格式、権力、規模…その全てにおいて別格であるのがボンゴレファミリー。初代から9代目まで続き、これから10代目が決まろうとしている中でオレは考えていた。
ここまで存続できたのはそれぞれの代のボスや部下の力はもちろんだがそれ以前にその代のボンゴレの在り方が記録として残っていたことにあった。全部が残っているわけではないがそれでもその記録の存在は維持のために必要不可欠。
これまでのボンゴレがいったいどういうものだったのか、どんなことをしていたのかがその記録を見れば一目瞭然なのだ。…その分、敵対するファミリーに狙われることも少なくはなかったが。

それは今回の10代目のときも同じ。これから先も存続していくためにこの役職は必要だ。ツナを含めてファミリーはある程度見つけたが…。

「記録係、か…」

ボソリと呟いた声は周りの騒がしい声によってかき消された。そう、ここはツナのクラスの教室だ。オレはちょくちょく学校に来てはツナたちの様子を観察している。山本や獄寺、ヒバリ、了平もこの並盛中で見つけた。となると記録係もできればここで見つけたいが…。
性別はどっちでもよかった。細かいところに気付くのは女が多いが、それが出来るのであれば男でも構わない。それから記録係はファミリー全員の成長の記録をとることになる。ということはどんな人間であっても馴染めるやつじゃないと困る。
あとは…そうだな、前提として授業を真面目に受けているやつ。文を書くことが仕事であり且つ後に本部にも送ることを考えると、授業をしっかり聞いてノートをとるということが出来ていないのは論外だ。

だがここで見ている限り、その条件に当てはまる人物は今のところいない。確かに真面目に授業を受けている生徒はちらほらいるが…。

教室内をぐるりと見回したところで授業終わりのチャイムが鳴った。昼休みか…。これ以上ここで観察していても無意味だと見切りをつけたところでオレはふと、とある生徒に目がいった。
ツナたちが屋上に行ってしまったようにほかの生徒も何人かはどこかへ行っている。教室に残っている生徒たちもそれぞれグループを作って昼食にしている中、一人だけ自席から動かずにその場で昼食をとっている女子生徒。
そういえば昨日も一人でいたな。だが誘いはわざと断っているようで、友人がいないというわけではなさそうだ。

ツナたちがいないのをいいことにその女子生徒をしばらく見ていたが、昼食を終えると机からノートを2冊取り出し、何やら黙々と筆をとっている。何を書いているのかはここからじゃわからないが、恐らく復習か予習だろう。
こいつは授業を真面目に聞いているやつらの内の一人だったはず。そしてこのクラスの中で唯一、遊ぶわけでもなく机に向かっている女子生徒。友人もいる、ツナたちとも同じクラス。
名前は確か…、"桐野亜衣"。

確定ではない、だがほぼ8割。あとは実際に話してみてどんなやつなのか確かめる必要がある。人を見る目はあるが、ツナたちと相性が悪いんじゃ話にならねーからな。
オレは赤ん坊の表情としてはあまり相応しくないような笑みを浮かべる。そろそろ昼休みも終わる頃だ。午後の授業が始まる前に…行くか。

「勉強熱心だな」

ノートからこちらに視線を向けたその双眸は、わかりやすく大きく見開かれた。


窓を開ける音

「く、…!栗!栗がしゃべってる…!」
「……」

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