※もしも雲雀さんと付き合っていたら設定で〇〇しないと出られない部屋。(ちょこっと大人な空気なのでご注意)




目覚めると真っ白な天井が視界に飛び込んできた…なんてお決まりのセリフが浮かんだけどここはどこだろう。寝っ転がっていたらしい私はゆっくりと上体だけ起き上がり辺りを見回すと、天井だけでなく壁も床も全てが白で統一された一つの部屋の中にいた。ドアや窓は無くとても圧迫感のある部屋に思わず身震いする。
部屋の中央には小さなテーブルが置いてあった。背景と同じくテーブルも真っ白なため、そこだけが立体的に見えるという何とも不思議で不気味な感じがする。

「…亜衣」

艶のある低音ボイスにふるりと心臓が高鳴った。振り向かなくても誰の声だかすぐにわかる。そしてこの訳のわからない現状に私ひとりじゃなかったという安心感に自然と目元が熱くなった。

「ひ、ひば、りさん…」
「ここ、どこ」
「わかりません…私も今さっき目が覚めたばっかりで」

雲雀さんも床に倒れていたらしく、起き上がって辺りをきょろきょろと見回していた。そして真ん中にぽつんと置いてあるテーブルを見つけると、コツコツと靴音を響かせながらそちらへと歩いていく。テーブルには紙切れが置いてあったらしく、雲雀さんはそれをしばらく眺めていた。

「何が書いてあるんですか?」
「……」
「…雲雀さん?」

何故か微動だにしないことを不思議に思っていると、雲雀さんはその紙切れをポケットに無造作につっこみ無言でトンファーを取り出して勢いよく目の前の真っ白な壁を殴り始めた。
急なことに私は「ひぃ…!」と小さく声を漏らすが、何度殴っても壁はビクともせず、それどころか亀裂すら見られない。そんなに頑丈なの、この壁。

「あ、雲雀さん!匣兵器ならもしかして…!」
「君を巻き込むことになるけど」
「炎を抑えれば…!」
「それじゃあこの壁は壊れない」
「ぐぅ…」

だめか…。じゃあどうすればこの訳分からない部屋から出られるんだろう。…でもさっきの紙切れにヒントとか書かれてなかったのかな?

「さっきの紙切れに何か書いてませんでした?」
「うん、書いてあった」
「…え!何て書いてあったんですか?」

なんだ、よかった…ちゃんと答えが書いてあったんだ。ホッとした私はパァッと顔をほころばせると、立つことすら忘れて四つん這いのまま雲雀さんにかけよろうとした。…のだけど。
何を考えているのかわからない、いつもの無表情のままこちらに歩いてきたので私の動きはそこで止まる。歩みを止めない雲雀さんに頭の中で警報が鳴り響いた私は、今度は尻もちをつきながらずりずりと後ろへと下がる。あ、これは…これはもう例のごとく…。
背中にトン、と壁があたった時点で私は察した。え、ま、待ってください。紙には何て書かれてたんですか。雲雀さんが無表情すぎて甘い雰囲気どころか咬み殺されそうな空気なのですが、もしかして私をやっちゃいましょう的なことが書かれてたんでしょうか!
無理、普通に怖い。これ以上視線を合わせることが出来ずにサーッと血の気が引いた私は肩を震わせながらぎゅうっと目を瞑った。

何かがするりと頬を撫でる感覚に私はびっくりして目を開けた。目の前には床に膝をついて私の目線と同じくらいになった雲雀さんが私の頬に手を添えていた。その手によって顔周りの髪の毛が避けられたためにいつもより視界がクリアになる。
伏せ目がちになったことで雲雀さんの長いまつ毛が目の下に影を作っていた。息がかかるほどに距離が近いのに、尚もゆっくりと端正な顔が近付いてくる。あまりの恥ずかしさにさっきとは違う意味で脈拍がはやくなった私はせめてもの抵抗の意味で雲雀さんの胸に両手を添えて押し返す。目なんか合わせられない。視線を下げて雲雀さんの胸に添えた自分の両手を見ることしかできない。

「…嫌なの?」

耳元で鼓膜を震わす艶かしい声色に全身を何か熱いものがこみ上げてきて、私の肩はビクリと震えた。両手も震えてしまい雲雀さんの服をぎゅっと掴んでシワをつくってしまう。

「あ…うぁ…、」
「なに?」

だめだ、言葉になってくれない。それでもちゃんと声を聞こうと私の耳元に顔を近づけてきたものだから、余計に服を握る力が強まる。
雲雀さんと付き合うことになってまだ日は浅いけど、それでもわかったことがある。この人は自分の容姿の良さをまるで理解していない。こうやって触れてくると私の心臓が持たないんです!

「は、…離れ、て…っ」

やっと絞り出した声は震えたり裏返ったりして散々なことになってしまった。まだまともに手を繋いだりも出来ていないのにいきなりこの距離は狡すぎる。恥ずかしすぎて熱を帯びて真っ赤になった顔をそのままに、視界にどんどん水の膜が張ってきた。
雲雀さんが怖いわけじゃない。もうどうにかなってしまいそうな、これ以上したらどうなってしまうのかわからない自分が怖いんだ。喉はカラカラに乾いているのに目尻に溜まった水は今にも零れ落ちそうだった。
私が今どんな心境なのか知ってか知らずか、雲雀さんは震える私の肩を抱き込むように腕を背中にまわしてきた。今まで以上に近付いてしまった。驚いて声も出せなくなってしまった私の耳元でフッと僅かに笑う声が聞こえる。

「…やだ」

まるでいたずらっ子のような言い方なのに、雲雀さんの口からその言葉を聞くと大人の雰囲気を感じてしまって、もう耳を塞ぎたくなった。
すると今度は肩にまわした腕とは逆の手が雲雀さんの胸元に添えていた私の手を取る。それだけでも身構えてしまって咄嗟に力を込めるけど、雲雀さん相手にそんな抵抗は無意味な結果になってしまった。
雲雀さんのしなやかな指が私の手の平をゆっくりとなぞる。そのくすぐったさと恥ずかしさに身をよじろうとするけど、肩にまわった腕がそれをさせてくれない。雲雀さんと壁に挟まれた私には逃げ道なんてなく、半分抱き締められた状態の中で必死に呼吸をするしかなかった。

私の短い呼吸だけが部屋に響く。この体勢のせいで雲雀さんの吐息が直接耳や首元にかかるものだからたまったものではない。いつまでこの状態が続くのだろうと思ったとき、手の平をなぞっていた雲雀さんの指が次第に指の方へと移動してきた。その意味に気付いた私はきゅうっと胸が締め付けられるような気持ちでいっぱいになる。
なぞっていた指はまたゆっくりと確かめるように私のそれぞれの指の間に絡んできた。指から伝わるその温かい体温にまたしてもぶわりとした熱いものが全身にこみ上げてきてしまう。
ああ、もうだめだ、もう…っ。目尻に溜まっていた水はいつの間にか頬を伝ってしまった。情けないなと自分でも思う。でも私はこういうのは初めてだったために、恥ずかしさと焦りと困惑と恐怖と色んな感情がぐちゃぐちゃになってしまった。
泣いてしまったら雲雀さんに迷惑をかけちゃうのに。雲雀さんを好きな気持ちは本当なのに、これではまるで嫌っているような態度になってしまう。違う、違うんです…これは…っ、

そんなとき、突然ガチャリと鍵が開くような音が聞こえた。

「ドア開いたよ、亜衣」
「…ぅえ?」

私からするりと手を離し立ち上がる雲雀さんに素っ頓狂な声をあげる。離れたことで熱くなった身体に僅かな風が通り抜け現実に引き戻される感じがした。え、ドアなんていつの間に出来たの…?鍵が開いたって、え…?
床にぺたりと座り込んだまま私は動けない。何が起こったのか頭が全く追いつけず、ドアと雲雀さんを交互に見つめては首をかしげた。そんな私に小さくため息をついた雲雀さんはポケットからさっきの紙切れを私に差し出してきた。そういえば何が書いてあったんだろうと覗き込むと、無駄に達筆な文字が並んでいた。

"ここから出るためには部屋にいるお相手と恋人繋ぎしてね!"

「……」

私は目を点にさせた。恋人繋ぎって最後にしたあれ…え?だんだんと冷静になっていく頭をフル回転させる。最初にトンファーで壁を殴っていたのは、本当にその方法でしか出られないのか確認するためってことだろうか。最後に恋人繋ぎというものをした、だから鍵が開いて出られたってこと?
え、待って…じゃああんなに至近距離になって緊張したり半分だけとはいえ、ぎゅーってされる必要は全く無かったと…?
怒りなのか羞恥なのか困惑なのか混ざりに混ざってすでに私の脳内はショートしそうだったけど、とりあえず目の前のこの人のせいなのだということだけは瞬時に理解してジロリと睨みつけた。

「ひ、雲雀さ…ん、あれ!?」

なんて言ってやろうかと立ち上がろうとしたところで足が動かないことに気付く。上半身は動くのに腰から下に力が入らないのか全く動く気配がない。え、何で!?いつまでも私が座り込んでいたことを不思議に思ったのか、雲雀さんはすでにドアの方へ歩き出していた脚を止めるとチラッと振り返ってこちらに歩いてきてくれた。

「…何、腰が抜けたの?」

そして再び私の前にしゃがみこみ顔を覗き込まれると、私はもう苦笑いしかできなかった。情けないにもほどがある。あんな恥ずかしいことを…そもそも手を繋ぐだけなら必要なかったはずなのに…!

「雲雀さんのせいです…!」

ムッとして口元を曲げながら文句を訴えれば、目を細めて「ふぅん…?」と零す雲雀さんの指が私の腰付近をするりと撫でた。曲げていた私の口は簡単に開き、そのゾクゾクとした感覚に「ひ、んぅ…っ」と自分のとは思えないような甘い声が漏れてしまい慌てて手で口を押さえた。やだ、何今の声…!
絶対変に思われたと思っておそるおそる雲雀さんの表情を伺うと、珍しくその目は少しだけ見開いていた。でもそれは一瞬ですぐに形の良い唇は弧を描いていく。

「米俵と横、どっちがいい」

何の話ですか。脈絡のない言葉にわけがわからず、混乱し続けている私の目からはまた涙が溢れ出てきて頬に零れ落ちる。震えながら何も言えない私に雲雀さんは少し息を吐くと私の頬に手を添えた。してることはさっきと同じなのにその手付きは酷く優しい。そして流れ落ちる水滴を下からなぞるようにして、目尻に溜まった涙も一緒に指で拭ってくれた。

「亜衣にはまだ早かったね」
「……?」

何がだろうか、もしかしてさっきのことだろうか。それについては大きく頷いてやりたいです。本当にどうなってしまうかわからなくて、すごく怖かった。でも不思議と嫌な感じはしなくて、もう少し触れられていたい気持ちもなくはなかった。ただ、今の私はそれ以上に恐怖心の方が勝っていたためにこんなふうになってしまったのだけど。

「ほぁ…っ!?」

下を向いていると突然視界がグラつき目線が高くなった。何事だと思って目をぱちくりさせていると、自分の膝裏と背中にまわった腕の体温にだんだんと現状を理解していく。こ、これって…お、お姫様抱っこ…!さっき米俵っていってたの、もしかして担ぎ方の話…!?

「腰抜かしてて歩けないんでしょ」

なんて恥ずかしい理由で恥ずかしいことをされているんでしょうか私。まだ顔の熱も冷めていないのに、少しでも顔をあげれば雲雀さんの端正な顔が近くにあるために私はどうしようもなくて、雲雀さんの胸元に顔を埋めるしかなかった。
でも、やっとこの意味のわからない部屋から出られるんだと思うと少しホッとしたような、それでいてちょっぴり寂しいような気持ちになった。まだ熱に溺れているみたいだ。

雲雀さんはどうしてあんなことをしたんだろうか。この人は言葉じゃなくてほとんど行動で示すような人だ。今までこういうことはしたことがなかったけど、これからも何か伝えるためにこんなことをされ続けていたら私はそのうち熱でも出す気がする。出来れば言葉でも伝えて欲しいんだけど…。

「先が思いやられるね」
「…え?」

上から降ってきた声に胸元に埋めていた顔を僅かに上げると、顔をこちらにむけた雲雀さんと至近距離で目が合った。「…ねぇ、」と問いかけられ私の肩はまたビクリと震える。何を言われてしまうんだと身構えるけど今度は視線を逸らすことをさせてくれなくて。ゆっくりと開いていく口元に、私を捕らえて離さない視線に脈拍がはやくなった。

「いつキスしてもいいの」

何の音もしない真っ白い部屋に雲雀さんの艶かしい声だけが静かに響き渡り、私の鼓膜を甘く刺激する。もう本当にダメだ、限界だ。私は雲雀さんの腕の中でクラクラと目眩がした。


よこしまな純粋

「雲雀さああんんん」
「うるさいよ。で、いつ」
「うぅ…うぐ…んんん〜〜…!」

BACK

- ナノ -