今日も天気は快晴。気温もちょうどよくて過ごしやすく、休日であればどこかにお出かけしたくなるような気候だ。
だが残念ながら今日は平日。学生は学校へ、社会人は仕事場へと行かなければならない。
そんな変わらない日々を送ろうとしている中、洗面所の鏡の中にいる私は少しだけ気分が上がっていた。
ドライヤーをして寝癖を直した毛先を指先でスルリとする。綺麗に揃えられた毛先に口元を緩めた。
実は昨日私は美容院で髪の毛を切ってもらったのだ。といっても少し傷んできた毛先を切っただけなので長さはそんなに変わらない。
言わなければわからないほどだが、自分はそれでもちょっとした変化に嬉しさを感じるのだ。
「あ、おはよう亜衣」
「げっ…なんでてめーが」
「おはよう綱吉くん。獄寺くんは…相変わらずひどいな」
通学してる途中、偶然綱吉くんと獄寺くんに会った。
「せっかく10代目と登校してたってのに…」
「…獄寺くんはいろんな意味で素直だよね」
「ま、まあまあ獄寺くん!人が増えたほうがにぎやかだし…!」
綱吉くんが慌ててなだめると、「10代目がそうおっしゃるのなら!」と獄寺くんの態度は180度変わった。この差はなんだ。
「今日の1限目ってなんだっけ?」
「確か今日は体育ですよ!」
「うげっ…最悪だ」
うわ、1限目から体育とかついてない。なんでそんな時間割を組んだんだろう教師たちは。
「女子は何やるの?」
「んーと、バレーだったかな」
バレーと言った瞬間、綱吉くんは少し青い顔をした。…前になんかあったのかな?
「おまえのことだからどーせ空振りでもすんだろ」
「そ、そんなことは…!…あるかもしれない」
「ああ獄寺くん!亜衣が落ち込んじゃったよ!」
「お、俺のせいなんですか!?」
他愛もないはなしをしながらいつものように通学路を歩いていく。学校が近付いてくるにつれて同じ制服を着た子たちも増えていく。
そろそろ学校だ。今日もまた風紀委員の人たちが校門の前に立ってるんだろうなあ。
心地よい風がなびいたことにより、髪が顔にかかる。それらを抑えるように耳にかけると、「あれ?」という声が隣から聞こえた。
「亜衣、髪切ったの?」
「え?」
私は驚いて綱吉くんのほうを向く。驚いたせいで数秒声が出なかったが、一つ一つの言葉を繋ぐようにして意識をそちらに向ける。
「う、うん。昨日美容院行ってきたの」
「あ、やっぱりそうなんだ」
「…切った?俺にはいつもと同じように見えるんすけど…」
そういいながら綱吉くんだけでなく獄寺くんまでこちらをじーっと見てくるものだから、私はとても逃げたい衝動に駆られた。
「えっと、…よくわかったね?毛先しか切ってないからほとんど変わってないと思うんだけど…」
私だったら本人から言われないと気付かないと思う。バッサリ切ったならともかく、本当に微妙な変化なのだ。
「うん。先週見たときはもうすこし長かったなって思ったし…それに、髪ももっと綺麗になってたから」
「っ、き…!?」
「じゅ、10代目…!?」
綱吉くんの言葉に私の心臓はきゅっと締め付けられ、顔は火照ってしまう。普段こんなこと絶対に言わない…いや、言えない性格をしていると思うのにたまにこうやってサラリとかましてくるものだから、全く構えることができない。
獄寺くんも獄寺くんで綱吉くんと私を交互に見ながら顔を赤くしたり青くしたりしている。
「、あ!ご、ごめん何か気持ち悪いこといったかもオレ!」
「ううん!そんなことは…」
傷んでいたから切った、ただそれだけの変化。それでも気づいてくれた、ほんの小さな変化なのに。
たったこれだけのことであんまり深読みはしたくないけど、それでも髪を切る前の私をちゃんと見ていてくれたんだなということに恥ずかしさと嬉しさが混ざり合って、なんともいえない気持ちになった。
いつから自分はこんなに乙女思考になったのだろう。この気持ちはどんどん大きくなっていき、さらに私の顔は熱くなるばかりだった。
「…あ、ありがとう…っ、」
「……!うん」
恥ずかしさで縮こまりながらもやっと絞り出した小さな声は、ちゃんと届いてくれたようだった。
ほんの小さな幸せ
「君達、」
「うわーっヒバリさんーっ!?」
「てめっヒバリ!くっそ!」
「そんなぁ!上げて落とされるなんて…!」
「…まだ何も言ってないんだけど」