まり、何故か今までゴールの近くにはいなかったはずの体育委員がマイクを片手に待ち構えている、ご丁寧にテンション高く実況までしている。
グラウンドを半分くらい走ったあたりで、問題のお題が入っている箱を神妙な表情で一枚手にとって開いた瞬間に男子生徒たちが一喜一憂しているのを見る限りロクなお題が入っていないのだろう…。
お題にそった目的のモノや人を連れてゴールすればマイク片手に体育委員がお題の内容を発表する。
第一走者でゴールした3年生の先輩は運良く”恋人(もしくは好きな人)”のお題を引いたらしく堂々と恋人を連れてゴールしていた。
自分の出番は男子が終わってから、お題を交換してと準備があるためしばらく先なためエステルとクラスの待機所で見ていた。


「エステル…どうしよう…」
「姫…!もう始まってしまったんですから…!ほ、ほら今からユーリが走りますよ!」


私をエステルは励ましながらグラウンドを見る様に促すので先輩がどんなお題を引くのか見届けようと思った。
ソワソワしている人も何人か見受けられる。ユーリ先輩のお題によってはもしかしたら自分が一緒にゴールできるかも…なんて思っている人もいるんじゃないどろうか。
体育委員がテンション高めにユーリ先輩たちを紹介して、スターターピストルの音が響いた。

ユーリ先輩はずば抜けて足が早く、大幅に差を付けてお題の箱へと手を入れた。クラスの女子の息を飲む音が聞こえる。
紙を開いたユーリ先輩が一度片手で頭を抱えた。


「あ、あんまり良い感じのお題じゃなかったのかな…」
「なんだか、すごいキョロキョロしてますね…」
「ん…なんかこっち向かってきてない…!?」


気のせいではないのだ、キョロキョロとあたりを見回した後に明らかに私たちを見つけた途端一目散にこちらに走って来ているのだ。
キャッキャッと私かも!!!と女子は歓喜の声を上げているのとは別に、私は先輩と帰った日のことを思い出していた。


「なんかエグいお題来たらお前連れて行くわ」
「御免被ります!」


私はそういったはずなのだけれど、着々と近づいてくる先輩は明らかに私をロックオンしているのだ。
エステルもそれに気がついたのか何故かソッと私と距離を取っている様に感じた。


「嘘でしょ…!!!」
「おい!姫行くぞ!!!」


1年C組の待機所前で先輩は止まると、他の女子生徒がキャッキャッと騒ぐのに見向きもせず私に、逃げるな。と言っているようだった。
私の名前を呼んだ途端女子の目の色が変わったので一気に肝が冷えた。
だから勘弁してほしかったのに…


「お前にぴったりのお題だからだよ!」
「一体なに引いたって言うんですか…!!って、うわぁ!!」


エステルの影に隠れようとした瞬間に、ユーリ先輩は私を軽々と抱えて走り出した。
お姫様抱っこされてしまったので、攫われた気分で先輩の肩の上に顔を置いてクラスの方を見れば、クラスの女子が不満そうに”やっぱりあの2人付き合ってるの!?”とエステルに問いかけていた。
違うんです、誤解です…!!
学園で人気なユーリ先輩が女子生徒をお姫様抱っこしてグラウンドを走っているのだ、先輩どころか私にまで目線が集中する。
もういやだ。と恥ずかしさに耐えきれずに顔を隠せば、大丈夫だからゴールまで待ってろ。と宥められた。
体育委員テンションも高く、学園の女子で失恋する女子が続出なのでは!?なんて実況している。本当に勘弁して欲しい、顔を隠している時ふと先生たちが集まっているテントの方を見るとレイヴン先生が目を丸くして私を見ていた。
非常にいたたまれない。


「先輩…!せめて下ろして…」
「すぐ後ろ走ってるヤツ陸上部だから姫下ろしてる間に抜かれるだろ!」
「あぁ、もう…!」


私の懇願も虚しく、先輩は見事に私を抱えながら1位でゴールをした。
悲鳴や歓声なんかも聞こえるのでどんな顔をすればいいのか分からず下ろしてもらった後も俯いていると体育委員がユーリ先輩からお題の紙を受け取って読み上げた。


「学園の人気者ユーリ・ローウェル君が引いたお題はーなんと!
”妹(もしくは妹にしたい人)”でしたぁ!ちなみにこの子は…」
「1年C組の高瀬姫だ。妹分みたいなもんだし、問題ないだろ?」


得意げにマイクに向かって言う先輩の言葉に女子たちの安堵の声が聞こえたのは紛れもない事実で、私自身もはあ、とため息が出た。


「そうならそうと言って下さい…!!」
「逃げそうだったから強硬手段に出ただけだ。」


先輩と在らぬ噂が立つようなお題ではなかったので良かったと思いながら、着々近づいてくる自分の番が怖くて怖くてたまらなくなった。



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