最初に彼女、桐野亜衣に出会ったのはいつだったか。屋上…いや違う、校舎裏にあるゴミ捨て場の近くだ。あのとき僕は校則違反をしていたあげく群れていた連中を始末していたからあんまり記憶には残ってないけど。
その次が屋上だったかな。彼女も咬み殺す対象にはなっていたけど、そこに落ちていた彼女のノートを見てその考えは変わった。パラ読みだったけど要点はきっちりおさえているし、テスト対策のためなのか見やすいノートだというのが分かった。群れているのは頂けないけど真面目に授業を受けている生徒だった。

僕にとって彼女は沢田綱吉とよく群れている女子生徒、その程度の認識だ。群れている者には嫌悪感を抱く。でも彼女に対してはあまりそう思うことは無かった。弱いくせに、戦うこともできず最初の頃は会う度に怪我を負っていた彼女。僕と話すだけで怯えていたのに見舞いに来たこともあった。
弱い奴は好まないし興味もない。彼女もその対象のはずなんだ。桐野亜衣は至って普通でどこにでもいる目立たない生徒だった。

それは10年経った今でも変わらない。自分が戦えないことに引け目を感じていてもやるべきことは最後までやりきる。人間として至極当たり前なことをしている彼女は本当にどこまでも普通だった。
今は懐かしい、10年前の姿になっている彼女。根本的なところは10年後と同じだけど、まだ悩み事がたくさんあるのか眉を顰める姿をよく見かけた。そんな彼女に何となく声をかければ、今はもうほとんど怯えることもなく応えてくれる。
小動物とは違う気がする。話していても群れているという感覚があまり無い。一緒にいても違和感がない。嫌悪感も抱かない。気付いたら僕のほうから話しかけるなんてこともある。今まで誰かをこんなふうに考えたことは無い。興味があるかないか、ムカつくかそうでないか。だいたいはこれで判断してしまうことが多いけど、彼女はどれにも当てはまらない。
そうだ、僕にとって彼女は…、


無題、無題、無題

「君は空気みたいだね」
「えっ、存在感ないってことですか…!」

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