1月1日、元旦。ここ日本では新年を祝う行事、つまりはお正月である。ある人は神社へお参りにいきおみくじを引いたり、またある人はお節料理に凝ってみたり、そしてまたある人は初日の出を見に山を登ったり。その家族や集まりによって新年の過ごし方にはばらつきがある。今年もいい年になりますようにという願いを込めてそれぞれ行事を楽しむのだが。


「つーことで、"正月行事盛り合わせ〜ボンゴレ式を添えて〜"を始めるぞ」
「意味わかんないから!何だよそれ!一人だけ袴姿で楽しそうだな!?」

髪型も紺色の袴もばっちりキメたリボーンくんが私たちの目の前でそう宣言した。
ちょっと集まってくれと招集されついた場所は夜中の山のふもと。綱吉くんたちだけでなく京子ちゃん、ハルちゃん、ビアンキさん、フゥ太くん、ランボくん、イーピンちゃん、そして忙しいはずのディーノさんやバジルくんまでもが勢揃いだった。

「初日の出を見に行くぞ。おまえらこれからこの山を太陽が登る前までに登れ、そしたらクリアだ。ツナは死ぬ気になってもいいが空を飛ぶのは禁止だからな」
「突然すぎるよ!何でそんなことになったの!?」
「まあいいじゃねーかツナ、この山登ったら結構体力つきそうだぜ!」
「野球バカには負けねー!10代目、こんなやつさっさと置いて頂上まで行きましょう!」
「なかなかいい修業になりそうだな!極限に燃えてきたぞ!」
「なんでみんなやる気に満ちてるんだよ!?ディーノさん、何とかできません!?」
「いや、リボーンの指示だからな…諦めろツナ!」
「拙者たちも頑張りましょう沢田殿!」
「何でこうなるのー?!」

綱吉くんの叫びも虚しくみんな一斉に走り出す。"死ぬ気に"とは言ったもののそれが解除されたあとの事を考えると絶対にパンツ一丁では風邪をひいてしまうため、やむなく普通に坂を駆け上がっていった。途中でハイパーのほうになったりするのかな。
そして私たちといえば向かった先はロープウェイ。なるほど、女性陣と子供は体力的に無理があるからこういうことになるわけなのね。ありがたいといえばありがたいけど、…いいのかな。



「あ、見てみて!あれお兄ちゃんたちじゃない?」

全員でロープウェイに乗り込み、ゆっくりと上がっていく景色を眺めていると京子ちゃんが窓越しに下を指さしていたので私もそちらに目を向けた。

「ほんとだ!そしてさすが了平先輩…先頭を走ってる…」
「はひー!速いですね…!頂上までもつんでしょうか?」
「これも修業の内なのね。きっとクリア出来なかったら…、」

ビアンキさんのボソリとした声に近くにいた私だけが気付き、その視線の先を追ってみるとそこにはリボーンくん。…あ、そうか、クリア出来なかったら何か罰が与えられるんだ…きっと綱吉くんたちは本能でそれがわかってるからあんなに必死なんだ。
「ツナ兄たちがんばれー!」とフゥ太くんやランボくん、イーピンちゃんが応援しているけど本当に日の出に間に合うんだろうか。…いや、間に合わせる気なんだ…。



山登り組よりもはやく頂上についた私たち。そこには小さな鳥居と売店、そして飲食スペースも確保されていた。頂上だから周りには景色を遮る障害物はないし、これなら初日の出を堪能できそうだ。
ひと通り見渡したところである一点に目が止まる。飲食スペースのところに座ってるのって、もしかして…。

「ひ、雲雀さん!?」

豪華なお節料理がテーブルにひとつ置かれており、それを食している雲雀さんがそこにいた。

「やあ、遅かったね」
「…え?いや、えと……え?な、何でここに?」

頭が追いついていない私がクエスチョンマークを浮かべていると、目の前の雲雀さんではなく後ろから小さな声が聞こえた。

「招集されたの…守護者だから。私は骸様の代わりで…」
「え、クロームちゃんまで!」

招集されたということはきっとリボーンくんの仕業だ。お正月だから守護者を全員呼んだのかもしれない。そうだよね、強制的じゃないと雲雀さんやクロームちゃんは来る確率が低いもんね…。仲間はずれってわけにもいかないし(群れるの嫌いな雲雀さんには申し訳ないけど)これもリボーンくんなりの気遣いなんだろう。
ただ、これからもっと人が増えるけど雲雀さんは大丈夫なんだろうかと心配したところでダダダッと坂を駆け上がってくる足音が聞こえてきた。

「や、…やっと、着いた…っ」

息も絶え絶えな綱吉くんたちは何故かところどころ擦れたような傷がついている。とくにディーノさんと綱吉くんと獄寺くんが酷い。山を登るだけなのになんでそんなに傷だらけ?

「綱吉くん、どうしたの?その怪我…」
「亜衣…いや、これは」
「実は途中で落ちそうになってな!」
「…え、落ち…?」

ははは!と笑いながらの山本くんに一瞬耳を疑った。どうやらみんなで駆け上がっている最中、足を滑らせたディーノさんが崖から落ちそうになり、それを助けようとした綱吉くんも一人では支えきれずに落ちそうになって、さらに獄寺くんも加勢したけど支えきれず、結果山本くんと了平先輩とバジルくんの力も合わせてなんとか無事に助け出せたみたい。…過酷すぎる。

「ギリギリだったが山登りはクリアだな、やったじゃねーか」
「何がやっただよ!こっちは死ぬ思いだったんだぞ!?」

年明け早々散々たる思いをしたようだ。


みんなが揃ったところで私たち女性陣は渡されたお節料理をテーブルに並べた。ここの売店で売られているもので、作りたてなのかほんのり温かい。黒豆や紅白のかまぼこ、だし巻き卵に海老、煮物とお節料理にはかかせないものが綺麗に詰められている。どれも美味しそうだ。
そんな中私はとある木の箱を持ってみんなのところへ行く。中にはたくさんの紙。鳥居に山登りに初日の出にお節料理とくればあとはもう一つ。

「はい、綱吉くんもお一つどうぞ」
「…これ、おみくじ?」
「うん、リボーンくんお手製のね。お正月にやること全部楽しもうってことで」

ちなみに私は小吉だった。喜んでいいのか悪いのか微妙なところを引いてしまってコメントは出来なかった。確か京子ちゃんは大吉引いてたな…なんて引きがいいんだろう。
「リボーンのお手製…?」とものすごく怪しんでいる綱吉くんだけど、配っているのは私だしどれを選ぶのかは綱吉くん次第だから細工は何も無い、はず…。
おそるおそる手を伸ばして一枚の紙を引き、それをゆっくりと開いてみせた。

「…あ!大…ッ凶!?」
「えっ、大凶?」

本当にそんなおみくじがあるのかと思い紙を覗き込んでみると、確かにそこには"大凶"の文字。綱吉くんの顔は真っ青である。

「えーっと…、"この先、不幸が訪れる。回避したくばボンゴレ10代目を継ぐこと"…だって」
「何でそんなピンポイントなんだよ!?リボーン!おまえ何か細工しただろ!」
「これはこれは、もう10代目を継ぐしかありませんな〜」
「その顔やめろ!」

リボーンくんはイタズラが成功したみたいな意地悪そうな顔でニヤニヤしている。綱吉くんからしたらたまったもんじゃないけど、ごめん、ちょっと面白い。

「引きが良かったのかな」
「良くないよ悪いよ…もう…」
「後で結んじゃえば大丈夫だよ!それよりそろそろお節料理食べよう?多分もうすぐ日の出…」

私がそう言いかけた時、暗かったあたりに一筋の光がさした。「あ…」と誰かが声を出したのと同時にみんなはそちらの方に顔を向ける。
夜でもない、朝でもない。みんながまだ夢の世界に旅立っている中、私たちだけが現実世界に立っている。東の空から昇るそれは空を、山を、街を、私たちを眩い光で染め上げながらゆっくりと顔を出す。…夜明けだ。

「うわあ、綺麗…!」

真冬の山の頂上、気温はすごく低いけど太陽が顔を出したことによって心があったかくなった。そしてその大きな存在はあっという間に街を彩っていく。すっかり明るくなったところで誰からともなく感嘆の吐息を洩らした。

「んじゃ、山登りもクリアしたしおみくじも引いたところで」

リボーンくんの声掛けにみんなが、特に山登りをした男性陣の表情がパァッと明るくなった。そうだ、あとはこの準備したお節料理を食べるのみ!

「ツナ、出番だ」
「え、オレ!?何すればいいの?」
「乾杯の音頭に決まってるだろ」

「10代目はお前だろ」という言葉に不満げな声を上げる綱吉くんだけど他に代わりもいないためしぶしぶ飲み物を取って上に掲げる。

「えっと…、あ、あけましておめでとうございます!今年もまた一年、よろしく…お願いします!乾杯!」

緊張してたどたどしげだけど、そこはノリのいい山本くんや了平先輩が「おおおーっ!」と盛り上げてくれたのでみんなも自然と笑顔になっていた。
当たり前だけどグラスの中身はお茶やジュース。それぞれ近くの人たちでグラスを合わせると、いい音があたりに響き渡った。
そこからはもうどんちゃん騒ぎ。女性陣はほんわか楽しそうにしているけど男性陣のほうはそうはいかない。とくにランボくんと獄寺くんあたりがさわがしい。ランボくんに食べ物を取られた獄寺くんが怒ったり、それを宥めようとした山本くん、そして便乗すると思いきや自然な流れで(無意識に)食べ物を横取りしていく了平先輩。さらに怒り出す獄寺くん。収拾がつかない…。


「やっぱりこうなるんだね…」
「あれ、綱吉くん。みんなといたんじゃ…?」
「どさくさに紛れて逃げてきたよ…」

まあ確かにあれに巻き込まれたらまともにご飯食べられないだろうなあ。あんだけ騒いでるのに少し離れたところで変わらずお節料理を一通り食べている雲雀さんは流石だ。でもたまに顔をしかめているし、そろそろトンファーを出してもおかしくない状況だと思う。

「綱吉くんはお節料理食べた?」
「ううん、ほとんどランボに食われて…」
「…なるほど。じゃあこれ食べる?」

私の前に置いてあったお節料理。まだ中身もたくさん詰まっているしここならばランボくんたちとは少し離れてるから取られないだろう。

「え、いいの?」
「うん、たくさんあるし。はい、どーぞ!」

無意識だった。目の前にあっただし巻き卵を箸でつかみ、それを綱吉くんの目の前に差し出すという一連の流れをさも当然のようにやっていた私は、綱吉くんが目を見開いて顔を赤くしながら「…えっ?」と素っ頓狂な声を出すまで気づかなかった。

「…あ、あれ!?わっ、ごめん綱吉くん…!」
「う、ううん大丈夫…!えと、せっかくだから、食べていい…?」

慌てて手を引っ込めようとしたけど、食べると言われてその機会を逃し私も顔が真っ赤になったのがわかった。え、このまま?…このまま、食べてくれるの?
食べやすい大きさに割っただし巻き卵のサイズに合わせてゆっくりと口を開ける綱吉くん。私は無意識とはいえ自分からやりだしたことに小っ恥ずかしくなってじんわりと身体中が熱くなった。
一時的に距離が近くなって箸を持つ手が震える。目を逸らしたいのに何故か出来なくて、その口元に目がいくのだ。うわあ…もう、何これ…!近いよ…、早く終わってぇ…!
一瞬だけ目が閉じれたときに食べられた感覚があったが、「あ!」という綱吉くんの驚いた声に私もおそるおそる目を開けると、さっきまでのススキ色の髪の毛ではなく真っ黒な髪の毛が視界に入っていた。

「んんむぐ…、やっぱうめーなお節料理は」

私が差し出した箸で掴んでいただし巻き卵を食べたのは綱吉くんではなくリボーンくんだった。しばらく反応できなかったが、ゴクリとそれを飲み込んだところでハッと我に返る。

「り、…リボーン!何して…!」
「おまえがもたもたしてるからだろ。美味かったぞ」
「…ッ、それはオレの…、っ、あああもう!」
「ガキだな」

年齢的にはリボーンくんのほうが圧倒的に下なのにこの慣れは何だろうかといつも疑問に思う。綱吉くんは悔しそうに顔を真っ赤にさせて嘆いている。私は私で恥ずかしかったのと、ちょっとほっとしたのと、ちょっぴり残念な気持ちと色々混ざって複雑だった。


お正月の行事をいっぺんに詰め込んだ一日。バタバタして忙しかったけど、こうやってみんなと過ごせることって中々ないから凄く嬉しくて、そして楽しかった。
私たちはマフィアだ。これから先こんな風に平和な日常が過ごせるかといったら否。けど、望みは持っていいと思うし捨てたくない。マフィアだけど、守るべき人たちを守るためなんだ、大切な人たちを失いたくないのだ。
また一年、苦しいことがあっても今日みたいに笑い合える日が来て欲しい、ふざけ合う日があってほしい。そんな楽しい日々を手帳に記録できますように。


大切な場所

「悔しいか?ツナ」
「う…、だ、だってそれは!」
「亜衣、もう一回"あーん"をやって欲しいみたいだぞ」
「言うな!!」

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