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一泊二日の旅行。
キーワードは青春。海で遊ぶだけ遊んで、夕日を5人で眺めて、そして私たちは今エステルの別荘に帰って来ていた。
台所では私を先導にエステルそしてレイヴン先生がいた。
時折後ろの方で心配そうに見つめるフレン先輩やつまみ食いをしようとするユーリ先輩をエステルと2人で丁重に追い払った。


「それにしても…」
「それにしてもですね…」
「あの…?」
「「エステル(嬢ちゃん)料理破滅的やしませんか!?」」


フレン先輩やユーリ先輩が時折心配そうに見ているのは紛れもなくエステルのことだ。
私は孤児院でも料理の手伝いをしていたし、今は一人暮らしだし、なんなら作るのは嫌いではない。
先生も一人暮らしが長いのもあって料理はお手の物だ。
そんななか綺麗にハモるほどに我々は頭を抱えていた。


「あははは…」
「エステル、料理が出来ないのは大丈夫、うんこれから何とかなる」
「でも、レシピ通りにやってるはずなのになんでこうなっちゃったの!?」


彼女は確かみんなで作って過ごしたいからお手伝いさんは連れて行かないと豪語していたのだ。
お手伝いさんを連れて行く提案をしていたフレン先輩と、何かを心配そうにしていたユーリ先輩の顔を思い出せば合点がつく。
決してエステルを責めたい訳ではない、頑張ってるし。
だがしかし、カレーを作っていたはずなのに一体大量にあったはずの鍋の水はどこに行ってしまったのか。


「よし、エステル!」
「はい…なんでしょうか…」
「今、先生に野菜とかお肉とか切ってもらってるでしょ?BBQ用の串刺しお願いしてもいい?
こっちは間もなく出せるようになるから、串刺し終わったやつから外で火起こししてる先輩たちに焼いてもらって来て!」
「わ、わかりました!!」


ふう。と一息つけば、先生がこちらを見ていた。
あらかた野菜と肉も切り終わったらしい。


「姫ちゃんやさしーのね」
「誰にだって失敗はありますから…」
「それ、どうするの?」
「これはカレーには作り替えれないので、変えます!あと明日の昼用でドライカレーもすぐ仕込めるので先生もエステルと串刺ししておいて下さい」
「あら、随分手際がいいこと!姫ちゃんはいいお嫁さんになるね!」


ヘラっと先生は笑って、あとよろしくね。と肩をポンと叩かれた。
いいお嫁さん…悪い響きではない…と言うかちょっと恥ずかしい。
顔が赤くなっているかもしれない、と思い黙々と料理に集中することにした。



△△△



「おーい姫!肉焼けたぞー!」
「あ、今行きます!」


先ほどのエステル作カレーを肉じゃがへアレンジさせて取り分けてみんなのいる外へ出る。
私が来るのをみんなは待っていてくれたようで、慌てて席につきながら、隣の席に座っているレイヴン先生の真ん前くらいに作り終えた肉じゃがを置く。
ありゃ。と私が自分の真ん前に置いたのが気になったらしく私の方に先生は目線を寄越す。


「先生肉じゃが好き?ですよね?」
「これってさっきの嬢ちゃんのやつから…?というかなんで知って…」
「えぇ!そんなことできるんですか!姫すごいです…!!」
「ま、材料は大体一緒だしな…」


ユーリは意地悪です…と少し落ち込むエステルを励ましながら、先生が肉じゃがを食べるのを待っていると、先生が更に取り分けて一口食べる。


「!!これ、いつものやつと…」
「正解です!先生いつも頼んでるって聞いてたし私も味付け好きで教えてもらったんですよ」
「これって姫のバイト先で出してる肉じゃがなのかい?とても美味しいね!」
「お!俺も一口!」
「私も食べます!」


材料は少しだけ違うが自分でも似せて上手く作れた方だと思っている。
みんなが美味しい美味しいと言いながら食べてくれるのが少し照れくさくて、先輩たちが焼いてくれた串焼きを頬張った。

「これはほんと、いい嫁になるわ…」

先生が真横で何かを言った気がしたけれどあまり聞こえず、みんなで談笑しながらご飯を食べた。


△△△


ご飯を食べ終わって片付けが終わった頃に先生が、やっぱり夜の海でやると言ったらこれでしょ!と車から花火を取り出して来てくれて、なんだかんだで先生も乗り気になってくれているようで少し安心した。
花火も終えて、エステルや先輩たちははしゃぎ疲れてしまったようでお風呂に順番に入って寝る。と別荘の中に入っていった。
私も先輩たちと相当遊んだはずなのだが体力を持て余しているのか、気が立っているのか、なんだかまだ眠る気には慣れず防波堤の上で海を眺めていた。

「こーら、女の子が夜に1人で出歩くなんて危ないでしょ」
「先生…」

後ろから知っている声が聞こえその人物を呼びながら振り返る。
先生は笑っているけれども少し神妙な顔をしているようにも思えた。
横、座るね。と言いながら先生が私の横に座る。


「なんだか前にもこんなことありましたね」
「そうね、あの時の姫ちゃんはほんっとおっさんに警戒マックスって感じでさ…」
「あの時のっていってもまだ2ヶ月前ですけど…」
「細かいことは気にしちゃダメ!
そうそう、肉じゃが!おっさん感動しちゃったわ」

暗くてあまりよく見えないが先生はなんとなく照れ笑いをしているようにも見えた。

「あ、それなら良かったです。一時はあの惨劇をどう回避するか…なんて思いましたけど…奇跡的に煮崩れなく残ってた野菜が、いい感じに火が通ってたので味付けして事なきを得ました!」
「嬢ちゃんも喜んでたし、ファインプレーね!」

先生は海を見ながら明るい声色で言っていたが、チラッと横目で見たときの先生は月に照らされてとても神妙な顔をしていると思った。
私が覗き見ているのに気づいたのか横目で先生の蒼い目が私を射抜く。

「姫ちゃん今日は泣いてなくて安心した」
「え…」
「前は泣いてたでしょ。今日はたくさん笑ってて安心した。
でも、この間は上手いこと言ってあげられなくてごめんね」

先生がいうこの間は、私が先生に過去の話をした時のことだ。と察した。
先生は私の返答を待たずにまた言葉を続ける。


「俺、姫ちゃんに聞いてもらいたいことがあるんだ」




▽▽▽



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