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学校が始まって9月。夏休みボケからやっと抜け出した。
授業もやっと苦ではなくなって来たのに、9月末にイベント好きのこの学園は2日間の体育祭を控えていた。
先生から体育祭の案内を聞き学級委員が代表として教卓の前で体育祭の競技を黒板に丁寧に書き出していくのを私はぼーっと見つめていた。
2日間ある体育祭はなんと、1日目は徒競走や、玉入れ綱引きだとかの運動会おなじみの競技ばかりで、2日目は球技がメインのイベントごとらしい。
両日ともに必ず団体競技以外で1種目ずつは出なくてはならないらしく、何にしようかと悩んでいると斜め前からエステルが爛々と目を輝かせて私の方を見つめていた。


「エステル、いつになく楽しそうね」
「はい、みんなで楽しめるイベントがあるのは毎年嬉しいです!」
「エステルは何に出るの?」
「私は玉入れとバスケに出ようと思っています!姫はどうしますか?」
「うーん、借り物競走?とかかな球技はそんなに得意じゃないんだけど強いて言うならバレーかなぁ…」
「姫足は速いですもんね!」


教卓の前にいる学級委員が挙手制で希望の競技を聞いているのでそれに合わせて手を挙げれば、希望通り借り物競走とバレーの選手にスムーズになれたようだった。
ただ、借り物競走の選手を決める時に妙に先生や学級委員から視線を感じたのはなんだったのだろうか。



△△△



「そういえばお前らは何の競技にでるんだ?」
「私は玉入れとバスケに出ますよ、ユーリとフレンは?」
「僕はリレーとサッカーに。ユーリは結構みんなから勧誘されていたよね」
「あぁ。結果、騎馬戦とリレーとバスケだったか?あ…あとは借り物競走か…
何に出るのか声かけられすぎて忘れそうだ」
「ユーリ先輩人気者ですね…さすが」
「ユーリは頼まれたらなんだかんだで断れないからね…!そんな姫は何に出るんだい?」
「私は借り物競走とバレーですよ!」


エステルはニコニコとしているままだったが、ユーリ先輩とフレン先輩はお互いに顔を見合わせて困ったような顔をしているので首を傾げれば、耐えきれずにフレン先輩が口を開いた。


「あー…えーっとね…借り物競走って姫自ら立候補したのかい?」
「はい?そうですけど…」
「まあお前は編入生だし知らなくても当然か…」
「え、え?なんですか!?」
「エステルもなんで教えてやらなかったんだ」
「え?借り物競走ってそんなにダメな競技でした?」


はあ、と分かりやすく先輩2人は頭を抱えて同時にため息をついた。
どうやら先輩たちにとって借り物競走にいい思い出はないようだ。
エステルはなんでしたっけ。と少し考え込んでいる。
なんだか少しだけ嫌な汗が出てきたのは暑さの所為だけではない気がする。


「うちの学園の借り物競走ってな…割りと告白の場だとか突飛なお題が多く出るもんだからヤケに注目浴びるんだよ」
「も、もちろん普通のお題とかもあるよ!去年はユーリ大変だったよね…」
「…あぁ、お前もな…」
「なんて紙引いたんですか…?」
「ああ!たしか”好きな人”!です!」


今までに考え込んでいたエステルが思い出した!と言わんばかりに万遍の笑みで会話に入って来て、ユーリ先輩は頭を抱えていた。
エステルが、借り物競走のお題の厳しさをうっかり忘れていました…。とあとに付け足したので私も頭を続けて頭を抱えた。


「エステル…早く思い出してほしかったよ…
ちなみにそれで先輩は誰をゴールまで連れて行ったんですか?まさかエステル!?」
「…僕だよ…」
「えぇ!フレン先輩?」
「そうするしかなかったんだよ…別に好きなヤツがいる訳でもないし、性別の指定はないんだから間違っちゃないだろ?」
「私は中等部だったので観戦してましたけどあの時からしばらくユーリとフレンは変な噂が立ちましたよね…
中等部でも持ち切りで私も質問されました…!」


なるほど…これは地雷な競技を志願してしまったようだ。どおりで借り物競走を立候補した人数がまばらで足りない分を学級委員がどうにかクラスメイトを丸め込んで参加させていた訳だ。
妙な先生たちからの視線も納得した…。
体育祭の話に夢中になっていれば丁度分かれ道で、そこからは普段通りにユーリ先輩と肩を並べて歩いた。


「そんな先輩にとって曰く付きな競技になんで参加したんですか?」
「さっきも話になっただろ…いろいろ勧誘されててわかったわかったって言ってたらハメられた」
「先輩優しいから断れなくなっちゃったんですね…」
「なんかエグいお題来たらお前連れて行くわ」
「御免被ります!!」


許さん、と先輩が軽く私の頭を小突いて笑うので、好きな人とか意外でお願いしますよ…と小さく呟けば
どうだかな?と先輩は頭の後ろで手を組んで笑った。




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